2000年12月号

01)設立から1周年を迎えて まちづくり政策フォーラム、この1 年
02)地域主導のまちづくり政策論
03)PFI最前線レポート福島県川俣町
04)プロセス重視のまちづくり~山形県朝日町
05)研究会動向



01)
特定非営利活動法人・まちづくり政策フォーラム設立から1周年を迎えて
岩手県立大学)

まちづくり政策フォーラムの主要使命の一つである「新たな地域づくりの 課題に対する研究組織の育成・支援」として以前より行われてきた「都市 農村計画研究会」については、ほぼ隔月にフォーラムを実施して、多くの プランナーや行政担当者などとの意見交換を実現することが出来まし た。「水辺里山空間研究会」は日本財団や仙台市の助成金を得ながら 里山学校などを実践し、地域の親子の皆さん、多くのまちづくり団体、多 様な機関、専門家などによる環境学習ネットワークを形成することができ ました。「アースワークス研究会」も仙台市からの助成金を得て、遊休農 地の活用をはかりながら都市住民と農家との新たな関係を模索して参り ました。「むらとまち研究会」も平成元年からの通信「ひたかみ」を引き継 いで発行し、全国の会員の皆様との情報交換につとめて参りました。
理事会としては、白石市及び宮崎町からは市民参加、住民・行政のパー トナーシップによる総合計画策定の事業を、また、宮城県や財・宮城県 地域振興センターなどからの受託をとおして政策提言行って参りまし た。このような順調な滑り出しをすることが出来ましたのは、一重に、以 前より参加・協力いただきました皆様のご支援、ご厚情によるものであ り、また、本フォーラムの趣旨に賛同して新たに活動に加わっていただい た皆様のお陰であります。
今後とも、本フォーラムは新しい世紀に求められる地域づくりのあり方を 模索し続けながら、これまで以上に努力して参りたいと思いますので、皆 様におかれましてもご指導、ご支援下さるようお願い申し上げます。



02)
論点 地域主導のまちづくり政策論(ひたかみ編集部・櫻井高志)
-住民自治を引き寄せる行政機能の地域分散を考える-
(まちづくり政策フォーラム理事 古川隆)
キーワード:多様な住民意思:住民の主体的な参加:地域的な合意形成:地域主導のまち づくり

はじめに
このところの住民参加の議論は、第2ステージに移行している。つまり、 第1ステージは中央集権下でのコントロールされた住民参加であり、第2 ステージは分権政策下での地域の選択と責任に基づく住民自治という 論旨である。しかし、多様な住民意思をまとめ、地域的な合意形成を図 り、地域主導のまちづくりを定着させていくことは容易ではない。その大 きな要因は、住民自治を引き寄せる制度的経路の不備と行政機能の分 散に関する意識の低さにあるのではないかと考えている。このような問題 認識を踏まえ、ここでは『コミュニティの法理論』(名和田是彦著/創文社/ 1998)の「行政機能の権限分散」という実証的考察に着目し、地域主導の まちづくり戦略を考えてみたい。

1.市民が担う公共
市民が担う公共には、「一人ひとりの公共的な意思によって培われる固 有のまちづくり」を形にしていくことが期待されている。併せて、「一人ひ とりの幸福のためにまちづくりの便益を還元できる地域システム」を確立 していくことも重要なテーマとなる。しかし、これまでの住民参加は、住 民の情熱や働きかけが空回りし、結果として便益が十分に地域に還元さ れず、もどかしさを覚えるものも多いのではないか。その理由としては、 住民参加の手法自体には、プランを実行に移す上での制度的な保障が ないことやまちづくり協議会等の中間的な主体が根づいていないことが 考えられる。また、町内会・自治会を地域全体の代表団体と見なし、そ の意向を事実上の公共的な意思として扱うケースも多く、地域民主主義 の活性化を閉ざしていることも問題として指摘されるべきである。

2.行政機能の地域分散
決定権限の分散について、前出の名和田氏は「コミュニティ自身が決定 したものを行政がそのままの内容で受けとって自らの意思とする」と定義 している。また、意思というものは、なんらかの主体の意思であり、地域 住民が何らかの団体に組織されなくてはならないし、且つ、この団体の 意思が国家意思に転換される保障がなければ本質的な住民参加は不 可能であるとしている。これより、まちづくり政策においては、住民と行政 をつなぐ中間組織の機能や役割、意思決定の最適単位の考え方が問 題になる。また、自治体は、行財政改革や市町村合併等、分権政策の 流れの中で行政スタイルの転換と自律的な公共経営が迫られており、 行政機能の地域分散が大きなテーマになる。そこで、より良い権限分散 を進め、住民自治の気運を盛り上げていく観点から、諸外国の事例(前 掲)を参考に考察することとしたい。

