APSカメラ最強タッグ伝説


Nikon PRONEA 600i


CONTAX Tix


APSとは何か

(その誕生,すぐれた機能,迫害の歴史について)

正式名称は”IX240システム”.通称,アドバンスト・フォト・システム "Advanced Photo System"の頭文字を取り,”APS”と呼びます.

その名の通り,進化したフィルムカメラシステムをめざし,1992年にコダック,富士写真フイルム,キヤノン,ニコン,ミノルタの5社が共同プロジェクトを結成し,開発がスタートします.

従来の35mmフィルムはカメラメーカーの努力により,ちょっと知っていれば簡単に装填できるようにはなっていましたが,APSはさらに簡単な装填を目指しました.カートリッジからフィルムの先端を出すようにはせず,フィルムをカートリッジに完全に巻き込んだ状態から装填出来るようにしました.これにより従来の35mmフィルムとは異なり,フィルムシャフトも全く無いカメラのフィルム室にAPSフィルムカートリッジを放り込み,フタを閉めれば自動的に1コマ目までフィルムを送り出し,撮影可能な状態になるようにしました.

従来の35mmは元々映画撮影用のフィルムため,パーフォレーションと呼ばれる穴がフィルムサイドに連続してならび,フィルムに書かれたコマ番号と実際に撮影されたコマがずれていることがあります.APSは完全にスチール写真用フィルムとして開発されたため,パーフォレーションは片サイド,1コマにつき2つとし,フィルムに書かれたコマ番号と実際に撮影されたコマがずれることの無いようにしました.

従来の35mmフィルムの撮影枚数は12,24,36でしたが,APSフィルムの撮影枚数は15,25,40とされました.フィルム感度について35mmフィルムはISO100,400辺りが一般的に常用されていましたので,APSはその中間をねらい,ISO200感度のフィルムをメインにラインナップを組むことになりました.

フィルムに直接指がふれてしまうと汚れてしまうし,傷付ける心配もあります.そこでAPSはカートリッジ内にフィルムを巻き込んだ状態でないと取り出せない構造にされました.これは徹底され,現像後のフィルムも元のカートリッジにしまうこととされました.その為,基本的にフィルムを直接見ることが出来ない仕様になりました.これだけでは現像後に何が写っているか分からなくなってしまいます.そのため,現像時に各コマに何が撮影されているのかをプリントしたインデックスプリントを付けることにしました.カートリッジには6桁のナンバーをつけ,インデックスプリントにもそのナンバーを焼き付けることで,フィルム管理を行うこととされました.

APSはカートリッジに常にフィルムが巻き込まれた状態になりますので,フィルムベースを従来の35mmのアセテートに代わり、平面性が良く,巻き癖が付きにくい,新しい強化ポリエチレン・ナフタレート(APEN)を採用しました.

これまでの乳剤技術の進歩により,一般の写真では十分画質は保てるとの判断により,コンパクト化を目指し,従来の35mmより幅を縮小し24mmとします.撮影サイズも新規性を打ち出したかったため,従来35mmの3:2の画面比率ではなく,画面比率は16:9のハイビジョンサイズ(Hサイズ)を基本とし,従来の35mmのプリントより横長のプリントサイズを基本にしました.トリミングにより,従来の35mmと同じコンベンショナルな画面比率3:2のCサイズ,当時流行であったパノラマ写真のPサイズ(画面比率3:1)を選択可能としました.従来の35mmフィルムの実撮影画面サイズは 24mm×36mm,APSの実撮影画面サイズは16.7mm×30.2mmとなりました.実撮影画面サイズは35mmフィルムから約58%のダウンとなりました.

APSは新時代のフィルムにふさわしく,フィルムベースに磁性体をコーティングし,フィルムに磁気記録機能を持たせました.これにより理論上40枚撮りカートリッジでは3.5"2HDのフロッピーディスクとほぼ同じの1.4MBの記録容量を持ちます.これにより対応したカメラでは撮影時の情報を全て磁気記録で書き込めるようにされました.さらにラボのプリンターにもこの撮影情報を読み取らせることにより,最適なプリント条件を自動設定出来るようにしました.この磁気記録機能を使い,対応カメラでは途中で巻き戻しをしても,再装填すれば,自動的に未露光のコマまで自動的に送られるMRC(Mid Roll Change)機能も付けられました.これにより同一時期に別々の行事があっても,複数のフィルムカートリッジを使い分けることによって,一本のフィルムに別々の行事が撮影されるということを解消しました.APSデビュー後のことになりますが,カラーネガだけではなく,カラーリバーサル,モノトーンのセピアも販売され,写真マニアでは同一のカメラで気分により,フィルムの種類を簡単に交換することが出来たのです.

