第6回双眼鏡・望遠鏡サミット雑感 

<双眼望遠鏡について見たこと考えたこと>
2003年11月11日


  2003年10月24〜26日、愛知県東栄町で開催された「第6回 双眼鏡・望遠鏡サミット」にマツモト式双眼望遠鏡15cmF8=自動追尾を持って茨城からはるばる参加した。参加の目的はもちろん各種の双眼鏡・双眼装置を見学し、自分としての『最終兵器』を考えたかったからだ。(ってほど真面目に参加したわけではないけれど)

<双眼鏡>
  普通の双眼鏡。つまり、倍率が固定されているかもしくは専用接眼レンズを使用した限定変倍の双眼鏡。といっても口径は15mm程度のものから15cmクラスの大型まで種類は非常に多い。手軽にそして確実に見られるのがこの機種。そして完成度の高い円熟した双眼鏡では、カメラレンズのように見え方の違いを「味わう」のが「つう」の楽しみ方のようだ。
  今回、会場では特に目だったモノが見うけられなかった。・・・と思いきや、大型の機械を持ちこんだ人達が傍らに置いている双眼鏡は?と見ると、「これはニコンが今作っていない広角10×70」とか、これはヤフーオークションで出てきた珍しい色の○○」とか、それぞれ何か曰く因縁や思い入れのある双眼鏡をお持ちだった。
  今回表舞台には出てこなかったが、興味が逸れたとか人気がなくなったとかではなく、この「普通の双眼鏡」こそがサミットの底流にある「永遠のテーマ」であることに変わりはないようだ。


<EMS双眼望遠鏡>
  鳥取市の松本氏(写真右)発明によるミラー式正立系を利用した双眼望遠鏡。その最大のものは、このサミットの主催者のひとり服部氏の手になる「Big−Bino」、25cm屈折双眼である。
  会場にもかなりの数が持ち込まれたが、オーナーの「思い」からいくつかの流れが生じているように見えた。
  ひとつは大口径化。もちろんその代表は「Big−Bino」。最近完成した20cm双眼(写真左)も会場で見ることができた。外国では18cmアポも知られている。しかしあとは松本氏のご自宅の15cmアポをはじめとして、シュワルツなどアクロマート鏡筒を使った15cmクラスが「主流」かもしれない。
  ところで肝心の見え味だが、Big−Binoも20cmも短焦点アクロマートの特徴と言える色収差を残しており、星を見ると若干「柔らかい」イメージはあるがシッカリした芯のある像だ。そして星雲を見ると屈折特有のコントラストの高さが利いて素晴らしい眺めとなる。また、これは覗き比べて分かったことだが、25cm>20cm>15cmとわずか5cmづつの差で見え方が大きく変わるのだ。これは反射式のそれよりかなり差が大きい感じを受ける。
  しかし、いずれにしても、屈折でこれ以上の口径は、軽いレンズでも開発しない限り価格以前に重量で限界が来るのではないだろうか?

  そして、この限界を突破できそうなひとつの「答え」がシュミカセ鏡筒の使用。(写真左)会場に持ちこまれた20cmのそれは非常に軽くコンパクトで、15cm以上を夢見る者には非常に魅力的だった。
  シュミカセは合焦範囲も広いので市販の鏡筒はほとんどEMSによる双眼化が可能だろう。ただ、F値が10と長いので、低倍率(広角)はやや苦手。高倍率は得意だが、それに見合う良質の鏡筒に出会うことが成否の決め手になるだろう。

  もう一方で、大口径化をある程度あきらめて高性能化に向かう動きも魅力的で興味深い。
  その代表が今年会場でもっとも注目された機械のひとつ「タカハシTOA鏡筒仕様」(写真右)。驚異的高性能で知られるTOA鏡筒を2本並べた超豪華版である。その見え味は、低倍率では目に刺さるような鋭く小さな星像と、見事に浮かび上がる淡い星雲のディティール。また、高倍率では口径の数十倍でも像が破綻することがない。TOA双眼を「高価」と驚く者は多いが、アポクロマートレンズを使用した他の専門メーカー製国産双眼望遠鏡と同程度の価格でしかない。それでいてそれらの機種が束になってもかなわない「倍率の自由度」「見え味の満足度」=コストパフォーマンスにこそむしろ驚くべきであり賞賛されるべきだと感じた。