ここでの事例を我が国の自治機能と比べると、イギリスのパリッシュは町 内会・自治会と意思決定の範囲を同規模とし、また、ドイツの地域評議 会はまちづくり協議会、アメリカの地域政府は広域連合と類似性を持 ち、それぞれ権限の分散が図られている。しかし、諸外国の例と我が国 の自治機能が大きく異なる点として以下の3点が挙げられる。?それぞ れの組織が住民自治を強く志向(補完)していること。?コミュニティを包 括する意思決定機関として議会を設置していること。?課税自主権を規 定(ブレーメン市地域評議会を除く)ないしは行使していること。

3.分権型まちづくりの課題
行政のキャパシティは限界にきている。今後は、住民自らが課題解決に 踏み込んでいける制度的な枠組みと仕組みを確立し、地域主導のまち づくりを運営していくことが必要である。
?交渉や折衝の窓口の明確化
住民自治は、議会制民主主義と相反するのではないかという意見を耳 にすることがある。しかし、それは議会が民意を反映でき難い体質をもっ ていることの裏返しであり、むしろ、議会主導による公聴会や市民参加に 道を開くべきである。また、住民自治を中継する交渉や折衝の窓口を明 確にし、民主主義の構造を足下から形づくっていくことも重要である。
?レベルに応じた住民参加経路の確保
住民参加の経路は一つとは限らない。補完性の原則という考え方では、 住民の暮らしに密接する課題は住民の最も身近な場で決められ、より広 範に及ぶ課題は広域で決められるべきであるが、課題解決を志向するコ ミュニティ、自治体及び地域政府レベル等において住民参加の複数の チャンネルを用意すべきである。
?政治的・経済的な自律を志向
公共サービスを提供する主体は、行財政改革やPFI手法の導入などによ り、企業、NPO、住民組織などにも広がる社会的環境ができつつある。と りわけ、住民組織においては、自治機能を担う主体として、多くの市民や ボランティアの賛同を得られるミッション(使命)を公開しつつ、政治的・経 済的な自律を志向していくことが必要である。

4.地域主導のまちづくり戦略
地域主導のまちづくりでは、政治的な意思決定の仲介のみならず、地域 内に自律的な経済基盤を築いていくためのコミュニティ運営を先導して いく役割も期待される。また、以下は私が少し関わっている事例である が、今後の戦略を描くヒントになるのではないかと思う。
?まちづくり教育環境の充実
宮城県鳴瀬町浜市小学校(6年)では、総合的な学習のカリキュラムとし て「野蒜築港とこれからの浜市」としたテーマを設定し、学校と地域と関 係機関が協力しながら取り組みを進め、ワークショップ手法による成果 発表を試みている。住民自治は、こうした地域の誇りを見つめ直すところ から共感の輪を広げ、世代を超えて参加できる「まちづくり教育環境」を 整えていくことが有効ではないかと考える。
?まちづくり中間支援システムの創造
岩手県二戸広域生活圏(通称:カシオペア連邦)では、5市町村の住民代 表者等による「地域づくりサポーターズ会議」を設置し、地域づくりのス タートアップを支援していくための「まちづくり助成コンペ(モデル事業実 施中)」を進めている。こうした、「まちづくり中間支援システム」を広域行 政の中に位置づけ、地域のコミュニティ運営を担っていくことも新たな戦 略の一つとして参考となろう。
?まちづくりNPOの広域連携
青森県大畑町に事務所を置く「特定非営利活動法人サステイナブルコ ミュニティ総合研究所」は、メトロをモデルにした日本版の地域政府「リ ージョンステーツ下北」を構想し、1市3町4村の広域的な連携をにらんだ 自治機能のあり方ついて、共通の命題を持つ有志とアドボカシー活動を 展開中である。これも、住民自治を主体的に引き寄せていく「まちづくり NPO」の先進的な取り組みであり、今後の展開が注目される。
おわりに
地域主導のまちづくりは、権限の地域分散のみで達成されるものではな い。ただ、イギリスのコミュニティビジネスやドイツのBプラン(地区詳細計 画)、アメリカのNPO活動のベースには、「強いコミュニティの創造」に対す る深い理解があることを特記しておく必要がある。そして東北には、これ まで培われた「結」や「講」など伝統的なコミュニティの連帯意識があり、 これを礎として新たなまちづくり戦略を描き直していくことが重要ではな いだろうか。そのためにも、フォーラム関係者の皆様にさらなる住民参加 の議論を巻き起こしていただければ幸いである。



