夏の思い出

そいつは、ちょっとつっぱていて、不良グループみたいなものの一員だった。
まわりからは、何で私なんぞとつるんでいるのかと、いぶかしがられたりもしていた。

彼の家は、西武新宿線の線路のすぐ脇にあり、電車が通ると2階の部屋は地震のように揺れた。
ガタガタガタガタと揺れるその部屋で、我々は膨大な時間を無意味に過ごしていた。

中2の夏、そいつに可愛い彼女ができた。
彼女ができる前から、私がそいつの家にいることは当たり前になっていたので、
彼女ができてからも、別に彼らに気を使うでもなく、私は、相変わらずそいつの家に入り浸っていた。

その彼女の家は、私の家の近くだったので、彼女と私は待ち合わせをして、一緒にそいつの家に行った。
そいつの家で、3人で話をしたり、レコードを聴いたりした。
彼らは、私を気にせず、キスをしたり、ディープなペッティングをしていた。
私もまた、目の前でそういうことをされることを気にしなかった。
そんなものかなと思っていた。

夏休みのある日、3人で海へ行こうという計画が持ち上がった。
私の叔母が神奈川県の三浦半島に住んでいたので、
そこで3,4日過ごそうということになった。

しかし、結局、彼女は用事ができただかで、そいつと二人だけで行くことになってしまった。

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夏休み中ということもあり、三浦海岸は恐ろしいほどの人ごみだった。
我々は、ナンパする相手を探していた。
沖のゴムボートに、ビキニのお姉さんが3人乗っていた。

意外なほど、お姉さん達は我々に対して友好的だった。
一番可愛いお姉さんは、芸能人の卵で、写真集を出しているという。
1ヶ月ほど後の深夜番組にも出演すると言っていた。

私は、その女が欲しがるままに、買ったばかりのサングラスをプレゼントした。
そのサングラスは安物だったけれど、この日のために新宿へ行き、わざわざ買ってきた大切なものだった。

海からもどる電車で、
「我々は結局だまされたんだよな」
というような話をした。

彼女達は、我々より随分大人びていて、我々が相手にできる相手ではなかったという結論に達した。
そもそも、当時の私はどこからみても小学生のようだったし、サングラスは大きすぎて、私がかけるとまるでトンボのようだった。
電車の中で、我々は、女に対してのカッコつけた話し方を真似し合い、罵り合い、笑い合った。
思い出せば思い出すほど、お互いの滑稽さが可笑しく、笑いが止まらなかった。

夏休みが終わって、しばらくたった頃。
そいつは、彼女と別れたと言った。
彼は特段傷ついている風でもなかったが、彼らが別れると、私と彼女の関係も消滅してしまうということが少し残念だった。

ガタガタガタガタと部屋が揺れていた。

深夜番組は、それからも欠かさず見たが、お姉さんは結局一度も登場しなかった。

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