真夜中のクワガタ捕り

よくクワガタだのカナブンを捕りに行った。
クラスの中で、私ほど昆虫のことを知っている者はいなかったし、東京のど真ん中で、私ほどクワガタを捕まえられるヤツはいなかった。

どうしても、クワガタが欲しい時に、決まっていく穴場があった。
クヌギの木にできた小さなウロだった。中のくぼみに樹液がたまり、そこにクワガタが集まるのだ。
そこは、私ともう一人の友人しかしらない場所だった。ウロは2番目の枝まで登り、木の裏側へ回らなければ発見できない位置にあったし、その木自体が少し変わった場所にあったので、他の者に見つかる心配はほとんどなかった。

その場所へ行けば、クワガタが確実に捕れるのにも関わらず、私達は、あまりそこへは行かなかった。

・・・・・・

ある日、クラスメイトとクワガタのことで口論になった。
「クワガタなんて、捕ろうと思えば、いつでも捕れる」
などと、私が自慢してしまったことがきっかけだった。
「証拠を見せろ」ということになり、クラスの何人かに、次の日までにクワガタを持ってくることを誓わせられた。

クヌギの木は、墓地にあった。

正確に言うと、墓地を通り抜けて、一番奥の鉄条網を乗り越えた空き地にあった。
昼間にクワガタを捕ったこともあったが、確実に取りたければ夜中に行かなければならなかった。
一人で行く勇気はなかったので、その場所を知っている唯一の友人を誘って夜の墓地に到着した。

今までも何回か来ているのだが、何度来ても、やはり気持ちの悪い場所だった。
友達が恐怖のあまり「ギャ―」と悲鳴をあげて途中で逃げ出したこともある。
その時私は、本当は心臓が止まるくらい恐ろしかったのに、わざとゆっくり墓地の外まで歩き、逃げた友達を馬鹿にした。

クヌギの木へ行くためには、突き当たりの墓の、墓石の後ろに並ぶ卒塔婆の脇から鉄条網を乗り越えることになる。我々の足の長さでは鉄条網をまたぐことはできなかったから、墓石や地蔵のようなものに足をかけて越えるのだ。
昼間は、そんな罰当たりな行動も、なんていうことはなかった我々だったが、
夜はさすがに、
「すいませんが、乗り越えさせてください。」
などと手を合わせてから、そこを越えることにしていた。

木に上り、懐中電灯でウロの中を照らすと、ノコギリクワガタとコクワガタが2匹捕れた。

目的を達し安心したのか、さっさと立ち去りたいという気持ちがあったのか、
私は、とんでもない失敗をしてしまった。

鉄条網を乗り越えた時、足をかけた地蔵(小さい墓石のようなものだったかもしれない)を倒してしまったのだ。

2人で必死にそれを起こし、土下座し、何度も何度も
「ごめんなさい。ごめんなさい」
と謝った。
墓地の入り口で、もう一度振り向いて、2人で手を合わせて謝った。
その時は、本当に呪われるのではないかと気が気でなかった。

・・・・・・

次の日、苦労して手に入れたクワガタをクラスメイト達に見せびらかし、その後、巻き上げられた。
学校が終わって家に帰ると、昨日一緒に墓地へ行った友達が待ち構えていた。
私は、「学校で飼うことになった。」と嘘をついた。
二人の冒険の証を勝手に失ったことで、友達は怒り、しばらくは口も聞いてくれなかった。

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