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リレー小説カルザス学園

第五話 俺の出番はこれだけか!?(とある男の叫び)



「お兄ちゃ〜ん☆」

ランディウスに金髪の女の子が駆け寄ってきた。

レイチェル。ランディウスの妹である。

眉目秀麗・成績優秀・品行方正。誰にでも優しく接する、正に優等生の鑑。

運動は苦手だが、そこがさらに男子生徒の人気を呼んでいるらしい。密かにファンクラブもできているという。

「レイチェルか。どうしたんだ」

「どうしたんだ、じゃないよ。あんなに早く出てったのに、なんでまだこんなところにいるの?」

「いや、まあ。こんなわけで・・・・」

ランディウスが指差した先には、不良(おおよそ20人)の小山があった。

「お兄ちゃん、またケンカしたの?しょうがないなぁ」

「俺がしたくてしたんじゃない。こいつらがなんのかんのと言いがかりを・・・・」

『こいつら』・・・・今ではもう二人しかいないが。

「ええい!勝負はまだ終わっちゃいねえ!」

「そうだ!終わっちゃいねえぞ!」

人数が十分の一になっても、まだ強気の不良A・B。

「わかったわかった。レイチェルは早く学校に行け。今日は週番とか言ってただろう」

「あっ!いけなぁい、そうだった。花瓶のお水、替えとかなくっちゃ」

「ほら、あと五分で予鈴だぞ」

「あ〜ん。それじゃあね、お兄ちゃん」

レイチェルは中等部に走っていった。

「・・・・というわけでだ。俺も一時間目は体育だから、早めに行かないと」

「このままじゃあ、許さねえぞ!」

「そうだ!許さねえぞ!」

「許さないのか。なら、早いところ済まそうか」

足をすこし開き、拳を構えて戦闘態勢にはいるランディウス。

だが、もはや二人しかいない不良が敵うような相手ではないのは、彼らが身をもって知っている所である。

「ど、どうする」

「どうするたってよ・・・・」

しゃがみこんでこそこそ話し合う不良。

「・・・・まだ相談は終わらないのか?」

少々待ちくたびれた様子のランディウス。

律儀な彼は、隙を見て逃げてしまうということは考え付かないのであった。

「・・・・仕方がねえ。番長を呼ぶか」

「番長ってまさか・・・・」

「ああ。なるべく呼びたくはなかったがな」

二人組はうなずくと、ようやく立ち上がった。

「何だ、助太刀を呼ぶのか?困ったな。あと三分しかないんだが」

「大丈夫だ。あの人ならどんな所でも一分で現れる!」

「お前なんか二分もあれば充分だ!番長ならな!」

「で、もう呼んだのか?」

「これから呼ぶところだ、覚悟しろ!」

不良A・Bは大きく息を吸い込むと叫んだ。

「番長ーーーーっ!!番長にタテ突く奴がここにいますぜーーーーっ!」

ぜーーーっぜーーっぜーっ・・・・

ご町内に響き渡る不良のダミ声。なぜかコダマ付き。

なかなか良い響き方からすると、応援団にでも入っているのかもしれない。

「・・・・来ないぞ」

コダマが消えてしばらく、ランディウスがぽつりとつぶやく。

「ま、まだだっ!まだ50秒ぐらいしかたってねえ!」

「あと10秒で、ここに現れられそうな人影は見えないんだが」

「いつも番長はとんでもねえ場所から出てくんだ!その辺の水たまりや下水道からひょっこりと!」

「・・・・その番長って、夏に出てきて夜耳元でうるさいやつか?」

「違うっ!たしかにうるさいが、番長は・・・・」

とその時。

ゴトッ

本当に下水道のフタが動いた。

「番長!お待ちしましたぜ!」

転がるように駆け寄る不良。

「ふう。やっと来たか」