03)
論点 PFI最前線レポート福島県川俣町
(まちづくり政策フォーラム 櫻井高志)

はじめに
昨年9月、新たな社会資本整備等の事業システムとしてPFI(Private Finance Initiative)が日本にも導入された。このPFIの導入には、行財政改 革をはじめ、経済活性化など様々な地域課題の解決手法として、その適 用面での波及効果が期待されている。しかし、こうしたPFI待望論の多く は、国や県、市町村等における公共経営の効率化、あるいは、企業サイ ドから見た事業機会の確保といった視点での議論が多く、市民サイドか らみた公共サービスの質の向上といった視点での議論はやや不足してい る。PFI事業も公共事業を推進するための手法の一つであり、市民の合 意形成やサービスの費用対効果が問われることに変わりはない。このよ うな背景より本稿では、このPFIを市民サイド、そしてまちづくりの視点か ら考えてみたい。

1.PFIとは
最初に、PFIとは何か。もともとはイギリスで行財政改革の一環として 1992年からスタートした。日本では、昨年7月にPFI推進法が成立。これ によると、PFIとは「民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用し、公 共施設等の建設、維持管理、運営の促進を図ること」とされている。簡 単に言うと、公共施設を作る際、今までのように民間業者が建設、行政 が運営を担当するのではなく、事前の契約の下で、資金調達から建設、 運営までを民間業者(PFI事業者)が統括的に行う。そうすることで、事業 全体の効率化が図られ、住民へのサービス向上や、行政のコスト縮減が 実現し、民間企業にとっても新たなビジネスチャンスの獲得というメリット が生まれるというものである。

2.PFI導入の背景
現在、国内のPFIの事例は、着手、検討中のものを合わせても10数件ほ ど。公共事業のコスト縮減が叫ばれ、財政困難な自治体ほどPFIに強い 関心をもっている。今回、取材した福島県川俣町も、過去にハコ物行政 が町の財政を逼迫させてきたという事情がある。また、市街地中心部の 空洞化や少子高齢化による活力の低下等の新たな課題への対応も迫ら れていたことから、徹底した行財政改革の推進と職員へのコスト意識の 浸透が図られてきた。その取り組みの一環としてのPFI導入である。川俣 町のPFI導入検討は、新庁舎建設に対して、町と契約したPFI事業者が 資金調達から施工、維持管理、運営、そして一部行政業務を担うという ものである。町は20年間一定対価を支払い、その後、所有権を得る(いわ ゆるBOT)。財政的には、従来方式と比べ現在価値にすると約12億円の 負担軽減になるというシミュレーション結果が出ている。

3.PFIとまちづくり
川俣町は、このPFIを単なる公共事業に留めず、まちづくりの起爆剤とし て導入し市街地中心部の求心力を取り戻していきたいと考えている。そ れは行政にはない民間の発想と能力に期待したまちづくりといえる。そ のために、町が打ち出した主な施策は、(1)PFI事業者が運営するコミュ ニティーセンターを役場と同居させる、(2)PFI事業者が自由に使用でき るフリースペース(敷地)を庁舎隣に用意する、(3)市街中心部へ庁舎を移 転させる、の3つが挙げられている。町のねらいは、庁舎を市街地中心部 に移し、公共サービスを住民が街中で一体的に受けられるような都市環 境づくりを進めることで街の賑わいと活気を取り戻そうとするところにあ る。また、コミュニティーセンターやフリースペースの活用においては、民 間発意の多様な事業を展開し、行政だけでは応じきれない公共サービス を提供していくことも盛り込まれている。そして、将来的な可能性とし て、地域コミュニティーづくりや中心市街地活性化(TMO)と連動した戦 略的な事業展開も視野に入れているところが特徴である。

