1999年11月号

01)NPO法人格認証記念 まちづくり政策フォーラム
02)『森のそば屋』の事例から
03)ネットワークの提案
04)「まちづくり活動企画コンペ」
05)環境改善、みんなでやれば怖くない!
06)研究会動向
07)『醸華邑(じょうかむら)松山』の創造への取り組み



01)
テーマ:NPO法人格認証記念 まちづくり政策フォーラム
執筆者:代表理事 山田晴義 (岩手県立大学教授)


この「ひたかみ」も、「東北のむらとまち研究会」(現在のむらとまち研究会)の機関誌と してほぼ10年休み無<発行されてきました。これまで、この研究会では熊本県や三島 町(福島県)などの協力を得て行ったフォーラム、東北工大の研究室での定例サロ ン、「都市農村計画研究会」、「仙台NPO研究会」の運営など、様々な活動を展開して 参りました。そして、「田園景観センター」との合流・改組をへて、この度「NPO法人・ま ちづくり政策フォーラム」を実現することが出来ました。この過程で、実にたくさんのそ して多分野の皆さんに巡り会い、多くのことを学んできました。この「フォーラム」はそ の結晶であり、社会が求める新たな課題に取り組むという姿勢は、そのままこの「フォ ーラム」に引き維がれ、新たなスタートを切ることになりました。住民が真の主役にな る地域づくりの実現に向け、今後とも会員の皆様と色ともに学習・実践を重ねていき たいと思います。



テーマ:NPO法人格認証記念 まちづくり政策フォーラム
執筆者:新川達郎 (同志社大学大学院教授)


まちづくり政策フォーラムにある各研究会とは。
まちづくり政策フォーラムは、その中にさまざまな活動テーマと活動グループをもって います。従来からの活動の歴史がそれぞれのグループにはあるのですが、このフォー ラムの中での位置づけを整理しておきたいと思います。まず、自主的な調査研究や、 調査受委託を担うのが「都市農村計画研究会」です。「むらとまち研究会」は、フォー ラムの機関紙「ひたかみ」発行母体であり、地域づくりに関する情報の受発信を受け 持ちます。この二つが、包括的総合的にフォーラムを支える常設的な活動といえるで しょう。
その他にも重要なテーマがあり、個別にグループが作られています。
「アースワークス研究会」は、交流を通じて農業農村の自立を目指す研究をしていま す。「農業農村を考える経営者の会」は農業の担い手自身から考えていこうということ で始まりました。「環境フォーラムみやぎ」は身近な生活環境を、「水辺空間研究会」 は身近な自然環境を考えようと設立されたものです。これらの活動が多様に発展し 相互に刺激しあうことがフォーラムの成長に結びつくと考えています。



テーマ:NPO法人格認証記念 まちづくり政策フォーラム
執筆者:増田聡 (東北大学大学院助教授)


全国と同様に仙台市・宮城県でも、既に多数のまちづくりに携わるNPOが組織され、 多彩な活動を展開しています。「まちづくり政策フォーラム」は、このような団体の体験 や知恵、個人的ノウハウとして蓄積されているまちづくり情報の共有化と、自主研究 等を通じた政策提言を目指して活動を開始いたしました。人と人、団体と団体を繋ぐ 意味で、土地利用連続シンポジウムの企画運営や情報誌の発行、各種の部会活動 を行っておりますので、ご関心をお持ちの方々の参加と、具体的なまちづくりの場面で の相談をお待ちしておりますので、事務局まで是非ご一報下さい。



