2001年5月号

01)コミュニティビジネスは地域づくりの新しいモデルになり得るか
02)大河原町の地域づくり Part1
03)世代をこえて伝えるべきもの〜鳴子・石の梅地区〜
04)宮崎町総合計画の策定を通じて
05)「よくわからないバスがわかるように」交通を考える部会の挑戦
06)アースワークス研究会
07)まちふぉあれこれ



01)論点
 コミュニティビジネスは地域づくりの
新しいモデルになり得るか
まちづくり政策フォーラム理事  新川達郎


1. 地域づくりの担い手問題
 全国で広く展開されている地域づくりの試みは様々な成果を生み出してきているが、その一方では、そうした活動が多くの障害に直面してきたことも事実であろう。そのなかで、当面する問題を克服するための手法として、NPOへの注目が高まってきた。NPOのもつ組織性や自発性、そして、基本的には非政府非営利の活動である点が、地域づくり活動の一定部分には,かなりの共感を持って迎えられたと考えられる。
しかしながら、日本的な現象かも知れないが、NPOが、単なる組織形態としての機能的な意味をこえて、公共の利益への貢献やボランティア主義を強調されるとき、これに対して違和感がもたれてきたこともまた事実であろう。「公益」から「共益」へと用語の再定義をし、「ボランティア」を「思いをかたちにする」と言い換えても、この葛藤は解消されるわけではなかった。というのも、今のところ日本では、NPOが「NPOによるNPOのためのNPO」であるところから、なかなか抜け出せないでいるからでもある。
こうした状況に対する解決策の一つとして、本来のNPO的な活動のあり方、つまり社会的で経済的で継続的組織的な非政府非営利活動を、平均的な市民が構成する市民社会にとって、あたりまえのものとして展開できるモデルが必要なのである。そしてこのモデルは、地域づくりという観点から見るとき、一つには地域社会に基盤を置くこと、そして二つには展開が可能な事業という、二つの条件を満たさなければならない。そして、こうした条件を満たさざるを得ない状況から生まれたのが、スコットランドのコミュニティビジネスであったということができるであろう。ここ数年、日本でも、これが地域づくりのための新たなビジネスモデルとなり得るのではないかという視点が、幅広く見られるようになってきた。

2. コミュニティビジネスとNPO
コミュニティビジネスあるいはコミュニティサービスという用語への注目が高まっている。日本ではこの5年くらいの間に多用されるようになってきたが、英米でも今のような用語法が定着してきたのはこの20年くらいのものと思われる(なお、言い方としては、ソーシャルビジネス、ソーシャルエンタープライズ、コミュニティエンタープライズなどもある)。
コミュニティビジネスは、身近なお互いに顔の見える地域社会において、住民主体に取り組む営利第一主義ではない事業活動であり、地域資源を活用し利益を地域に還元することで地域の生活を豊かしていく事業と考えられている。福祉や保健医療、教育、あるいはまちづくりなど、様々な分野で活動が広がっている。兵庫県の『コミュニティビジネス調査報告書』(2000年3月)は、コミュニティビジネスを、「地域内を中心に展開し(ビジネス・イン・ザ・コミュニティ)、地域の課題解決や福利厚生の充実に貢献し(ビジネス・フォー・ザ・コミュニティ)、地域の住民によって担われる(ビジネス・バイ・ザ・コミュニティ)事業である」と定義している。
コミュニティビジネスを事業体として捉えた場合には、実は、いわゆるNPOと違いが少ないことに気づかざるを得ない。組織的にも人的資源的にも共通性があるといってよい。また、活躍する場面を考えると、コミュニティビジネスが機能するセクターとNPOセクターとは恐らく相当程度に重なっているように思われる。端的にいえば、NPO法人の介護サービスと、小規模な有限会社による介護サービスとの関係である。実践の現場から言えば、コミュニティビジネスとNPO活動との間に隔たりは感じられないということになろう。定義はともかく、こうした用語が注目を集めてきたのが、英米の場合であれ、日本の場合であれ、NPOへの注目の時期と重なって、あるいは少しそれに遅れてはいるが随伴してきているという点には、留意をしておきたい。(いずれの用語も、後期資本主義国家体制下における自由資本主義の諸矛盾を、体制内変革的に解決しようとするものであるという位置づけはできるし、また、従来の公共部門と民間部門に代替する新たな社会経済(ソーシャルエコノミー)という視点がEUでは重視されてきているが、こうした観点からの問題指摘は別に検討する必要がある。)
ともあれNPOとコミュニティビジネスの世界には、根本的に共通するところがある。こうした観点からコミュニティビジネスの特徴を考えてみよう。第1に、地域の需要に応えて、きめ細かく人間的に対応できるという点。別の言い方をすれば、それらが政府部門でもなくまたグローバル化が進む自由市場でもないところに成立するという点である。つまり、非政府、民間非営利というNPOセクターと、コミュニティビジネスは近い位置にあるということができる。従来から言われてきたとおり、政府・行政によっても、民間営利企業によっても充足されない隙間(ニッチ)にある、しかし本来はこれまでのいずれのセクターよりも幅広いニーズがある分野で、活躍を期待されているのである。第2に、これらがボランタリズムと社会性を持つ事業だという点である。社会と関わりのあるそれぞれの多様な価値観を反映した「思い」を実現していくことを共に目標としているのである。そして、NPOが日本流に言えば不特定多数の利益(公益)に貢献するものであるとされているのに対して、コミュニティビジネスやコミュニティサービス、あるいはソーシャルビジネスは、地域社会に貢献する社会事業として位置づけられる点である。これらによって、自己の利益を追求する営利企業のベンチャーとは、一線を画することになる。
もちろん、コミュニティビジネスと呼ばれるものは、日本型のNPOとは異なる点も多い。一つには、それが事業活動であるという性質を基調とすることから、市場経済に近いところまで活動範囲が広がっている点である。二つには、社会的な事業を展開できればよいのであって、ニーズに応えるという観点が重視されており、目的や手段そして組織運営の選択が、より自由に考えられるという点である。こうした特徴を考えてみると、日本の情況からすれば、地域づくりをNPO型組織で進めて行こうとする場合に、その活動の展開モデルとして、コミュニティビジネス・モデルが、有効であるように思われる。

