八街

 八街は下総台地の真ん中のやや南部にある。私が初任の先生として赴任したのが約22年前。町の名前を何と読むのかわからなかった。「はちまち」でも「やまち」でも「やがい」でもなく『やちまた』と読む。そう読ませるのなら、「八巷」と書く方がいいのではないか。街を「ちまた」とは普通読まない。
 八街は江戸時代は幕府の馬の放牧場である佐倉牧の一つであった。それを江戸時代に民間に払い下げ、全国から失業した士族などが募集に応じて集まって開墾した開拓地である。今は東京のベッドタウンの一つになり、この20年で人口がほぼ倍増した。今は7万5千人を越した。
 八街は落花生の町である。落花生畑が多く、落花生の加工販売をしている店が50軒ぐらいある。落花生は土の養分を吸い取るためか同じ畑で連作出来ない。そのため毎年冬から春にかけて畑が空く。そこに春一番が吹くと、もの凄い砂嵐になる。私が赴任するためアパートに引っ越して間もなくこの砂嵐に見舞われた。とんでもない砂漠の町に来たものだと思った。
 八街の町の中心部は昔のままである。30〜40年前とほとんど変わらないらしい。現に私が初めて町の土を踏んだ22年前とほとんど変わっていない。発展というか変貌を遂げたのは町の周辺部だけだ。周辺部、特に佐倉・酒々井(しすい)寄りの榎戸地区と北寄りの文違(ひじかい)地区にはスーパーなどの郊外店が増えた。
 夏、落花生の黄色い花が咲く。その名前のごとく地面に落ちるように咲いている。
 落花生は秋に地面から抜かれる。でもすぐに取り入れられるのではない。1ヶ月ぐらい畑で乾燥させる。それが落花生の野積み、「ぼっち」である。この「ぼっち」の中には落花生の実が内側に向けられて眠っている。この「ぼっち」が積まれると秋である。「落花ぼっち」は北総台地の風物詩である。
                         (2002年1月23日)
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