02)
テーマ:『森のそば屋』の事例から
執筆者:岩手県立大学総合施策学部 山田晴義



近年、NPOの促進が叫ばれるようになったが、農村地域においてはまだ馴染みの薄 いものである。地域の資源や人材を活かし、地域の改善や活性化に結びつける活動 を強く求められる現状において、NPOは理解を得たい仕組みであり、手法である。
岩手県葛巻町の「森のそば屋」は、今後の中山間地域再生のためのNPO形成に関わ るヒントを豊富に内包し、農村NPOの推進のための貴重な参考となることから、この事 例を考察してみたい。以下の報告と分析は、「森のそば屋」の主宰者である高家夫妻 のインタビューに基づくものである。
1,森のそば屋
1)地域の概況
岩手県北東部の北上山系の真っ直中に位置する葛巻町は、人口約9500人。過去5年 間に8%近くの減少率を示してきた過疎地域である。町では、「ミルクとワインの町」を かかげ、県立自然公園・平庭高原などの自然環境を活かしながら、農村型観光の振 興に力を入れてきた。
「森のそば屋」は、江刈川地区高家領(こうけろう)にある。江刈川地区は、56世帯、人 口約300人で、高家領など3つの集落からなる。高家領は約20戸からなる集落。江刈 川地区全体の農家は29戸、経営耕地は一戸当たり約200aで、そばなどの雑穀を昔か ら栽培していた。
2)「森のそば屋」の運営組織
このそば屋は、平成4年11月に12人で組織された「高家領水車母さんの会」によって、 経営がはじめられた。提案者は高家領に住む高家夫妻で、ともに役場職員である二 人は、会と店の企画・運営、営業などを担当。ソバの粉ひき・そば打ち・調理・料理の サービスなどは会に所属する主婦が担当。特に高齢者は、そばづくりの高い技術を身 につけており、それぞれが得意な作業を役割分担している。勤務時間は、それぞれ の家庭の事情に合わせて申告し、時間割が組まれる。会は、高家さんを除くと、自宅 まわりで副業を必要としていた主婦で構成されており、集落の主婦にとって貴重な副 業の場になっている。
「森のそば屋」と「高家領水車母さんの会」はほぼ同一メンバーで構成されているが、 代表者は異なり、前者は業務実行の食堂としての組織であり、後者は経営・運営方 法などを検討する表裏一体の組織となっている。
3)経営と施設整備
平成10年度には、2万2千人の客が訪れて売上額は2900万円に達し、主婦たちに支払 われる賃金の総計は、年間1千万円に達した。一人当たり30〜100万円程度の年収を 得る主婦が生まれたことを考えると、立派に家庭の兼業が形成されていると言える。
「当初は集落内の反対もあり、そば屋の経営に加わるには相当の勇気が必要だった ろう。」と、その時の様子を高家章子さんにお聞きした。
前々から、江刈川の女の人たちが打つおいしい蕎麦を、もっといろんな人たちに食べ てもらい、村おこしができないものだろうかと考えていました。それで、「昔から使われ ている村の水車で蕎麦粉を引いて、蕎麦祭りをしたらどうだろう。お客さんがたくさん 来るよ」と、10年ほど前からいろいろな会合があるごとに話していました。そのうち自治 会が結成され、部落でバスを1台貸しきって視察研修に出かける機会がありました。 イベント会場でよその蕎麦を食べたとき、村人達は「なんだ、おらホの蕎麦の方がお いしいなあ。」と盛り上がりました。帰りのバスの中では、私たちが言っていた蕎麦祭り は夢じゃなくて出来るんじゃないかという話しになりました。これは、チャンスと思い、 自治会で「蕎麦祭りイベントをやりませんか」と提案したら、一度は「やろう」となった話 が、いざ具体化しようとなると強い反対の声がでました。研修の時に盛り上がった人 たちも賛成してくれませんでした。
反対を押し切ってのイベントは、成功するはずがありません。部落総参加の村おこし イベントは、あきらめざるを得ませんでした。
今度は、一部の水車組合のお母さんたちに声をかけることにしました。このお母さん 達は、以前「秘境のソバ」ということで、東京のデパートの催事に出かけたことがあり、 その時、ニ日分として用意した
1000食が不足になり、1500食もさばけてしまうという経験をしています。「このお母さん 達なら理解してくれるかもしれない」と思い、まず、お父さん達の説得にあたりました。
お父さんたちには、「お金の心配はさせません、経営がうまくいかないときにはすぐにや めます、負担はさせません」という約束をして、お母さん達がそば屋をする許可をもら いました。お父さん達に許してもらうことが、お母さん達にとって、とても重要なこと だったのです。こんな苦労の末に、やっと平成4年8月8日「高家領水車母さんの会」が 結成できました。
夫妻はメンバーに出資金や資金繰りの心配をかけない約束で組織をスタートさせた。 店の建物は夫妻の持ち物で、改修・整備に100万円、什器・備品の確保に200万円か かったが、夫妻と他の1名で負担した。そば粉生産のため集落の「水車小屋」を、平 成7年に補修しているが、この経費200万円は「森のそば屋」の収益が当てられた。所 得税の申告は、「森のそば屋」の代表者が個人で行なってきたが、組織としての申告 を検討しており、今後有限会社として改組も視野に入れている。
この「森のそば屋」の施設整備や共同施設にあたって、これまで町行政や農協などの 支援は得られていないのが現状である。
4)組織の形成・発展過程