3. 社会的起業と社会的企業家
コミュニティビジネス・モデルは新たな地域づくり像を提供する。これまでの福祉や保健あるいは文化や産業などそれぞれの分野で進められて来た地域づくりに、事業を起こし展開していくという観点からのビジネスモデルを提示するのである。そのことは、これまでの地域づくりの発想が、定型的でお仕着せのものになりがちであったという貧しさを乗り越える可能性をも持ち合わせている。具体的にあらたなビジネスモデルが提供している視点を、社会的起業と社会的企業家という2点から整理しておこう。
第1に、社会的起業という観点では、地域づくりを社会的起業として捉えることに違和感はない。地域の資源を発見し、地域に則しながら、地域の需要に答えていく新たな事業起こしは、地域づくりそのものである。社会的起業という以上は、そこに、地域社会とのネットワーキングが重要であること、そして、地域にいなければ見えにくい需要と資源を発見し、供給と効果を生み出していくことが条件となる。逆説的にいえば、社会的起業は、従来の地域づくりが見逃してきた地域課題に応えていくことによって、地域づくりに貢献することになる。社会的起業は、従来型の地域社会構造や地域社会の運営を変えていく力を発揮することにもなる。
こうした社会的起業を積極的にすすめさせる力の源はどこにあるのか。それが第2の論点である社会的企業家の存在だ。コミュニティビジネスを起こし、それを展開できる企業家が、鍵になるのである。もちろんこれまでは、積極的な活動をしてきた一部の人々、あるいはその追従者達だけが、社会的企業家と呼ばれる資格を持っていたといえるかもしれない。しかし、これからは、こうした社会的企業家を、地域社会自らが調達していくことが重要となっている。それは外部からの導入でもよいし、内部での育成でもよいのだが、少なくとも地域社会における潜在的な需要を掘り起こし、地域資源を再評価でき、そして事業化ができる企画力や提案能力そして組織能力や実行能力が伴わなければならないのである。そんな人が居れば苦労はしないという声が聞こえてきそうであるが、これも逆説であり、そうした嘆きこそが、貴重な人的資源を見逃させることになっている。たとえば、米国の大学では、サービスラーニングと称して、こうしたコミュニティサービスを、実践的な学習も含めて、カリキュラムとして整備してきている。そこでは、コミュニティビジネスも含めてさまざまな事業へのインターンシップをカリキュラムに取り入れてさえいるのである。われわれもこうしたサービスラーニングを、地域の手で、市民の手で、広く進め、社会的企業家を排出することを真剣に考えるべき段階にきているのである。