4.実現のアプローチと課題
住民の視点からこのPFIを見た場合、どういうメリットがあるのか。先の (1),(3)は行政が身近になり、サービスも受けやすく、情報も得やすくなる。 行政にとっても業務の一部を民間に委託することで本体組織のスリム化 が図られる。しかし、このPFI導入、実現へ向けた具体的アプローチは十 分には見えていない。特に、市民主体のまちづくりを進める上では気に かかる点もある。例えば、どういった民間業者に委託するのか、民間業者 が運営することでサービスの質は本当に良くなるのか、コミュニティーセ ンターにはどのような機能や施設があるのか、その運営のリスク負担は 官民いずれが負うのか、フリースペースはどのような形で活用されるの か、また、その公共性は保たれるのか、地域経済にはどうのような影響 があるのか、などについてである。いずれ、PFI導入が実現し、事業が動 き出す段階になれば、現実に上のような声が住民から出てくることが予 想される。その時に、どのようにして利用者と行政、PFI事業者のコンセン サスをつくり上げていくのか。それが大きな課題ではないだろうか。

おわりに
川俣町企画財政課長の高橋氏は、PFI事業の本質は、最少の投資で最 大の顧客(納税者)満足度を実現することだと話していた。その言葉 は、PFIを単に行財政行革という行政サイドの動機づけだけで進めること なく、市民サイドの理解と賛同を得られるプロセスをきちんと提示してい く必要があるということを示唆している。そして、そのためのアカウンタビ リティー(説明責任)が行政にもPFI事業者にも要求されるだろう。その場 合、どの段階のどの部分に住民が関わっていけるのか。事業の計画・立 案、事業者選定の審査、PFI事業者の一員として参加、サービスの監 視・評価などに可能性があると思う。こうした手続きは、制度として保証 されているわけではないが、街なかまちづくりの課題と合わせてどのよう にPFIを推進していくのか、今後も川俣町の動きに注目していきたい。

取材協力:福島県川俣町



04)
事例紹介 プロセス重視のまちづくり
「何もない」から「オリジナリティ」へ~山形県朝日町~(安部優估 )


中山間地域活性化の試みとして、地域資源の活用が取り上げられるよう になってきた。地域の資源というと、とかく蔵などの建物や伝統芸能など が挙げられるが、それだけではない。きれいな星空や膝まで積もる雪な ど、まるごとの自然や そこに住む人々まで視野に入れると、地域資源は 無数にある。従来の経済を中心にした物差しで測ると「何もない」と評価 される所でも、視点を変える、あるいは広げるだけで、「問題」がいつでも 「チャンス」になる。「何もないことこそ贅沢」という評価や「地域の魅力の 再発見」にもなり得るのだ。
各地では、そうした地域に眠る資源をどう活かすか、担い手や情報のや りとりをどうするか、どう持続させていくか等の課題を抱えながら様々な取 り組みがなされている。山形県朝日町も、その一つである。

?まちは大きな博物館
エコミュージアムのまち・朝日町
山形県朝日町は、南西部は東北のアルプスと言われる朝日連峰、南東 部は白鷹丘陵に囲まれた山岳地帯に位置し、町の約76パーセントを山 林が占める豊かな自然に恵まれた地である。集落のほとんどは、南北21 キロメートルにわたって流れる最上川など、川のはたらきによって形成さ れた河岸段丘の上につくられている。人口9,555人。りんごやぶどうなど の果樹や米など、第一次産業が中心だ。
この町は、「まち全体が博物館、町民すべてが学芸員」という「エコミュー ジアム」の考え方のもとに、現在のまちづくりの土台を築いてきた。

エコミュージアムは、フランス人アンリー・リビェールによって提唱された 考え方。従来の収集型博物館とは異なる。地域の自然・文化・生活・産 業などを資源や遺産として見直し、その地にそのままで展示・保存、ある いはより良い状態に保全し、住民自らが調査研究、保存、学習していく 活動のこと。