地域ではハレの日に「そば」を打ってもてなす習慣があったが、そのそばが他の地域 のものに勝ることを認識したのは、東京のデパートでの行事で大きな評価を得たこと や、自治会の研修旅行で他地域のそばの視察を経てのことであった。夫妻は、そばの オーナー制で都市との交流事業を行うことやそば祭りなどを提案してきたが、宿泊の 対応が難しいことなどの理由から却下されるばかりか、集落の中で夫妻が孤立すると いう状況にまで立たされた。
こうした状況のなかで、「森のそば屋」が実現したのは、?店は個人の資産を活用し て、個人の投資によって整備に踏み切った。?個々の主婦に賃金など経営的な心配 をかけないようにした。?各家庭で夫の了解を得られた。?親世代の家長で構成さ れる自治会の了解をまがりなりにも得られた。などの要因を挙げることができるが、そ れ以前に、?地域の主婦が、そば屋を共同で実現したいという考えを集約することが できた。?この意志を形にして実現するために強い意志を持ったコーディネーターが 存在したこと、を忘れることは出来ない。更に、?問題発生に敏速に対応して議論、 調整する場としての「高家領水車母さんの会」を組織したこと、も重要だ。また、夫妻 が、様々な業務をボランティアで行ったことも大きな要因であり、?夫妻の人脈と努力 で、マスコミの活用や専門家の力を借りることができたことも忘れてはならない。
5)「みち草の驛」への展開
「森のそば屋」の成功を見て、さらに参加の希望が出たのは当然だが、これ以上の人 を加えれば、これまでの参加者の賃金が減少することになる。そこで考えられたの が、「みち草の驛」である。
「みち草の驛」は、高家夫妻の親の持ち物であった店舗を改装したものである。ここで は、延べ39名が参加し、簡単な食事の提供と、農家が持ち込んだ野菜その他の産直 販売が行われている。運営・経営システムは「高家領水車母さんの会」と同様に「みち 草の会」を組織している。収益は、平成10年に600万円の賃金を支払えるまでに達し た。
2,農村におけるNPOの仕組みと課題
以上、「森のそば屋」を紹介したが、農村NPOという視点から、主に地域資源を活かし ながら、経済活性化などの定住条件を形成していくためのNPOの可能性について検 討を加える。
1)副業形成の仕組み
中山間地域の経済活性化の糸口を探るためには、まず経営アイテムと人的エネルギ ーを見つけだすことが先決だ。経営アイテムは、そこで働く人に生き甲斐を強く感じさ せるものでなければならない。人的エネルギーを発掘できない地域では、農村NPOを おこす根拠を失う。
2)公益性・社会性のある市民事業
NPOの目標が、行政や企業で実現できなかった「公共」の一部を、市民組織が担うこ とだとすれば、「森のそば屋」は、主婦の副業形成という経済的支援を実現し、地域の 農産物・加工品の生産促進に結びついている点で、公益性・社会性がある。この公益 性・社会性とは、サービスや利益を求める者が、活動に関わる一定の資質を備えてい て、これらに公平に参加機会が提供されればよいのであって、無条件で公平である必 要はない。
3)在来の地域組織との調整
「森のそば屋」の実現に向けて、最大のネックは、男中心社会の上に形成された伝統 的な地域組織と家長制度的家族関係にあった。夫妻は相当の時間をかけて地域組 織の理解と、男たちの同意をとりつけたが、参加者に初期投資の負担を免除し、賃金 補償をするという方法をとることにより、自身は相当の経済的負担を負うことになっ た。
こうした経済的課題の解決法として、「結い」や「講」を応用した共同出資などの方法 も考えられるが、いずれにしても、それぞれの地域状況に合わせた対応を発見してい くほかに道はない。
4)準備組織や研究会の形成
問題提起、活動の必要性の提唱、活動の仕組みの提案だけでなく、自ら担い手と なって行動する人材或いはコアスタッフの存在が重要である。目標に向けて専門家 や市民が集まるような半開放型の研究会組織の形成は都市的である。農村では、こ のような組織を形成していくことが多少難しくはなるが、近年では事例のような先進 的な発想を持つプロデューサーの出現もまれではない。
5)実行組織の編成〜支援システムと制度
準備組織や研究会が実行組織に移行することもあるが、実行組織は新たな人材や 仕組みが必要になることが多い。
「森のそば屋」の場合は、これと表裏一体の「高家領水車母さんの会」を用意した意 義は大きい。前者だけであれば企業法人と同じであるが、社会性・公益性を建前とす るNPO組織にとって、後者のような組織は不可欠である。ここには、情報やアドバイス を提供する人材を地域外から加えていくことも可能であり、地域内で解決できない方 策を創造していくための仕組みとして重要である。
また、こうした取り組みに対して、地域全体で支えていくことが望まれるのは当然のこ とである。本来は、行政や農協などが、適切な支援を行うことが望ましい。
7)NPO法人化
今回紹介した「森のそば屋」は、代表者の個人的な負担が大きくなっているのが現状 だ。NPO法人化のメリットは出資金を積む必要がなく、多くの支援者からの会費や財 団などの助成金を受けて事業をすることも可能だし、たとえ公務員であっても、無給 で常勤でなければ法人の役員を務めることもできるから、賛意さええられれば多様な 人材をメンバーに加えることが出来る。住民活動が公益的な法人として社会から認 知されることの意味は大きく、農村地域でNPO法人を取得し活動に当たってほしい団 体は多い。