02)事例1
大河原町の地域づくり Part1
「感動」から動き出すまちづくり

まちの活性化・・・どこでも掲げているお題目であるが、そう簡単にはいかないのも現実である。そのまちに住む人たち自らが社会計画・産業計画・都市計画の側面をふまえて、コミュニティや地域社会を考えていくプロセスがまちづくりだという。そうだとすれば、結果的に活性化につながるプロセスとはどんなものだろうか?
宮城県柴田郡大河原町は、仙台市から国道4号線を福島方面に向かって車で約1時間。宮城蔵王に連なる田園風景が、国道沿いの大型ショッピングセンターと混じり合う一角には、文化施設や総合体育館、官庁施設があり、さらに県南の中核となる総合病院が建設を予定している。今号〜次号の2回にわたって、この地区に混在する「公共」と「民間」の広域圏(2市7町)を視野に入れた取り組みや、「住民の思い」を主体に考えたソフトをご紹介しながら、上記の問いの手がかりを探ってみたい。

愛称「えずこホール」と呼ばれる「仙南芸術文化センター」は、1996年に宮城県が行った「広域圏活性化プロジェクト推進事業」によって建設されたものである。
外観が大きなえずこ(方言で「赤ん坊を入れるかご」の意)を伏せた形になっているこのホールは、住民の文化活動を育てる揺りかごとして、(財)仙南文化振興財団が軸となった様々な住民参加型事業を展開している。年間事業費は約5000万円。うち半分は住民参加型事業費で占める。

<文化に通じる喜びを>
そもそも、「なぜ、住民参加という運営方針をとったのか」を(財)仙南文化振興財団事務局次長の水戸雅彦さんにお聞きした。
「構想段階から、ホールの設計コンセプトとして提案されていたことなんですよ。運営については、開館1年半ぐらい前に設置された準備委員会で詰めました。その時点で、すでに県内だけでなく、全国的にもたくさんのホールが建設されていました。しかし、それらの多くが同じような事業を展開し、ハード先行でソフトが遅れているという話を聞いていました。そういう環境の中で、文化ホール建設としては後発の我々がやれることは何か。仙南圏の小さなホールが住民に愛されながら文化の中心になるにはどうしたらいいのか。有名なアーティストを呼んで集客をするようなお金のかかる事業は、予算のある他のところにまかせて、もっと住民にシフトした事業にしていくべきだと考えました。それで、住民自らが、文化に通じる喜びを感じてもらうことに主眼をおいた事業を展開することにしたのです。でも、芸術や文化というと難しくなるので、生活をより豊かにする地域おこしと考えています。」
ちょうど、公共ホールも、多目的型から専門型を経て、住民に開かれた運営を目指す「第三世代の市民参加型」に注目が集まり始めた頃だったという。

<えずこの中で育つ住民参加型事業>
まず、住民が自主的に音楽活動を行う拠点として、ホールの中に「えずこミュージックアカデミー」を設けている。そこに参加する4団体、130名ほどの住民に対して、ホール使用料金の減免、指導者派遣料の定額補助(年間、各団体が36万円程度)、4団体の合同コンサート実施等、財団側のバックアップは大きい。住民の企画を経費助成や広報協力などで応援する「えずこ圏民企画劇場」も実施。事業を支える会場整理や託児等の裏方は、すべて「えずこボランティア・スタッフ」が担っているが、財団側がスタッフ研修会を企画するという形をとっている。
また、役者や舞台スタッフを公募し、年1回の創作演劇を上演する「えずこシアター」、イベントプロデュースをワークショップで学び、実際にイベントを企画・運営する養成講座形式の「えずこプロ」など、育成事業も展開。ここでの財団側の役割は黒子役である。参加者が自分たちで「何がしたいか、何ができるか」を考え、手作りのプロセスから感動や充実感を得るための様々なお手伝いをしているのだ。たとえば、一つのイベントを通してのメンバー間の試行錯誤や紆余曲折のやりとり、あるいは出演者であるプロたちとの終了後の感想のやりとりを、Eメール、情報通信紙を使ってコーディネートをしているという具合である。
まるで、「えずこ」の中で子育てをしているかのように、「過保護」でも「放任」でもなく、子どもの性格や状況にあわせた「保護」の状態を模索しているという感じだ。「住民参加型事業は、たしかに財団側が用意したプログラムですが、参加者がそれに乗ったお客さんでいる限り、失敗すると思います。仕掛けや成り立ちがどうであれ、参加者が主体的に関わり、自分の事業だ、自分の問題だという意識をもってはじめて成立する。そういう意識をいかに醸成させるかが、われわれ職員の仕事なんですよ。」そのために、どこまで財団側が住民サイドの運営に関わるか、その微妙な距離間を測りながらの取り組みとも言えよう。
しかし着実に、そうした積み重ねによって、一人ひとり違う意識の組織がまとまり、財団側と住民との信頼関係が築かれているのだろう。