再び戦闘態勢をとるランディウス。

「番長!あとは任せやした!」

「あのふざけた髪型の野郎をとっちめて・・・・」

下水道が開いた。

現れたのは、筋肉。

「ぬうりゃ!何がなんだか分からんが、任されたダ」

ガボッ

・・・・二人組により、下水道のフタは閉じられた。

『安全第一』と書かれた黄色いヘルメットを残し。

「・・・・今のが助太刀か?」

「い、いや。人違いだったみたいだ」

「あ、ああ・・・・番長はとりあえず人間だ」

ぴゅうう〜〜〜・・・

三人の間を通りぬける寒い風。

「さてと、更衣室に行かないと」

歩き出すランディウス。

「待て!まだ番長は来てないぞ!」

「来てないから、行くんだ」

正論である。

思わず言葉に詰まった不良たちを置いて、校門に向かい歩き出した。

その時。

「待てぇぇぇい!」

ランディウスの背に言葉が投げつけられた。

無論、不良たちのものではない。

「何だ?」

「その声は、番長!」

「番長!」

朝日をバックにして、電柱の上に立つ金髪の男。

「そのような妙な髪形の分際で、俺の子分を可愛がってくれたようだな」

「妙な髪形とは何だ!個性的と言えーーーーッ!」

怒るランディウス。けっこう気にしているらしい。

「ふっふっふ。真実を言ったまでだ!」

その金髪の男もランディウスに負けない妙・・個性的な髪型なのだが、朝日を背にしているせいで残念ながらランディウスには分からない。

「お前こそ、なんでそんな変な所にいるんだ!」

「話したところで分かるまい・・・・」

答えは簡単。目立ちたかったからである。

出番が遅れたのも電柱を登っていたからだが、それは彼だけの秘密だ。

「だいたい、誰なんだ!」

こんな変なヤツは放って更衣室に行きたいな、と思いつつも一応尋ねてあげるランディウス。優しい人だ。

「良くぞ聞いてくれた!俺は愛と平和をもたらす者。このエルサリア市に真の正義を広めるべく・・・・」

金髪の男が名乗りを上げる・・・・



さてその頃、例の姉妹はというと。

「まず、最初にサンダーストームで・・・・」

「・・・・姉さん。本当に二人で協力、なんて考えてるの?」

まだシェルファニールの言うところの『ランディウスさんを二人で協力して救援作戦』を考えていた。

アンジェリナは、どうしても去ってくれそうもない姉に付き合って、しぶしぶ話をするはめになっていたのだ。

下手に出て行かれて、『愛しのランちゃん』に気付かれるよりはましだと考えたからである。

「ええ、考えていますわ」

にこやかに答えるシェルファニール。

「・・・・本当?」

「本当に、本当よ」

「本当に、本当に、本当?」

「本当に、本当に、本当に、本当よ」

「本当に、本当に・・・・」

そこまで言いかけたところで、アンジェリナはまたも姉のペースに巻き込まれていることに気付き、黙った。

なぜ我に返れたかというと、シェルファニールが妹の『本当』の数を指を折って数え始めたからである。

「とにかく、その案は却下」

「残念ですわ。では、救援作戦17号を」

「はいはい。今度は何?」

「相手の方をトルネードで吹き飛ばして・・・・」

「それで、私の出番は?」

「・・・・・・まあ」

「まあ、じゃないでしょ!!まったく、姉さんは・・・・!!」

思わず叫ぶアンジェリナ。

そして自分の声の大きさと状況を考えて、すぐに口をつぐむ。

「アンジェリナ、そんな大声を出したら相手の方に気付かれてしまうかもしれませんわ。静かにしませんと」

「・・・・・・・・」

(ランちゃんのこんな近くにいられるのに、どうしてこんな不愉快な思いをしなくちゃいけないの!)