03)
テーマ:ネットワークの提案
執筆者:新しい街を考える会/岸田清実


9月に行われた「まちづくり市民活動企画コンペ」には、私ども「新しい街を考える会」 も「もっともっと活動部門」に参加いたしました。
「コンペ」当日は1団体5分の持ち時間で活動紹介と企画のねらいなどをアピールしまし たが、「コンペ」ということのほかにまちづくりに関わる市民活動団体の交流の場にも なったと感じています。
福祉、環境、文化など分野の違いこそあれ、まちに関わり活動している点では共通す る点もあり、お互い感ずる点、考える点があったように思います。
これからの活動の励みにもなったのではないでしょうか。
せっかくの機会を活かし、今後も何らかの形でつながり、交流を続けていきたい・・・そ んなふうに考えています。
目下、まちづくりネットワークを立ち上げようと、当日参加した、「心鮮・てらまち・北山 プロジェクト」さん・「アースワークス研究会」さん・「水辺空間研究会」さんにも声がけ をしておりまして、今後、広く多くの人たちと交流を図りたいと思っております。



04)
テーマ:「まちづくり活動企画コンペ」
執筆者:仙台都市総合研究機構 主席研究員 岩澤克輔


多面的役割論で考えたい
「まちづくり活動企画コンペ」について原稿依頼を受けた翌日、「チェック甘いんじゃな いの?---NPO活動企画コンペ」という8段抜きの大見出しが夕刊第1面を飾った。
どうも間が悪いし、素直に所感を書く気持ちにはなりにくいが現場に立ち会った数少 ない者としての責任があるような気もして、あえてペンを握る。どっちつかずな性分の 私でも、今回に限っては少しく明解な立場を取ってみたいのだ。
件(くだん)のコンペについて種々の批判がくすぶっていることは、あちらこちらから側 聞していた。新聞報道にもみられるように、疑念の声の大勢はコンペとしての「質」を 問うているようだ。その点でだけいえば、検証すべき材料や工夫の余地は多々あるの だろう。だが、何しろ当地では初の取り組みである。応募する市民だけでなく、主催 者スタッフや審査員にも何となくいつもと違う緊張感が漂っていた。観戦(?)していた 私には会場の雰囲気が初々しく感じられ、「公開型」「点数評価制」という仕掛けを添 えて市民活動のクロス・コミュニケーションの場が開かれたことを、実は好ましい眼で 受け止めていたのだった。
だから、新聞で言う「不満続々」という状況だけで語られるなら少々つらい。助成採用 団体や助成額に関する審査の適否という側面からのみ論じ、評価を下してしまうとす れば、折角産み落とされたこの制度自体の<立つ瀬>がないではないか。
こうしたステージを用意することは、異分野で活動する人々が企画力やプレゼン力を 磨きあう「他流試合」のリングであると同時に、新しいタイプの情報共有・交歓の場と しても、極めて今日的な意味をもちうるはずだ。
むしろ、例えば新しい手法で当選組の事業成果の社会還元を図れないかとか、イベ ント性も伴うこの制度が、落選組や応募予備軍の人々に対して、どのような意義や機 能を発揮しうるのかを探っていく、といった広がりを積極的に創っていくことが、審査手 法の厳しいチェックと同じくらいに大切と思えるのだけれど・・・。「そんなモノ言いが、 役所も市民活動も甘やかすことになる!」「これからの時代、検証と評価だよ」などと 叱られそうだが、ここはひとつ、明るいプラス思考で育て、活かしてはいけないものだ ろうか。