?あるがままの生活、文化や自然に
誇りを持てるまちづくりはないのか!
その取り組みの中心を担ってきたのが、西澤信雄さんを代表とする「朝 日町エコミュージアム研究会」のメンバーたちだ。
バブル景気がピークを迎えた平成元年、「朝日町エコミュージアム研究 会」は設立された。リゾート開発が地域開発の切り札として華やかなりし 頃である。「当時は、テーマパーク、ゴルフ場、観光ホテルなどが先を 争って建設されていた。そんな開発をしないで、なんとかできないか。地 方には地方のよさがあり、地方独自の楽しい生活があるんだ・・と思いな がらも、農山村の過疎はますます進み、生活基盤の格差は進む一方だっ た」と西澤さんは語る。研究会では、「なんとか、環境を大事にして生活 や伝統に学びながら、地域の文化や自然に誇りを持てるような地域づく りはないか」と話し合いを重ねてきた。そこに、エコミュージアムの考え方 がすっぽりとはまったのだという。

しかし、エコミュージアムのコンセプトはフランスで生まれたもの。フラン スと日本、もっと言えば朝日町の土壌(地域性、環境、体質など)は違う。 コンセプトややり方だけを当てはめたとしても、どこかで矛盾が出て、うま くいかないことが多いように思う。また、もともとボランティアが育ち、運 動を継続させてきた土壌があるヨーロッパと違い、地域住民の自発的な 活動として、どう形にして継続していくかも大きな課題と言える。
研究会では、朝日町流のエコミュージアムを模索。それと共に、毎年、丁 寧に地域資源の掘り起こしを続けながら、町の人達の理解を得るため、 この運動を根づかせる機会をつくってきた。

?朝日町流のエコミュージアムを
エコミュージアムは、「楽しい生活環境観」と朝日町流に意訳され、「地域 の発展に寄与する手段:住民と行政が、智恵と労力を出し合って、町の 将来のために発想・形成・運営していく運動」と定義された。目的は、「住 んでいる人自身が町の良さに気づいて、誇りを持って楽しく暮らす人を 増やすこと」なのだそうだ。10年という歳月の中で培われた愛着がモノを 言う。
一方、町に対して、「生活と環境を大切にしつつ楽しめるまちづくり・エコ ミュージアムの実現」を提案。当時、「環境」を意識していた町は、それを 受けて、平成3年に策定された第3次総合開発基本構想、さらに、平成12 年策定の第4次総合発展計画においてもエコミュージアムの考え方を取 り入れ、まちづくりの基本理念とした。
こうして、民間がアイデアを提供し、行政が後押しする形で取り組みは 発展し、行政と民間共同のシンクタンクとして「朝日町エコミュージアム 研究機構」も設立された。さらに、今年3月には、研究会が母体となった 「NPO朝日町エコミュージアム協会」が発足。生涯学習施設「創遊館」内 に活動拠点を置いて正式にその活動をスタートさせた。
この夏からは、町内のサテライトをつなぐ体験ツアー「エコミュージアム紀 行」を開始。ほか、地元小学生等を対象にした寺子屋事業や日曜朝市 (サンに市)の開催など、「学校であり、保護センターであり、町の将来を 考える研究所」として様々な企画・運営に乗り出している。

?朝日町は、元気で長生きする人でいっぱい!
現在の町の高齢化率は30パーセント。県内でも高い数字となっている。 しかし、「元気で長生きする人がいっぱいいるっていうことは、町がたくさ んの知恵袋を抱えているっていうことよ」と協会事務局長の松田栄子さ んは笑う。その隣で、町役場企画課の富樫清志さんも、「専業農家率が 高いということは、農業の弾力性があるということだしね」と語ってくれ た。町の現状を憂うのではなく、肯定して活かそうとする姿勢が印象的 だ。「そいつは、いいねぇ~!」と言いたくなる。
しかし、具体的に町の良さに気づくと言っても、生活も文化も自然も「あっ て当たり前」であり、ことさらに宝物として意識しているわけではない。そ れをかけがえのないものとして意識する機会の提供を続けるのがエコ ミュージアムなのだとも言えるだろう。
例えばエコミュージアム紀行では、「まちの案内人の会」のメンバーが来 訪者を案内することで、改めて価値に気づき、地域や資源を見直す。例 えば朝市では、「新鮮で美味しい」というお客さんの一言で、今までは隣 近所に分けていた余分な野菜や果物でさえ宝物だと気づく。その気づき が、いかに現実の生活の中に落とし込まれ、新たな気づきを生む土台に なるかのプロセスが大事なのだと思う。
「お客さんがいっぱい来てけっど、おもしゃいげんとな(おもしろいけれど な)」とつぶやいた朝市のおばちゃんの一言は、現実という風に揺れなが らも、どこか夢を託しているかのように聞こえ、心に響いた。

