「ストレイト・ストーリー」

結局斜に構えて観ましたよ。が。負けたぞ、リンチ。

足腰弱いし、目も弱いし、病気だっていくつか持っている。しかも頑固。そんな じいさんが時速8kmのトラクターで兄に会いに行く・・・。もう絶対にじーんときて ホロッとするようにできてる。やっぱりずるいぞ、こんな映画。と、最初は勇ましく 観てたんだけど。あざといじいさん映画で泣くもんか、と。

玉砕。村上龍さんの本も読んでいて、ストーリーもわかっていたけど。ジーンときて しまった。だって、アルヴィンじいさんがいいんだ。この、まさにストレイトさが。 旅の途中で出会う人達との会話にそれが滲み出てて。ぶっきらぼーで裏表がない。 あざとくないんだも〜ん。あぁ、これもよくあるじいさん映画(ドキュメンタリー) とはちょいと違ったみたい。

旅の途中で会う人達にいろいろ諭したりしても(家族について、とか)ね、でも これが全く嫌味じゃないし、さりげないし。素直に受け取れる。

「年をとって最悪なことは?」っていう質問に対して「若い時のことをはっきり覚 えていることさ」って答えるんだけど、この一言で彼の歩んできた人生が決して楽な ものではなかったんだ、っていうことがわかって涙が出そうになった。

「昔の様に一緒に座って星を眺めたいんだ」って話すところなんか、CMで見てケッ と思っていたが・・・泣いた(笑)。あのふかーい眼差しでそんなこと言われたら、 どんなに斜に構えて観たって、その素直さに負けるもの。

村上龍さんの方の「ストレイト・ストーリー」で語り手がインディアンの幽霊って ことになってたのも頷ける。風景の空撮シーンが多くてリンチ自身「浮遊する感じに 撮りたかった」って言ってるんだけど、まさにそれ。浮遊。鳥なんかとも違う、浮遊 の感じ。だから村上さんは「幽霊」にしたのね〜。なるほどなるほど。村上さん。

この映画は「許し」がテーマ。許すことは何よりも難しい。相手の全てを肯定し受け 入れなくちゃならないからね、許しという行為は。全部を否定することのほうが すごーく簡単だと思うし、その許せる(全てを肯定できる)大きさにひどく憧れて しまうのでした。

いえば今月見た映画は、いい味出してるご老人が出てる映画が多いぞ。なぜ。