05)
テーマ:環境改善、みんなでやれば怖くない!
執筆者:NPOグラウンドワーク三島渡辺豊博


*行政マンと市民の“二面性”
私がボランティア活動をしている背景は「行政マン」としてか、「市民」としてか、複雑 なところがある。まさに人格の“二面性”とか、“多重性”といってもおかしくないのが正 直なところだ。その原動力になっているのは、行政マンとして20数年経験してきた知 識がベ−スになっている。一般的に行政マンは書類の山の中で仕事をしている。その 書類の山は、税金を使い集めた情報である。行政マンは普段それらを自分の情報の ように使い、不要となれば山積みにし、5年もたてば、廃棄処分してしまう。これが、役 所の中で一番無駄なことだと思う。それらの情報が、あまりにも地域に流れていかな い。それらの情報を上手に地域に還元し活用していくというもう一つの役割を、 行政 マンは行政市民との“二面性”の中で持っているのではないか。
*パートナーシップは情報の提供から
グラウンドワークは市民と行政と企業の関わりであって、この三者が必ず関係してい なければグラウンドワークではない。市民と行政との二者の関係にもう一つのセクター である企業を必ず入れ込み、三者の協調、協働関係を構築していくことが、グラウン ドワークの基本的な考え方だ。それは、社会を構成しているのは、市民、行政、企業 の三者だからであり、得意技を出し合い、立場と役割を尊重し合う『新たなるパートナ ー』としての関係を構築することに狙いがあるからだ。ところが、現実的に公共事業の 実施というような部分では、市民対行政という対立の関係が多くなる。その一方的な 関係ゆえに、行政と市民との間に対立や誤解が生じる事例も多い。特に、環境という 分野では、道路、河川改修、農業基盤整備事業いった公共事業の実施によって、自 然保護団体や地域住民と衝突することが全国各地で起こった。その原因を探る と、「情報不足」というところに話が行き着く。
*対立は情報不足から
行政は、たくさんの情報を持っており、たくさんのことを知っている。そういう状況で、 すべての情報を住民に出そうとしないため、ある部分で素人である住民にすれば、情 報が少ない状態なので判断ができない。行政のやり方はいつも、あらかじめ逃げ道を つくっておく傾向がある。役職が上になればなるほど、住民には理解しにくい“宇宙 語”をしゃべりだす。「前向きに善処し、後ろ向きに考える」というように、何を言ってい るのかさっぱり分からない。要はその事業をどうするのか、という話になった時に答え が出てこない。住民にしてみると情報も少ない、判断材料もない、何を言ってるのか 分からない、相手の意思もよく見えないわけだから、非常に不安だ。そうすると、行政 とぶつかる、対立するということが多いのではないか。
*パートナーシップの「学習の場」
グラウンドワークは、地域住民の気持ちをまちづくりの中に引き込む「学習の場」とい える。三島市では42坪の荒れ地を、行政と市民と企業が一緒になって手作りのミニ 公園に整備していく、というプロセスが具体的に実施されている。そこは三者がパート ナーになっていくための『学習の場』になっている。たった42坪の空き地でも、グラウン ドワーク手法を活用すれば、約5万円ほどで、行政がやれば3000万円はかかる公園が 出来上がってしまう。お金を使えば何か天下を取ったみたいな、まちづくりをしている みたいな幻想が行政にはありすぎるのではないか。グラウンドワークの発祥の地であ るイギリスでは、財政が破たんした時に、グラウンドワークという手法を考え出した。 同じように、日本でも、今後どんどん政策的経費が少なくなっていく中で、行政マンは 「予算が無いので何もできません」とは言えない。お金が無ければ、無い中で、その地 域の要望にどうこたえていくのかが、これからますます厳しく問われてくる。