?出会いが新たな視点や気づき、そしてつながりを生む
この町でまちづくりに取り組む人たちと、そのひたむきな姿勢に共感した 外部の人たちとの出会いから、さらに新しい視点や気づきが生まれてい く。
エコミュージアムの取り組みを担ってきた一人である菅井正人さんは、り んご栽培と稲作を中心にした農家。農村生活を楽しくするためにと、地 質学と生態学をベースにした (有)生活地理研究所を設立し、地域資源 からの商品開発等、町の将来をエコミュージアムと連動した形で考えて きた。糖尿病や神経痛などに効能がある「りんご温泉」の温泉を掘り当て たのも、菅井さんだという。単に、地域の資源を掘り起こすだけでなく、入 場料一人300円のりんご温泉を経営ベースにのせた才覚と粘り強さも合 わせ持つ。
そんな菅井さんのひたむきさに共感し、定期的に町へ通い出したのが、 民俗研究家の結城登美雄さんである。

?食を囲んで和気あいあいの場づくり
原材料のほとんどが地元産のぶどうを使用し、山形県内のワイン生産の 約20パーセントのシェアを占める(有)朝日町ワイン工場の敷地。ここで、 来訪者向けにワインと食をセットにしてサービスするだけでなく、町の人 が思い思いに集い、日常的に楽しめる場づくりをしようと、町民手作りの 石窯が完成した。その提案者が結城さんだ。
“石窯でピザや燻製、焼きりんごを作ろう。”“ほかに何ができるかね?”“ワ インを飲んで楽しく語らいながら、みんなで一緒に食べようよ。”そんな石 窯を囲んでの会話が聞こえてくるかのようだ。それは、米飯中心の食生 活とは違った形で、りんごなどの町の産品が利用されるチャンスにもな る。
また、現在、各家の軒先には、りんごの枝や古くなった木が山積みになっ ている。それを持ちよって石窯にくべようというのだ。「捨てるのに困って いたものが活用されることで、宝物になるんですよ」と、町の人の声も明 るい。
これから第2号、第3号の石窯も作る予定とか。

?つながりが生んだ特産品
さらに、結城さんのつながりで、ワインと食を目当てに町を訪れた仙台市 内のパン工房「ZOZO」の井上純子さん。風が甘酸っぱい香りを含んでく る収穫時、りんご園を前にした井上さんの「りんごから酵母をおこして、お いしいパンが焼けるよ」という何気ない一言から、新たな町の特産品が 生まれることになる。
そもそも、井上さんは、「原風景である麦畑がどんどん無くなってしまうの が淋しい。ほんの僅かでも麦の需要が増えれば」という思いで、国産小 麦と天然酵母のパンにこだわり続けている人。「粉を通して、畑が見える ようになってきたのよ」とは意味深い言葉だ。これまでも、県内の野菜や 果樹生産者から分けてもらった小豆やいちじく、かぼちゃなどから酵母を おこしてパンや季節のパイを焼き、出来上がったものを返すという物々交 換で生産者との交流を図ってきたという。
早速、試作されたりんごパンは大好評。その後、農業研究所内にある「り んご資料館」や「世界のりんご園」に植栽されている13カ国、170品種のり んごからも酵母をおこし、朝市(サンに市)の一品として売られることが決 まった。
現在、りんごは町の農業生産額の約半分を占める主要作物。一時は、 黒点病の発生で「和合の星りんご」と悪名がつき栽培をあきらめる・・とい う困難を乗り越え、技術研究を重ねた百年以上の歴史を持つ。それだけ に、りんごを今以上に「宝物」として活かそうとする町民の気持ちも強く、 りんごパンへの期待も大きい。町に一軒もパン屋がないことも、さらに期 待を大きくする理由となっている。
当座、パンはZOZOで焼かれ、金曜日に町に向けて発送される。しか し、「石窯でパンを焼きたい」「ジャムも作りたい」という声に、井上さん は、「パンづくりのノウハウを提供して、地元のおかあさんたちと一緒にこ の町でパンを作ってみたい」と思っているそうだ。発送費用は、売上げか ら回し、売り手はエコミュージアム協会や朝市のメンバーが担う。「町の 良さを理解してくれて、お手伝いしてくれる外部の人とのつながりを大事 にしたい」という気持ちは、外部から町へ関わる人の愛着を生むことだろ う。