<「えずこ」から
「地域のプロデューサー」を育てる>
中でも、「えずこプロ」は、「圏民企画劇場」で企画を公募したが今一つ盛り上がらなかったところからの取り組みだという。住民の主体性に期待したが、その期待どおりにいかなかったわけである。しかし、「隠れたプロデュース能力をもった人は必ずいます。そんな人を発掘し、仕掛ける側の人を育てようということで始まった。」そうだ。そこには、明確に「圏域内には、文化財の建物もありますし、自然も豊かです。プロデュース能力をもった住民が育つことで、ホールの中だけでなく、地域の中の魅力的な空間を生かす事業を企画してもらえるようになれば嬉しい。」と、活動の輪が拡がるイメージがある。
しかし、すでに、「えずこ」の活動はその内部に留まらない。2001年1月19日、20日には、えずこホール初のアウトリーチ事業(ホールの外で展開する事業)として、日本を代表する若手クラシック・アーティストふたりが、仙南の5つの小学校と養護学校で出前コンサートを実施。これは、教育委員会を通して実現した企画である。460人を超える子どもたちが、音楽室で最高レベルの演奏を鑑賞したり、一緒に演奏したり、音楽的な質問をする機会を得たわけだ。「親自身が興味ないと、音楽や演劇鑑賞に子どもを連れてきません。鑑賞に来ている親子は、多く見積もっても地域人口の1パーセントくらいでしょう。」だからこそ、出前なのだと水戸さんは語る。「多感な時期だからこそ、広く刺激的な経験の場が必要なのだと思います。10年後20年後に、本物と出会い、過ごした記憶が彼らの内に残っていたら、何かが変わっていく可能性が生まれるかもしれない。私たちが、どうして芸術文化を振興しているのかと考えると、単にその素晴らしさを伝えればいいというのではない気がします。人と人とが一緒に共同作業をすることによって、お互いが影響し合い、意識が変わり、人として成長する。そして、いつかは地域全体が変わっていく・・・長い時間がかかると思いますが、そこまで見据えたときに、住民参加型事業は、地域づくりのための良い方法になるのではないでしょうか。」
地域づくりは「人づくり」。それが、いろいろな場で実を結び始めるとき、まちも静かに活性化していくのかもしれない。(報告者 安部優估)