あまりのやり場のない怒りに、黙り込むアンジェリナ。あとで胃薬を飲んでおいた方が良いかもしれない。

「救援作戦18号は・・・・」

「・・・・あらかじめ言っておくけど、メテオみたいな凶悪広範囲攻撃魔法は即座に却下よ」

「そうでしたの?」

「そうなの!」

「なら、可決ですわね」

「え?」

「ウィンドカッター!」

「ちょ、ちょっと!」

あわててシェルファニールを取り押さえたが、もう遅い。

メテオと違って、単体攻撃魔法のウィンドカッターは彼女ほどの魔術師ならば詠唱はほぼ一瞬である。

しゅばばばばば・・・・

飛んでいく風の刃。



「ルシリスの名において、これを断罪し・・・・」

「・・・・いつ終わるんだ!」

もうとうに五分は過ぎている。そろそろ本鈴が鳴ってもおかしくはない。

さすがにランディウスもしびれを切らしつつあった。

「番長の口上は長いっスからね。でも、もう終わりだ」

「やれやれ・・・・」

三度戦闘態勢を取るランディウス。ご苦労様。

「我は無敵なり。我が一撃に・・・・」

すぱーーーん!

「愛と勇気と希望の使者。そう、俺の名はディ・・のわあっ!」

ガラガラガラガラーーーーッ!!

ウィンドカッターにより真っ二つにされ、崩れ落ちる電柱。

当然、上に乗っていた金髪の男も真っ逆さま。

ごぎいっ!ぐちゅうっ!

実に痛そうな音である。自分で書いておいて。

ちなみに前の音は激しく地面に叩きつけられた音で、後の音は電柱の上の部分が哀れなその男の上に落ちた音である。

「ば、番長おおおおっ!!」

慌てて駆け寄る不良たち。

だが、そこで繰り広げられていた光景は

〜あまりに残虐なシーンのためカット〜

「はうっ・・・・」

気絶する不良。

「うわああああっ!俺は何もしてねえぞおおおっ!」

錯乱する不良。

音に驚いて集まってきた人たちも真っ青になっている。

「うわあ・・・・ひでえなこりゃ」

「ダンプにでも引かれたか?」

「誰か!救急車を!」

「こいつは助かるとは思えねえが・・・・」

カルザス学園前は時ならぬ惨事に大騒ぎとなった。

「・・・・朝から気分の悪いものを見たな」

思わず天を見上げるランディウス。

キーーーーンコーーーーンカーーーーンコーーーーン・・・・

「うわっ、まずい!本鈴だ!」

ランディウスは慌てて走り出した。



「アンジェリナ、ランディウスさんが行ってしまいますわよ」

「・・・・え?」

さすがのアンジェリナも、自分の姉が引き起こしたあまりの事態に呆然とし、我に返るのには約7秒を要した。

ランちゃんらぶらぶ☆のアンジェリナがこれほどの間ランディウスのことを意識していなかったのは、おそらく新記録である。

「ああっ!ランちゃんが行っちゃう〜!」

土煙を上げ、猛スピードで駆けていくアンジェリナ。

百メートル11秒は堅いところ。

「まあ、アンジェリナったら」

シェルファニールも妹のあとを追って走り出す。

どんっ

「きゃっ!」

走り出した途端、横から出てきた人にぶつかってしまった。

「あっ・・すみません。大丈夫?」

「ええ。大丈夫ですわ」

ぶつかったのは、少し気が弱そうな赤い髪の少年だった。

「すみません・・・・じゃあ」

少年はどこか急いだ様子で去って行った。

「あの方は確か・・・・」



「そう・・か・・・奴の名は・・らんちゃん・・・」

「しっかりしろ!もうすぐ救急車が来るぞ!」

「俺の・・・ライ・・バルに相応し・・・」

「おい!意識をしっかり持て!」

「牛丼が・・食いた・・・・」

ガクッ

「おい、君!しっかりしろ!君ーーーーっ!」

ピーポー、ピーポー、ピーポー・・・・

こうして、金髪の男は全てが謎のまま舞台を去ったのであった。



「シグマの野郎、どこに行きやがった?」

オメガはなんとかセレナから脱出したものの、完全にシグマを見失ってしまっていた。

ピーポー、ピーポー、ピーポー・・・・

「チッ。朝っぱらから救急車とは縁起が悪いな・・・・」

校門の上に立って辺りを見まわすが、シグマらしき姿は無い。

「しょうがねえ、鬼ごっこといくかな。俺には奴の居場所が分かる」

ニヤリと楽しげな笑みを浮かべると、オメガは歩き出した。


こうして、カルザス学園の朝が始まる・・・・