琴座の巻



琴座はギリシャ神話に登場する琴の名手オルペウスの竪琴(たてごと)が星座になったものといわれています。
風さえも聞き惚れて吹くことを止めるというほどの琴の名手オルペウスが、亡くなった愛妻のエウリディケを 冥府まで迎えに行き、奏でる琴の音で冥府の王様に妻を連れて返ることを許されます。しかし、地上に出るまで けして妻を見てはいけないという約束を破ったため、エウリディケは再び冥府に戻されてしまうという、 ちょっと悲しい愛の物語は有名です。
この竪琴を「発明」したのは、実は泥棒の神ヘルメスだったといわれています。ヘルメスは神々の王ゼウスと マーヤというニンフとの間に生まれた子どもで、生まれ出たその日に近くにいた亀を殺し、その甲羅 で作ったのがこの竪琴でした。そのすばらしい音色が気に入って欲しくなった兄の太陽の神アポロンに、神の 仲間入りさせてもらうことと引き替えにこれを譲ります。その結果アポロンは音楽の神ともなります。
神の仲間入りをさせてもらったヘルメスの役目は、亡くなった人々を冥府に案内することでした。実はオル ペウスがエウリディケを冥府から連れ戻す途中振り向いてしまったとき、そのエウリディケの手を握っていたのは このヘルメスで、彼がそのまま彼女を冥府に連れ帰ったのでした。

この星座の主星ベガは、日本からは見えない南天の星も含めた中でも4番目の明るさを誇ります。また、中国や日本では 七夕の星「織り姫」として親しまれています。

この星座を有名にしているのは、この織り姫星=ベガと、星の図鑑などでは必ずといって登場する煙の輪のような 形をした「リング星雲=M57」でしょう。M57は、昔星が大爆発をしたとき周りに吹き飛ばした塵で、5〜6p クラスの望遠鏡でも、穴の空いたドーナッツ型を見ることができます。

琴座のみっつのダブルダブルスター
ダブルダブルスターとは、日本語なら二重二重星。つまり二重星が二組並んで見えることを言います。

このダブルダブルスターでもっとも有名な星は、やはりベガの北東に輝いているε(イプシロン)星でしょう。 この星は5p以上の口径で100倍前後の倍率をかけると分かるという、望遠鏡の性能を試す テストスター的な星です。低倍の双眼鏡では2個の星に分かれ、倍率を上げて行くとそれぞれが さらにほぼ同じ明るさの2個づつの星に分かれ、さらに口径が増すと、同じくらいに見えていた星の明るさが 微妙に異なっているのが分かってきます。(写真では、星がのびたようにしか写っていません)

もうひとつのダブルダブルはη星
3等の明るい星でベガから真東に7度ほど行ったところにあります。 η星自身は明るい不等光の二重星ですが、よく見ると同じ視野の中にもう一組、 暗い等光度の二重星があるのが分かるでしょうか?。 暗い方は15pだとはっきりするのですが、口径が小さいと見えないかも知れません。
写真左下に写っている星とセットでご覧ください。

みっつ目のダブルダブルはΣ2470と2474です。
星図の中には二重星の印しか書かれていないものもありますので、 念のためおおよその位置を言いますと、19時10分、北緯35度のあたりでしょうか。 やや斜めに縦に並んだふたつの星がそれです。
こちらのダブルダブルは、中〜低倍率でも分かれる見やすい星です。 こちらも同じ視野に入ってくる孤立星と合わせて5個の星の輝きをお楽しみください。

このほか、バブルダブルではありませんが、星座の中心を構成する平行四辺形の中の、 β星やδ星も明るい星が組み合わさった多重星系を構成し、なかなか見応えがあります。


超無名なM天体=M56
琴座は小さな星座ですが、比較的明るい星雲星団のリストである「M(メシエ」番号の 付いたものがふたつあります。ひとつは冒頭でご紹介したM57ですが、もうひとつはM56。
番号こそひとつ違いですが、M57が超人気スターなのに対して、こちらはどんな種類の天体なのかさえ 知る人も少ない超無名なM天体といえるでしょう。このM56は実は球状星団なのですが、 あまり明るい方ではなく、ふんわりしたまあるい形に見えるのが普通の見え方でしょう。




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