03)世代をこえて伝えるべきもの
〜鳴子・石の梅地区〜

【はじめに】
鳴子町石の梅地区は、「石の梅まちづくり創造研究会」という地域づくり団体が中心となりまちづくりを行ってきた歴史があります。95年には温泉や郷土料理など地域資源の活用手法などを学びあう「石の梅まちづくり小学校」の開催、アンケートなどの調査研究活動等が、財団法人宮城県地域振興センターによって行われました。その後も、様々なひとたちが地域づくり活動に関わっている地域です。
「石の梅まちづくり創造研究会」は、温泉旅館経営をしながら農家もなさっている板垣幸寿さんが中心となり、地元の旅館経営者、農家、地区住民が、「むらの原点を見い出そう」と、グラウンドワーク的な手法を用いながら、自分達の住む地域の活性化と地元資源の発掘(新たな見直し)や温泉地に訪れる訪問者との心の交流を目指し、活動を続けてきました。
しかし、活動を継続するにあたっての課題から、地域の資源を見直し、新しい鳴子のスタイルを創る必要性がでてきています。
【音楽を奏でながら】
その課題解決のために、鳴子町の20〜30歳代の地元の後継者の「なるこ未来創造会議」があります。彼らは、「後継者、創造者としての誇り」を持って、「鳴子にくらし、生きる」という視点から鳴子の将来像を探っています。
地域において、20〜30代の後継者がこうした活動に参画するには、世代間の軋轢や地域のなかでのしがらみなどもあり、難しいようです。
しかし、石の梅地区の人たちには、今まで積み上げてきたまちづくり小学校などの取り組みがあり、積極的に、このような後継者の活動について理解し、応援する土壌があるようです。創造会議の事務局を務める公民館の大沼幸男さん、そして板垣幸寿さんは、彼らより世代は上になりますが、彼らをあたたかくサポートするようなかたちで、この団体に参加、協力しています。
みなさん音楽が好きで、楽器を手に熱くお話をする方々です。5月上旬に、青年会などが中心になって開催された「湯の街ばざーる」での三夜連続音楽会や、鳴子町青年会代表で「雪渡り」という鳴子の酒づくりに取り組んでいる高橋佳弘さんの弾き語りライブやお話をお聞きすると、「地域を考えよう」というだけでなく、音楽を通じての「世代を越えた心のつながり」という感じがしました。
今年度の取り組みのねらいは、地域のなかで生産と消費がうまく循環するように、また、若い世代が「里山」、「人」、「地域」、「心」の景観を再認識して、様々な視点に目を向け、視野を広げることによって自分と地域、そして地域で生きていく後継者、創造者としての誇りをもつことにあります。

【新たなつながりを求めて】
宮城大学事業構想学部、みやぎ地域づくり実践塾、石の梅地区住民、鳴子町青年、大崎森林組合、そしてなるこ未来創造会議など、関係機関がそれぞれ交流、調査研究することによって、伝統的な湯治場である鳴子を、それぞれの様々な視点から、世代を越えて複合的に伝えるべきもの、残すべきものを再確認し、人と景観の将来像を探る可能性が出てきています。
たとえば、宮城大学事業構想学部の学生は、キノコ栽培、森林整備作業など、仕事と暮らしが融合した里山の生活を体験し、都市農村青年交流の現場から考えています。
私が参加している、宮城県主催の地域づくり実践研究事業「みやぎ地域づくり実践塾」の環境部会は、「里山の暮らし」をテーマに、地域活性のあり方について課題を探るとともに、植林、イベントの開催などを通じた研究活動をしています。
長い間、綿々と続いてきたひと、ものの「つながり」が途切れようとするなか、世代を超えた取り組みがはじまっています。報告者 三浦隆弘



04)まちフォニュース
宮崎町総合計画の策定を通じて
(住民参加による総合計画策定の考察)

昨年度、宮城県宮崎町の総合計画(平成13年度から17年度までの5年間計画)策定が行われた。今回の総合計画では、計画策定の段階から住民参加を目的の一つとして掲げ、住民の意向を積極的に盛り込み、これからの社会に対応できる計画づくりを目指すため「まちづくり住民会議(以下住民会議)」を設置した。また、これからの行政運営を担う職員の政策能力と主体的意識を形成していくために、行政職員で構成される「策定本部会議(以下本部会議)」を設置した。町当局とまちづくり政策フォーラムで構成される事務局には、住民と行政さらには他の部局から出される意向を調整しながら、如何に魅力的な計画を創造していくかという役割を課せられた。

■住民による計画づくり
(まちづくり住民会議の作業内容より)
個性的で魅力あるまちづくりを展開していくためには、住民自らの発想や地域資源を生した計画を策定していくことが大事である。その実現に向けた手始めの作業として、3地区に分かれて住民会議が開催した。住民会議では、限られた時間の中で効率的に参加者の意見をうかがい、普段発言することに不慣れな人も気軽に意見を出してもらえるようにワークショップを採用した。各地区から推薦・選抜された参加者は、合計56名(内女性23名)で、事務局と一緒になって意見を交わした。
平成12年6月30日から7月1日に行われた第1回住民会議では、参加者に会議の雰囲気に慣れてもらうため、ウォーミングアップを兼ねて?宮崎で大切にしたい資源・課題はに何か?、?今後どんな地域、或いは町にしたいか?という2点について質問した。会議は、5〜8名程度の小グループに分かれて話し合い、その結果を最後の全体会で代表者から発表してもらった。
第1回の会議結果を受けて、事務局では図で示したように参加者の関心が高いと考えられるテーマに整理した。第2回住民会議は7月16日に行われ、参加者は前もって整理されたテーマの中から関心のあるものを選択し、そのテーマごとにグループを再編成した。ここで話された内容は、かなり実施計画に近いレベルのものが多く、計画によっては参加者自らが計画に参加する意欲が見られるなど、次年度以降の住民参加によるまちづくりの可能性を示唆する成果が得られた。