*住民の意向に添った物づくり
企業人と比べ行政マンは「税金で飯を食わせてもらっている」という点で決定的に違 う。だから、行政マンにとって住民は、お客様であり、ユーザーである。そういう人たち の思いを、形に変えられない、あるいは、そういう人たちの思いを、踏みにじって仕事を するということを、もし、ずっと続けていくならば問題があるし、お客さんの意向に沿わ ない仕事しかできない行政マンは、辞めていかざるを得ない、というのも、おかしな話 ではなくなる。これまでは川を改修したとか、道路を造ったとか、何々を建てたという、 形を作ることが評価されたが、これからは、中身や内容等の質が問題になると思う。 まさに質が問われる時代が来る。特に行政マンの能力というのは、そういうところに、 収れんされてくるのではないか。
*説明から学習へ
川を改修する時に「地元説明会」はやるが、「学習会」という言い方での会はほとんど 聞かない。しかし、本当は、学習会から始まるのではないかと思う。川をどうするかと いうことを、地域の人に考えてもらえるように、基礎的な現地の情報を提供しなくては いけない。行政の持っている多くの情報を、地域住民に分かりやすく公開する義務と 役割がある。最近は、環境アセスメントや、自然環境調査というものをやるようになっ た。専門家が入り、調査を実施して、立派な報告書を作る。しかしその後、報告書 が、どのように生かされているのか。まずは地域の住民に返す必要がある。報告書を 住民に返すことによって本来、ここの地域には昔、こういう魚がいたんだ。あるいはこん な森があったということも分かる。さらに、文化、伝統、景観など いろいろなものが、な い交ぜになって膨大な、何千年にも及ぶ、そこに生きた人たちの歴史というものが、 川一本の中に山のように詰まっている。それを変えるということは、百年の歴史をつく ることになる。そういうものを、行政マンは税金を使って、造ろうとしているわけだか ら、ある意味では、大変なことをしている。実際はあれこれといろいろ調査している。そ れを、まずは学習会という形で、現場情報としてどんどん地域の人に出すべきだ。そ して一緒になって学んでいくということがすごく大事じゃないかと、思う。その学ぶため の情報提供者、考えていただくための仕掛け人、それが行政マンである。そこに時間 をかけるべきだ。そして、それをネタに、地域の人にいろいろ議論をしてもらう。そうい うことは、日ごろの業務の中でそんなに大変なことなのであろうか。
*施設つくって魂入れる
われわれは「施設つくって魂入れず」という膨大な蓄積をしてきている。私自身も、公 共事業をやってきたが、今、反省している。補助金をもらって、土建屋さんに発注し て、地域振興することは大切なことである。しかしこれまでは、そういうことばかりに追 われていた。これからは、それを上手に活用していくことが重要である。何のために、 このまちでこの道路が必要か、川が必要か、圃場整備をやる必要があるのか、という ことを、子供たちに話すことはできるはずだ。機能とか役割を教えることで、子供たち は道路や川を意識しだす。一つひとつのステップを、意識して仕事をすればいいので はないかと思う。ただ、立場が違うとか、役割が違って、そういうことは、技術屋さんが やればいいのではないか、と思うかもしれないが、イギリスのグラウンドワークを見る と、ものすごい多様性を持っている。コミュニティーの問題や少年の非行問題、老人 対策、失業対策、環境教育、企業とのつきあい方も含んだ多様性がある。これまで 紹介してきたような発想を、いろんな面で活用できると思う。