  いずれにしても15cm以下クラスでは、一見メーカー製双眼(望遠)鏡と競り合う関係にあるように見えるが、倍率の自由度が大きいEMSか、剛性が高く安定した使用ができる大型双眼鏡かでは、使う者の「好み」や「目的」であきらかに分かれるので、「対立」する関係にはならないだろう。
  また、もうひとまわり小さな10cm前後の口径(写真左)でも、惑星観測もできる高倍率から、すばる全体をすっぽり眺められる低倍率まで楽しめるという「マルチ」さと、見るからに手軽で楽しく使えそうなコンパクトさを兼ね備えた機種がたくさん参加していた。ここでも「普通の双眼鏡」との対立関係ではない、穏やかな「住み分け」がなされているように思えた。


<反射双眼望遠鏡>(写真右)
  双眼望遠鏡の「迫力」にとりつかれると、何割かの人は必ず「大口径化」を目指す。しかし屈折ではなかなか大口径化は困難だ。そこで、望遠鏡の歴史と同様に、「反射式」への流れが必然的に産まれる。
  いちばん普及している反射式双眼望遠鏡のスタイルは、空に背を向けて筒先の方から覗く形だ。この形式がニュートン式を基点にしているのは、有効最低倍率に近い倍率が得やすいからだろう。
  今年のサミット会場では口径33cmが最大だったが、昨年は40cmという巨大なものが、しかも「自動導入・自動追尾」で登場している。ちなみに海外でも流行の兆しがあり45cmクラスも登場している。
  30cm超の口径は単眼でも淡い星雲星団を大迫力で見せてくれるが、双眼では「想像を絶する」という表現がいちばんふさわしいかも知れない。しかも、製作者の創意工夫がかなりのレベルに達していて、反射式では当然予想されるはずの「光軸の狂いやすさ」とか「目幅調整のしにくさ」といった課題が見事にクリヤーされていることには全く驚かされるばかりだ。また、軽量化や収納時のコンパクトさなど、まるで魔法のように見事で本当に良く工夫されていた。
  ただ、こんなことを思うのは私だけかもしれないが「対象に背を向ける」スタイルは、崇高な神宿る宇宙に対する姿としてはいささか抵抗を感じてしまう(確かに覗きやすさは抜群なのだが・・・)。この点を打開する妙案は本当にないのだろうか?


<双眼装置>(写真左)
  今年いちばんの躍進株がこれ。
  これまでも望遠鏡メーカーから各種発売されていたが、今年は、それに飽き足らないマニアがすぐにでも製品化できそうな完成度で持ちこんできた。全てに共通する最大の「ミソ」は、50oサイズの大型接眼鏡が使えること。このことで単眼での「有効最低倍率」に近い低倍率と広い視野が得やすくなっている。また、副次的かもしれないが、構造的に覗き口の部分が10cm前後低くなり、しかもたえず左右の覗き口が平行になるようになっており、大口径では「必然」と思われていた「脚立に昇って見る」という「常識」がくつがえされているのも大きなメリットだと思った。
  もちろん、一つのレンズから集った光を二つに分割する訳だから、片目づつでは明るさは1/2となる。また、双眼鏡では物理的に高まる「視認性」も、双眼装置では全く同じ像を両目で見ているだけだから双眼鏡のような効果はない。(気分的効果はあるが)。しかし、こんなことは製作者は先刻承知の上だろう。むしろ大口径と組み合わせて、手軽に「両目で見る」楽しさが味わえるシステムとして、これからファンが増えて行くと思われる。(私もひとつ欲しい!)


  このほか望遠鏡に音響装置を組み込み、星見をしながら音楽を楽しむというスタイルもなかなか魅力的だ。また、架台や眼幅調節装置、移動や組み立ての工夫など、口径以外の重要な項目については別の機会に譲るが、そこにも、使うための道具としての思い入れがシッカリ息づいていて大変勉強になった。
  という訳で、「どれもみんな欲しい!」というのが正直な感想。求める「最終兵器」の姿は、この集いに参加したことで逆に益々不確かなものになってしまった。



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