■行政職員による計画づくり
(策定本部会議の作業内容より)
本部会議は各課の課長補佐、係長を中心として選抜された20名で、大きく4部会で構成され、分野別に話し合いが行われる部会と全体会を組み合わせながら進行した。合計11回にわたり会議は行われ、おざなりの形式的な会議に終わらないように、議事録を1回ごとに職員に配付し、次回会議までに宿題をしてもらったり提言を持ち寄るという作業を繰り返した。主な作業内容は、現行計画の評価と課題の抽出、基本構想(基本理念、将来像、重点プロジェクトなど)の検討、基本計画の検討などである。住民の意向については、一部の職員が住民会議に参加したり、住民会議の結果を本部会議で確認することで情報を共有し、十分に計画に反映するように努めた。

■まとめ
このように、本取り組みでは住民と行政のパートナーシップによる計画づくりを目指したわけだが、行政職員の住民会議への参加が少なかったこともあり十分に達成されなかった。その分できるだけ双方の意向が食い違わないように事務局側で配慮したわけだが、白石市(ひたかみ前号参照)のように住民と行政職員が一緒に話し合えるような動機付けや土壌を用意すべきだったと反省される。しかし一方では、住民会議の開催により行政やコンサルタントの視点だけでは得られないような幅広い意見が見出され、それらを反映することでより魅力的な計画が創造できたことは成果の一つと言える。さらに、計画づくりの過程の中で培った住民の能力や意識の向上が、これから様々な地域活動に発展させていく可能性があることを示唆していたことも重要である。今年度宮崎町では、総合計画の推進に向けて実施計画の策定に移行するスケジュールになっている。そこで、住民と行政のパートナーシップの関係を如何に構築していき、その勢いをどれだけ実際のアクションに結びつけていけるかが期待されるところである。        (報告者 鈴木孝男)



05)研究会動向
「よくわからないバスがわかるように」
(仮)交通を考える部会の挑戦

皆さん、はじめまして。
今年度から発足した(仮)交通を考える部会で連絡・議事録係を担当する山中隆行です。よろしくお願いします。
この会でやってみようと思っていることは、バスを切り口とした「実践的な活動」です。なぜ実践なのでしょう?交通の研究会といえば、「環境」「エネルギー」といった視点から交通についてを考える勉強会というのが一般的です。このような視点から勉強会をすると「何が問題か」ということがわかり、有意義です。しかし、それ以上に「変化」につながることを考えたいと思ったのです。
また、私たちは毎日の通勤通学や買い物など、日常生活の中で交通に密接に関わっています。しかし、従来の切り口で「交通問題」というと、堅く複雑な話に感じられて、交通に関して特に強い関心を持たない一般人には、身近に感じられなくなることもあるでしょう。そんなわけで、この会の基本方針は「実践」になりました。つまり、「現状に文句を言うだけの評論家にはならずに、自分たちでできることをやっていこう」、「参加することで日常と違ったことになるような企画を考えていこう」というものです。具体的な活動内容は、実際に参加者が集まってから固めていこうということにしました。
そして、4月24日に第一回の部会が開かれました。参加者は9名。「学生」「子連れママグループの代表」「フリーライター」「公務員」「技師」「農家」などなど、バラエティに富んでいるというか、全く異なったバックグラウンドを持つ方々が一堂に会したという感じです。参加者の方には自己紹介と、バスを中心とした公共交通について感じていることを自由に述べていただきました。
その結果、仙台の路線バスに詳しい人(=バスの達人)は3名。残りのメンバーはバスを使いこなせていないこと(=バスの素人)、その原因は路線の複雑さ、時間の読みにくさ、乗り方のわかりにくさなどが原因であること、それらの人がバスに乗ることは、地下鉄に乗る場合と比較して、相当の勇気を必要とすることがわかりました。
さらに意見交換の中で、今後の研究会の活動について、いくつかの提案が出されました。それを踏まえて、今後の活動は「I love bus になりたいな」をキャッチフレーズとして、「一見さん(=バスの素人)のための」「バスを使いこなす」ことを目的とした企画を立ち上げて、「使うという動機付けをここから提案する」という方向にしていきたいと思います。具体的には、「遊び場や公共施設と路線バスをドッキングさせて、こども向けに夏休み用の冊子を作る」、「バスの旅のリーフレットを作る」などが提案されています。しかし、具体的な企画の準備をする前に、仙台の街やバスの将来像について何らかのコンセンサスが必要だろうという意見があり、次回は「バスについて思うこと・感じていること」をメンバー全員に片っ端から出していただこうかと考えています。
考えてみれば、交通に詳しい人(=達人)同士で集まって話すのはよくあることで、実際にいくつもの団体が活動しています。しかし、達人と素人が一緒になって話し合う機会は、案外少ないのではないでしょうか。マニアだけ集まってもできないこと、素人だけではできないことを、この研究会で実現することが目標です。まだ始まったばかりの研究会ですが、自由に発言できる雰囲気を大切にしていきたいと思います。
(報告者 山中隆行)東北大学文学部社会学専修4年