06)
テーマ:研究会動向
執筆者:都市農村計画研究会


都市部から農村山村部までを含む地域空間を一体的、総合的に捉え、良好な生活 環境の創出と保全を目指した土地利用や建造環境に関わる計画思想、制度、技術 の調査研究を行っています。それを通じて政策提言を行い、土地利用や計画づくりの ための企画や実践、啓発活動を行うことが目的の研究会です。
現在、10月から隔月で、「アーバンフリンジで何が問題になっているのか」を各分野の 視点から整理するシンポジウムを開催。農業的土地利用と市街化の関係、中心市街 地の空洞化、交通の問題と土地利用、都心居住の推進と業務地化など様々な側面 から検討し、将来のまちづくり活動の実践につながるような双方向型の意見交換を 行っています。
シンポジウムの第1回目は「環境からみた土地利用」という視点で、東北芸術工科大 学の三浦秀一先生にお話を伺いました。
?「東北は、実は都市部の緑地率比面積が大都市よりも低いところがほとんど。山々 の緑も、ほとんど手が入っていない」と、都市部の緑も農村部の緑の危機的な状況に あることを提示し、「今、緑だけでなく、地球環境やそれらの問題を五感で感じる機会 が減ってきているのではないか」と問題提起。「緑の環境効果」「循環系としての街の 緑」を前提に、「緑地の減少には、核家族化と、車社会化の問題が関係する」ことを切 り口とした「開発と緑地の関係」「土地利用の側面からの環境負荷」「森林の持つ循環 機能」について話されました。その上で、「一般的な開発や通常の宅地開発ではなく、 環境に徹底的に配慮した形での自立型の定住区、居住形態というものを目指すべ き」と、現在、ある一定の割合の森林、都市林のようなものを周りに作っていくことや 代償措置を考慮した宅地開発を提唱なさっているそうです。
その後、会場からは、質問や感想以外にも「今後に議論したい点」について、たくさん のご意見をいただきました。以下は、その一部。
?アーバンフリンジの都市化については、区画整理が主になるが、宮城県内では洪 水調節費で事業費に1/2〜1/3程度かかる。経済活動と環境活動の両立は、いかにし たらいいだろうか。
?自然の復元力を活用すべき。二酸化炭素の問題に市民レベルでアプローチする方 法はないか。
?都市と農村と言った場合、得に農村の想定している範囲をどう考えているか。ミチ ゲーションやビオトープの創造にあっても、どのようなものを、どの程度、どの段階につ くるか。
多様性や特性等の事前の調査や住民の意向が、最も大切になる。
農村計画も都市計画も、これからは質の高い自然の豊かさを配置すべき。それを、直 接、建物、道路、建築、建造物等と、どのような形で、どのような配合をして、どのよう なレベルでその地域・地方・都市にあった、またそれらも含めたネットワークを形成し ながら、個別・総合的・教育的・多次元的にレイアウトしていくのか。
?水田の生物も、環境の効果として捉えることはできないか。今後、こうした意見も含 めて、研究会で検討を進めていきます。



テーマ:研究会動向
執筆者:アースワークス研究会


「新・自給自足」システムの形成を目指し、その可能性を探るためのNPOたち上げ等
を含んだ実験的で実践的な研究をしていきます。
研究会では、「新・自給自足」の形成に向けた「農林漁業ヘルパー制度のための人材 バ
ンクの設立」、「都市部における交流産直プラザの開設」「グリーンツーリズム実践学 校
の開校」という3つの案を叩き台として検討した結果、都市・農村それぞれのニ一ズの 拾
い上げや継続性の問題、相互の信頼関係等々、実にさまざまな課題が出されました。
今後は、上記の案を念頭に置いて、まずは諸地域での活性化活動の事例の素材(項 目)
整理を行いながらモデル地区を限定し、従来のマーケットメカニズムによる流通シス テム
ではなく、都市と農村の本質的な資源交流による新しいシステムを模索していきま す。



テーマ:研究会動向
執筆者:水辺空間研究会


21世紀の東北らしい里山水辺空間の保全のあり方を考えようという研究会です。
里山水辺空間の環境保全を実現するには、「市民だけでなく企業も行政も参加のパ ート
ナーシップによる地域の環境づくりが必要なのではないか」という考えのもとに、グウ ン
ドワークの視点から検討しています。
最初は、イギリスのグラウンドワークという取り組みが生まれた背景や理念、具体的な 活動についての勉強会を実地。日本との遵い、東北における可能性について話し合い ました。
今年度未には、シンポジウムを開催して広く一般に呼び掛け、グラウンドワークについ ての理解を深め、来年度にほモデル地域を立ち上げ、実際にグランドワークトラストに よる環境改善をやっていこうというもの。
研究会では、立ち上げ後の「自立」と「継続」の課題も含めて、こうした動きをつくる
ための実践的プロジェクトとして機能していきます。