APSでは中のフィルムがどんな状態であっても,カートリッジの基本形態は変わらないため,カートリッジ底部に現在のフィルム状態を示す4つの自動設定マークが装備されました.未使用,途中まで撮影済み,全コマ撮影済み未現像,現像済みです.現像済みであってもAPSはカートリッジにフィルムが収納されていますので,現像済みに関してはさらに用心して現像時に折る爪まで用意しました.

1996年4月,このような新基軸の機能を背負いAPSはフィルム,カメラの発売がスタートし,華々しいデビューを飾りました.新時代のフィルム規格として期待され,当初の5社以外のメーカーもライセンスの供与契約が交わされ,フィルムメーカーではコニカ,アグファ,カメラメーカでは旭光学(PENTAX),京セラ(CONTAX)なども参入して来ました.

大ヒット商品も生まれました.ご存じの初代キヤノンIXYです.小型化されたAPSの利点をいかし,コンパクトなサイズ,新世代のカメラにふさわしいSUS304ステンレスの美しい外装.主に若い女性の間に人気があり,長めのストラップをつけ,首に下げることが流行りました.

APSはコンパクトサイズを売りにしていましたので,コンパクトカメラに採用されることが多かったのですが,当初のプロジェクト参加カメラメーカーは一眼レフカメラも登場させたのです.キヤノン EOS IXE,ミノルタ ベクティスS−1,そして私の愛機ニコン プロネア 600i.キヤノン EOS IXEは交換レンズを35mmEOSと完全共用,レンズマウントはキヤノンEFマウント.ニコン プロネア 600i 伝統のニコン F マウントですが,APSの特性を生かした専用のIXニッコールレンズも3本発売しました.ミノルタ ベクティスS−1に至ってはミノルタαマウントを採用せず,独自のミノルタVマウントを採用し,レンズも完全専用Vレンズを発売しました.

このように書くとAPSの歴史は順風満帆のように見えますが,APSは従来の35mmフィルム信者から迫害を受け,いばらの道を歩くことになまります.

まず,APSは撮影画面サイズの小ささを責められます.上にも書きましたが35mmフィルムから約58%ダウンした撮影画面サイズなので画質が落ちるといわれます.確かに撮影画面サイズのダウンにより画質が落ちます.しかし,普通のサービス判では全く問題のない画質レベルなのです.引き延ばしにも4つ切り程度までなら充分の画質を持っています.A4判ぐらいであれば印刷原稿としても耐えうる画質を持っています.しかし,従来の35mmフィルム信者は小さいことをなじります.本当に画質を気にするのであれば,35mmフィルムではなく,最低でも中判のブローニーフィルム(120/220)を使うべきであります.いっそ大判シートフィルム,4×5inch判を使ったらいいでしょう.

次にAPSは現像後もフィルムがカートリッジに入っていることを責められます.35mmカラーネガフィルムは確かにスリーブの形ですので保管は少ないスペースで済みます.一方,APSはカートリッジのままですから,保管にある程度のスペースをくいます.APSには保管用にカートリッジとインデックスプリントを一緒に収納するケースが発売されています.これを利用すると長期間の保管管理は逆にAPSの方が楽です.カラーが反転しているため実際はどんな写真であるか素人には分かり難いネガフィルムを取り出してみる必要はないのです.いちいち取り出していたらフィルムに傷を付けることにもなりかねません.35mmフィルム信者はAPSは現像済みのフィルムが直接見られないからダメだといいます.そんなにカラーネガフィルムをまじまじ眺めるとは信じられない.まじまじ眺めるのはリバーサル(ポジ)フィルムです.APSのリバーサルフィルムは一種類フジクローム100ixのみですが,これは現像した時にはカートリッジも指定できますが,スリーブ,マウントも選べるのです.問題はAPSのリバーサルフィルムの種類がないこと.もう少しAPSが普及すればコダックなど他のメーカーも出したのでしょうが.

もう最後は磁気記録のための磁性体コーティングがフィルムの性能を落とすのではないかとかまでいわれる始末.そんな分けないでしょ!

今後はデジタルカメラの普及により全ての銀塩フィルムカメラシステムが衰退の道を歩き始めています.APSは磁気記録というデジタル技術を採用した銀塩フィルムで,35mmフィルムとデジタルカメラの橋渡し役,その中間に咲いたあだ花なのかもしれません.始めのプロジェクトメンバーであるニコンもAPSから撤退し,京セラ(CONTAX)も撤退しました.

でも,APSフィルムが全く製造されなくなるまで私は使い続けるでしょう.このAPSという規格は優れた銀塩フィルムシステムであると信じていますので.


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