?町ぐるみの取り組み
それぞれのやり方で
地域資源を博物学によって評価し、次世代につなごうとするエコミュージ アム。菅井さんは、「エコミュージアムの下地はできてきた。これからは、 もっと農村間の交流が活発になったり、若い人たちが興味を持って取り 組んでいけるようになればいいんだがな。若者の新しい視点を入れるこ とで、別の若者を惹きつけられるような取り組みになっていけばいい。そ して、きちんと食っていけるような産業にしていかなきゃな」と語る。町に は、菅井さんのように、エコミュージアムを積極的に経営ベースにのせよ うとする考えを持った人もいる。「それぞれの考えで、生きがいづくりにし ろ、産業づくりにしろ、やっていけばいいんだ。それでいいんじゃねえか」 という言葉から、それぞれの違いを認め合い、それぞれが発展してつな がることで、朝日連峰のおおらかさにも負けない地域が実現するのかも しれないとフッと思った。

取材協力:朝日町エコミュージアム研究会、NPO朝日町エコミュージアム 協会のみなさん
朝日町役場企画課、菅井正人さん、結城登美雄さん、井上純子さん。
朝日町のホームページhttp://www.etos.co.jp/~asahimati/



05)
研究会動向


都市農村計画研究会
第6回シンポジウム報告 日時:9月30日 テーマ:土地利用と交通
パネリスト;
(財)計量計画研究所・林一成氏、仙台市交通局・佐野公司氏、仙台市都市整備局・早坂 宏之氏

?まず、林氏から仙台都市圏の総合交通計画を土地利用と関連づけて 説明。
1972年、仙台都市圏の総合交通計画がスタートしたが、今まではいかに 道路、または、公共交通のインフラを造っていくか、特に公共交通の柱に なる鉄軌道を造るという事を中心に議論がされてきた。
この30年間で、都市成長が急速に進み、宅地の郊外化が進む中で、車 を中心とするライフスタイルが定着。しかし、その一方で、公共交通、特 にバスが利用されなくなり、車利用をしていない人の移動が、非常に困 難になってきている。他にも、生活上の問題、環境問題、まちの活力の問 題などで厳しい現状認識がなされてきている。つまり、都市全体の成長 管理と土地利用の連携が不十分だったということが課題提起された。
こうした課題から、現況の「市民生活の利便性」と「車による環境負荷」を 考えた土地利用を展開していかなければならない。
また、市民にも交通機関の使い方では、TDMというような交通マネージ メント、需要マネージメントも理解されはじめている。
しかし残念ながら、現在の法体系では、土地利用の問題、交通の問題を 評価しても、都市計画上の手だてがない。市民自らも、居住地の選択や 土地利用を調整するひとつの視点として「交通」について考えていくべき ではないか。
?佐野氏からは、今まで、交通を考えずに土地利用を進めてきた結 果、「仙台がどういう状況になってきたのか」を、仙台市のバス事業、自 動車事業の決算の状況等の説明を通して報告。
バス事業の経営を維持していくためには、適当な密度の都市空間にす ることが必要だが、仙台という街は土地利用の面からはバスの事業者に とっては非常に厳しい環境の街である。他の政令指定都市と比較すると 郊外化が進んでいることにより、バス路線の延長距離数が伸びる一方 で人口密度が低いため、バスの利用・集客率が低い。
公共交通の利便性を高めるという意味で、郊外開発は押さえていき、あ る程度の人口を中心市街地に集中的に貼り付けていくことが必要なので はないだろうか。
?土地開発の主要なツールの一つである土地区画整理事業の現状や 課題について早坂氏から。
1980年代から、より郊外型、あるいは農地転用型の開発が急ピッチに進 んできた。その結果、宅地の供給過剰になって、市内での需要が減るな かで、地価下落が今後も予想される。その背景には、農業だけでは生活 できない現実から、都市近郊農地の宅地化が影響していることも一因。
今までの区画整理イコール儲かるという構造が異常で、これからは、道 路や公園のつくりかた等、質次第で儲かる場合も損する場合もあるとい うのが、普通だというところに多くの方々が気づき、そういう開発のあり方 を真剣に考えるようになってきているんじゃないか。また、最終的には、 市街化調整区域の見直しが必要。
?パネリストからの話題提供を受けて、フロアーからは
*採算の問題と 住みやすい生活環境の両立をどうするか。
*市民が、問題提起していくことも必要ではないか。
*交通側と土地利用が都市計画上どういうふうに手を結ぶか。など、質問 が出た。
?それらに対し、
「行政と市民が同じレベルで、やっていかないと、どうにもならない時がき ている。そのためには、情報をオープンに流して議論を行う必要がある。 そういった意味では都市農研のシンポジウムのような場で各種の情報が 公表・討論されることで政策決定につながっていくこともあるのではなか ろうか。」との見解が出された。
さらに、「そもそも、都市農研のシンポジウムは、都市部が拡大していくの に対して、農村部が弊害を受けていることに対して、共存を図れないだ ろうかということをねらいにして、始まっている。」
「既存市街地を再生するために、仙台市はコンパクトシティの実現を目指 しているが、それに対して、農村部をどうやって守っていくのか、産業論 として農業が都市とどうやって関わっていくのかということを、示す時期 であろう」と閉めた。
■99年10月から、隔月開催してきた「都市と農村の土地利用を考えるシ ンポジウム」は、計6回を数えて一旦終了。今後、研究会では全6回のシ ンポジウムの議事録をもとに、総括を行う。それをもとにディスカッショ ン、論点の再確認を行い、研究会としての見解を報告書としてまとめ る。 (報告者:芦立千佳子)