06)研究会動向
アースワークス研究会

アースワークス研はプチファームという、遊休農地の有効的な利用のためのシステムを検討することが目的の、圃場管理作業の実践的活動です。
事務局では、遊休農地での農作業のコーディネートと共に、メーリングリストを使った情報交換等の管理をしています。また、「畑で一服」と称して、農作業の仕方や技術、考え方についての青空教室を開催する等、畑を舞台に農家とのコミュニケーションを図る時間も設けています。
実際に坪沼では友人、家族規模の小単位グループがいくつか集まって農作業をしています。今年度から、新たにメンバーも加わり、4月は7日、22日、29日、30日に共同作業として顔合わせをかねて、石灰まき、肥料まき、畝立て、植えつけをみんなで行いました。29日の畝立て、植えつけのときには、TVの取材も入り、その日の昼、夜ニュース、そして5月1日にも記者レポートして放送されました。放送後視聴者の反応も、なかなか上々のようです。
そんな中、天気が味方になってくれず、仙台は、4月の降雨量はたった4mm。仙台管区気象台によると、大正15年の観測開始以来、最も雨の少ない4月とのことでした。5月に入っても、雨はなかなかまとまって降ってくれません。坪沼プチファームでも同様で、みなさん足繁く水やりと畑の管理に通われているようです。
ところで、「以箸廻盥水」(はしをもってたらいのみずをまわす)というお話があります。1本の箸を持って、盥の水をぐるぐるまわす。はじめは抵抗がある。まわし続ければ、水が廻りはじめる。なお廻し続けると、水は渦になる。箸をはなすと渦にのって水の上を廻り続ける。
新しいことをはじめようとすれば、はじめはなかなか周りが協力してくれないものですが、それでも続けていれば、協力者があらわれるようになります。一つのグループができて、ますます盛り上がって勢いがつく。その事業は大きな渦となり、大きな流れとなって発展します。プチファームは、まさにこのような流れにのって、少しづつですが地域に根をおろしながら活動しています。まだまだ課題は山積していますが、それらをすこしづつ解決しながら、楽しいプチファーム活動を展開していきたいと思っています。
(報告者 三浦隆弘)


07) まちフォ あ・れ・こ・れ

4月26日(木)、平成13年度の総会を開催。平成12年度の事業決算報告、平成13年度の事業計画案が承認されました。

いつも、まちづくり政策フォーラムの活動に応援いただきありがとうございます。まちフォの会員種別は法人会員(年会費30000円)賛助会員(年会費10000円)通信会員(年会費2000円)となっていますが、さらにみなさまに参加していただけるように「参加する方法」をいくつかご紹介いたします。

■都市農村計画研究会
参加する方法?
・勉強会やシンポジウム、研究部会への参加
これからは・・・
「里づくりとデカップリング」の勉強会を予定(7月頃)しております。

