ヘルクレス座の巻




ヘルクレス座は、梅雨明けの夜空の天頂に君臨するれっきとし た夏の星座です。でも、夏の星座といえば七夕の織り姫彦星を持つ琴座やワシ座、白鳥座などが真っ 先に思い浮かんできて、ヘルクレス座にあまり「夏」というイメージがありません。
ヘルクレスはギリシャ神話最高の英雄といって間違いない存在で死後オリンポス山に迎えられ神様に なるほどの人物(?)です。でも、その星座は大きさはともかくも、3等星以下の星ばかりで作られ ていて、しかも逆さま!プレアデス姉妹を追いかけ回すなどけして素行の良くないオリオンが1等星 を2個も持つ星座として燦然と輝いているのとはずいぶんな違いです。
ヘルクレスはあの化け鯨を退治してアンドロメダ姫を救った英雄ペルセウスの孫娘の子どもであり、 同時に神々の王ゼウスの子どもでもあるという設定。おかげでゼウスの妻ヘラからは絶えず命を狙わ れ、すんでの所でゼウスに救われるということを物語の中で何度も繰り返されます。 また、彼自身は何不自由ない暮らしを約束する「豊穣」の女神の教えより、「有能」の女神のしめす苦 行の道を選ぶ偉さを持っていたことも押さえておきたいポイントです。
その選び取った12の苦行とは、つまりそれはメネアの森のライオン退治に始まるギリシャ神話の12 の大活劇。また、そのそれぞれの苦行の旅の途中ではさらに細かな物語が登場し、まるで水戸黄門漫遊 記のような長い長いお話となっています。しかし、そのお話は単純な勧善懲悪のお話ではなく、ヘラの 策略に乗ったとはいえ、ヘラクレスは自分の奥さんや子どもを殺してしまったり、女性としての生活を 強制されたりといった、ありとあらゆる精神的、肉体的苦痛を体験するという大変複雑で高度な哲学的 な物語となっています。
この星座には、全天随一の球状星団M13がドカッと座っていて、時と してこの暗い星ばかりの星座の名前がかすんでしまったりしています。


豪華な主星=α星
とにかくまずは、主星α星を視野に入れてみましょう。3等星の主星ですが、冒頭お話ししたように逆 さまにされた星座ですから星座のいちばん南側に位置していて、ちょうど南隣のへびつかい座の頭を飾 る主星(α=ラサールハゲ)と並んで輝いています。色は豪華な金色と青白色といわれますが、実際に は明るい方の星の金色が暗い方の色を飲み込んでしまっているようであまり色の違いが感じられません 。写真は倍率を上げて、なんとか伴星の色が判るようにしてみました。 しかも1等級ほどですが明るさが変わる星としても有名で、実際太陽の500倍もある超巨星だと考 えられています。また中国では昔から天帝の玉座の星と考えられ、この付近で起こる天文現象(彗星や 超新星など)は皇帝の吉兆を占うものとされて特に注目されていたといいます。こういった意味でもこ のヘルクレス座、洋の東西で共通な重要な場所と考えられていたことが伺い知れますが、その理由が何 か今ひとつ分かりません。どなたかご存じな方おられませんか?。



4個の星に囲まれて燦然と輝くδ星
δ星は、α星の北に続く星で、星座ではリンゴの木を持つ腕の肩口にあたります。
望遠鏡で眺める3等星はなかなか明るく、周囲にある4個の星が作る十字形の中央で輝いている姿は題名の とおり“燦然”と言ってけしていい過ぎではないと思います。そして、その明るいδ星の光に埋もれそうに なりながらチマッと光っている小さな伴星もまた印象的です。
δ星の色は白、伴星の方はやや赤みを帯びて見えますが、写真に撮るとどちらも同じ色に見えます。これは 明るさの差が大きいためそのように見えるだけのようです。



微妙な色の対比を楽しむ=95番星
δ星からさらに東に伸ばした腕に握られているリンゴの木。95番星はその実のひとつといえましょう。
星座絵のヘルクレスは12の苦行の最初であるメネアの森で退治したライオンの毛皮をまとい、12の苦行 の最後である神々の庭園に植えられていたリンゴの木をその一方の手に握っているというわけです。このリ ンゴの実は黄金で食べた者は不老不死になると言われています。
この95番星は、ほとんど同じ明るさのに重星ですが、その色が微妙に異なります。一方が黄色っぽい色、 もう一方が水色っぽい色。どちらも「っぽい」という感じだけでなかなか確信が持てません。気持ちをリラ ックスさせて、このわずかな色の違いを見極めるのも「お茶」や「お香」に通ずるハイレベルな楽しみかも 知れません。



忘れられてしまいそうなメシエ天体=M92球状星団
メシエ天体は昔メシエさんという天文学者が彗星と間違えやすい星雲や星団をリストアップし一連番号を付 けたものでM○○番と頭にMの字を付けて表されます。冒頭ご紹介したこの星座にある超有名な球状星団M 13もそのひとつ。M31がアンドロメダ大星雲。M42がオリオン座大星雲。そしてM45がプレアデス 星団・・・と並べると、なんだかM天体は明るい星雲星団の代名詞のような感じがしてきます。実際メシエ さんは5pくらいの望遠鏡でこの天体リストを作ったと言われますからけして正しくないわけではありませ ん。でも、中には5pの望遠鏡では見えそうもないようなものもあっていろいろな推測を呼んでいます。
星座の北側、ひざまづいたヘルクレスの足下にあるこのM92は、5pの望遠鏡では本当に彗星のように見 える“模範的M天体”。あのM13の北東10度ほどのところにあり、M13と同じように星がおにぎりの ようにボール状に集まった球状星団の仲間です。なのに、M13に感激したあとこちらに寄ってくれる人が どれくらいいるでしょうか?大きな望遠鏡で見た姿は、M13よりはやや淡いものの、大きさも見応えもな かなかのもの。ぜひそのふんわりとした柔らかな姿を楽しんでいただきたい球状星団です。







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