研究会報告

<アースワークス研究会報告>
仙台市坪沼でプチファームを始めてから約半年。慣れない農作業も、農 家・佐藤さんの協力を得ながら、ようやく初めての収穫までこぎ着けるこ とができた。
個人用、共同用の両スペースはともに予想以上の成果を見せ、研究会 では、共同スペースで栽培していた里芋の収穫に合わせて、10月15日 に研究会員他20数名が参加して収穫祭を開催した。午前中は全員で里 芋、ネギ、枝豆などの収穫体験を、午後はそのとれたて野菜を畑で試食 した。メニューは、芋煮、里山パエリアなど。すがすがしい秋晴れのもと、 農と触れ合う実り多い1日となった。
現在、プチファームは秋蒔き野菜が所々芽を出している。とにかく、現段 階では作付けから収穫までの1サイクルが終了。メンバーは安堵と同時 に、今後続けていく上での課題も感じている。畑に通える頻度に合わせ た作物の選定や各自の農業知識、技術の習得は勿論のこと、グループ 内での連絡体制や共同スペースの利用、管理体制など、プチファームの 特徴である協同管理をよりスムーズに進めるための改善点も見つかっ た。今後は、これらの課題に加え、畑で一服の中で着々と積み上げてき た農家・佐藤さんからの情報なども含めて、事例集作成に取り掛かる。
また、前回の「ひたかみ」での報告に関心を持っていただいた方々から、 プチファームと同じようにグループでの農業の実践や、高齢者向けのプ チファームの提案など、様々な情報が寄せられている。今後、研究会で は、地域の同じような活動グループとの情報交換や交流のできる場も設 けていきたい。(櫻井)

<水辺里山空間研究会>
11月19日(日)、秋保市民センターにおいて「里山のおくりもの」と題して、 マップ作成のためのワークショップを開催した。7月の秋保里山学校の2 日目に行った「森の工作」を、秋の里山でとれたものを使って、というバ ージョンに組み立て直したもの。
参加者は親子12組38名、スタッフは20名。今回は新たに、湯元小学校 の木村先生や地底の森ミュージアム元館長の阿部さん、などがスタッフ に加わってくださり、ネットワークがさらに広がった。
研究会では、自然や環境をキーワードとしたまちづくりを、市民・企業・行 政の協働によって実現できないだろうか、とモデル地域による実践を通 して検討。今年度は、里山を保全するということを切り口に秋保地域で、 活動している。
今年度の最終目標としては、里山学校、ワークショップといろいろな人た ちと関わったプロセスの中で生まれた気づきなどを織り込んだ「秋保の 自然・ふしぎ発見おもしろガイド」を作成する。課題としては、そのマップ をどのように秋保地区の人たちに使ってもらうか、秋保の子どもたちを交 えた、活用教室の組み立てが残っている。今後、さらに研究会でもんで いきたい。(芦立)