今春、専門性をいっそう高めるために都市研内に以下の2部会が発足しました。

● 「農村里山地域の土地利用を考える
研究部会」
これまで都市農村計画研究会が取り扱ってきたテーマの一つである「土地利用の問題」をより実践的に取り組んでいくために、新たに「農村里山地域の土地利用を考える研究部会」を発足することになりました。活動テーマは、?これからの農村・里山地域の土地利用のあり方を考えること、?地域住民、行政、NPOのパートナーシップのあり方を見出していくことです。また活動の成果は、定期的に企画書や報告書として提示していきたいと考えております。

●(仮)「交通を考える部会」
詳しくは10ページをご覧ください。


■アースワークス研究会
参加する方法?
・畑会員(プチファーマー)募集中。
畑会員が現在約20名。三浦代表の指導のもと農作業を体験しています。
昨年度の活動のようすを「プチファームハンドブック」としてまとめました。1部300円にて好評販売中。


■水辺里山空間研究会
参加する方法?
・メーリングリストメンバー募集中
今年度は充電の時。メーリングリストを中心に情報を交換しています。メーリングリストメンバーは約40名。各地でのフィールドワークの際メーリングリストを使って呼びかけ、応援してもらっています。
また、メンバー同士、各自のイベントの案内やスタッフの募集、アイディアの提供などにも活用されています。



入谷の里から
宮城県本吉郡志津川町入谷
平櫛賢治

子どもたちの減少により閉校した「林際小学校」が、平成13年4月1日、グリーンツーリズム体験(校舎の宿)「さんさん館」として生まれ変わりました。
「さんさん館」の名前の由来は3つの山と、太陽がさんさんと照る里の意。林際小学校で長く歌い継がれてきた校歌の中にも、入谷の3つの山が歌われています。惣内山、童子山、神行堂山・・・。3つの山々に囲まれた自然豊かな入谷地区。「さんさん館」でのグリーンツーリズム体験は農業、林業体験は入谷地区で、そして、浜の人々の協力で海の体験も数多く集まりました。
これからのおすすめは農業体験では梅の収穫や、お茶摘み(どちらも6月)漁業体験ではほやの水揚げ(4月〜8月)などがあります。日帰りでの体験も出来ますし、もちろん、「さんさん館」に宿泊しての体験も出来ます。子ども会行事、ご家族でのご旅行など、お気軽にご利用いただけたら、と思います。
詳しくは下記まで、お問い合わせください。
予約専用電話0226−46−5051
※編集部にも資料あります。

平櫛氏はアースワークス研究会初代代表。
現在は生活拠点を志津川町入谷地区に移し、「さんさん館」事務局長として奮闘しています。開校から1ヶ月たった今、入谷の春を満喫しながら地元の方たちと充実した日々を過ごされているそうです。


桃源郷体験塾
山形県山辺町

山形県農村計画課の国分さんから、「桃源郷体験塾のお誘い」をいただき、山形県山辺町作谷沢地区まで出かけてきました。

この体験塾は、まずはキノコづくりを体験し、さらに、キノコを収穫するまでの期間、季節ごとに蛍狩りや蕎麦まつりなどを体験していくというもの。
昨年度、国土庁主催の「農村アメニティコンクール・特別優秀賞」を受賞した同地区は、これまでもいろいろな活動を行ってきていますが、スタッフとして参加するメンバーの固定化が課題だったそうです。主催者である吉田朝夫氏はこうした課題を打破するため体験塾を思い立ち、町役場の若手職員と地元若手住民らが一緒に企画し、各々が役割を分担するよう仕掛けたとのこと。
「取材」で伺ったはずなのに、3種類のキノコの植菌の作業で手一杯。ようやく昼食後、山の湧き水を汲みに行くときに吉田氏にお話しを伺いました。「何もないところだけど、何かあるんだよね。それを大切にしたいんだ。」「若い人が主体的にやれるよう仕掛けること、それがポイントだね。」まちづくりは人づくり、おもしろい地域には必ずキーパーソンがいる。なるほど、山辺町にもそんな言葉が当てはまりそうです。“これから1年半、キノコが収穫できるまで、じっくり作谷沢の人たちとおつき合いさせていただきたい。”そんな気持ちになった1日でした。 (報告者 芦立千佳子)