07)
テーマ:『醸華邑(じょうかむら)松山』の創造への取り組み
執筆者:ひたかみ編集部



前号では、ひたかみ編集部が提案した新しい「まちづくり実行委員会」の実現に向け て、宮城県松山町の「まちづくり実行委員会準備会」動きをご報告しました。今回か ら、その後の活動状況を随時お伝えしたいと思います。現在進行中であるこの準備会 に対するみなさんのご意見やご感想、アドバイス等を、ひたかみ編集部までお寄せく ださい。
始動した「まちづくり実行委員会準備会」
まちづくり実行委員会準備会は、住民が自ら考え、決め、行動し、責任を担っていく プロセスを重視し、そこに行政や商工会等との協働体制を創っていこうというものであ る。
そのために、まずは、住民が自分たちの町に関心を向けることが出発点と考え た。「ざっくばらんに思いを語り、町をどうしていきたいかを含めた現状認識の共有をし ていこう」と、発起人が地域内でさまざまな活動を行っている人々に呼びかけた。その 呼びかけに応じて、第1回目のまちづくり実行委員会準備会には10人が集まった。「そ れぞれが、町への思い入れや意見をもっているんだと改めてわかった」と、参加者の 一人であるSさんは語る。まちづくりに対する問題意識の違いも明らかになった。町の 名所であるコスモス園一つにしろ、「既存の自然を維持することが大事だ」という者も いれば、「もっと他地域からの集客をねらった呼び込みの工夫が要る」という者もい る。年令、性別、価値観等、たくさんの『違い』があるわけだからそれは当然のことだ ろう。また、地域には、顔が見え過ぎたり、何世代にもわたるしがらみの難しさもある。 そこを超えるには、幾度となく語り合う機会やイベント等の共通体験を成していくこと を通して、本音で言い合えるコミュニケーションの土壌づくりが必要なのだろう。当 初、ひたかみ編集部の存在も、「なにしに来てるのや?」という違和感がありながらも問 うに問えない雰囲気の中にあった。しかし、大義名分ではなく「自分にとってのまちづ くり」を本音で話し合ったり、一緒にイベント等をやっていくうちに、地域住民だけでは 出てこない視点を引きだす役目ができたり、町の内外を問わず関わっていける可能性 を拓いたのではないだろうか。
イベントを通したコミュニケーションの土壌づくり
11月3日の酒ミュージアムにおける「もちつき大会」では、メーターの検診に来たガス 屋さんまでスタッフとして飛び入り参加という具合に、まちづくりを意識していない近 隣住民、酒ミュージアムへの観光客を巻き込んでの総勢72人のイベントとなった。食 後には、全員が膝を突き合わせて感想を一言ずつ。スタッフ間だけでなく、餅米生産 者や飛び入り参加者・・それぞれの思いをつなぐ場ともなった。予想を超えた参加者 に、餅米が足りないというハプニングも起きたが、それを補うだけの充実感を味わうこ とができたイベントと言える。
11月7日には、「食と農について語る会」の開催。11月14日には「柿もぎ隊」とイベント が続くと、スタッフの人数にも変動がおきる。いつも一定のスタッフが参加できる状 態が難しくなるのだ。反面、波に乗ったように、「次はこんなイベントをやったらどうか」 という提案がでてくるようになってきた。今まで、リーダー的存在の人に頼るところが 大きかった体制では次々に起きる提案に対処が難しくなる。本格的に「やりたい人が やれる」しくみを考えていく必要があるだろう。言い出しっぺ(提案者)を中心に、そこに 興味をもつ人等でプロジェクトを組むいくつかの動きを出せないだろうか。既存の商 店街活性化の動き等も合わせて、それぞれの自立した動きのもとに、まちづくり実行 委員会が有機的につながっていくことができれば、それが、結果としてまちづくりに なっていくのではないか。
まだまだ、始まったばかりである。数度のイベントを通して感じたことを前提に、具体 的に、まちづくりにどうつながるか。みんなでできる部分・個々人(プロジェクト)ででき ることは何か。それらを探って、方向性を出し、みんなで確認していかなければならな い。