□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ [2004/03/15]            【子 育 て 羅 針 盤】                              (第180号) □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ■徒然子育て想■               『入学?』  地元国立大学の入学試験合格者の発表が報道されています。合格した若者た ちの喜ぶ姿が映し出されます。どの顔もやったという達成感と,終わったとい う開放感が伺われます。これから新しいときが始まるという新鮮な爽快感があ るはずです。そんな若者たちの姿を見てきて願うのは,三日坊主にならないよ うにということです。のど元過ぎれば熱さを忘れという諺は苦労を忘れる場面 をいいますが,苦労を忘れることで目的も一緒に忘れてしまうことが多いよう です。  大学に入ったら友達を作るという学生さんが多くいます。大学は学ぶところ という気概はすっかり陰が薄れています。受験の苦労で学びは終了したという 勘違いに酔いしれています。何のために苦労したのか,大学に入るため! 入 りさえすれば,後は気楽に過ごして卒業するだけ。だって卒業のために試験は ないのだから楽勝! 卒業してからどうするのかはほとんど考えておりません。 自分の目指す仕事のためにキャリアを大学で磨くという目的意識がほとんどあ りません。  大学に入ったら,一つの責任が発生します。自分が入学定員の一つを占有し たということです。本人は勝ち取ったとだけしか意識していないでしょうが, 勝ち取ったことによる責任が伴っているのです。あなたは人を押しのけてそこ にいるんですよということです。あなたが合格したばっかりに,落ちた人がい るということです。大学で遊びほうけているあなたは,落ちた人の学びたかっ た思いを踏みにじっていることになるんですよ。合格者が自分の責任を自覚し ないのは,社会に対する裏切りといってもいいでしょう。  入学というのは始まりです。始まりは自分が何事かを為そうとするときに実 感できるものです。苦労は終わった,後は大学生活をエンジョイすればいいと いうお気楽さでは何も始めることはありません。卒業の時に,いったい自分は 何をしていたのだろうと悔いることが精一杯です。そう述懐する卒業生をたく さん見送ってきました。そうならないように言って聞かせても,分かろうとし てくれない,分かる力もないのかと虚しい時を過ごしてきました。育ちの詰め のときがぴしっと締まらないと,先行きはとても不安です。  勝者が自ら破滅していく構図がどこにでもあります。エリートの堕落は惨め ですよね。それは人の弱さでしょう。その弱さをなんとか乗り越えようと努力 できるのは人の素晴らしさです。自らを律することができればいいのですが, ただしっかりしなければ気張ってみたところで,何の役にも立ちません。最も 簡単な対処法は,責任感です。勝者は他者を追い落としたことに対する責任を 意識すればいいのです。勝者が堕落したら,勝者としての資格が失われます。 このことは逆に,敗者になっても自棄を起こさない責任があり,自棄を起こし た途端に本当の敗者に落ちぶれていきます。勝敗は時の運です。  自分が居なかったら,別の子どもが居た,別の連れ合いが居た,別の生徒が 居た,別の社員が居た,別の隣人が居たはずです。だからこそ,きちんと生き る責任が生じるのです。あなた一人の命ではない,責任のある命なのです。そ んな自覚を昔の人は持っていたから,凛として生きていられたのです。自分の 命は自分のもの,自分の勝ちは自分のもの,自分の金は自分のもの,何でも自 分のものと思い込んだとき,あらゆる道を踏み外してしまいます。生きる道標 を忘れずに。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ★子育ち12指標★     【お子さんは,慣れる方ですか,それとも習う方ですか?】                             (質問14-11) ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  ○慣れる子!     しつけは慣れること,教育は教え学ぶこと。この違いを曖昧にしてい    ませんか? 正確に言えば,しつけに教えを持ち込もうとするから,子    どもに届かなくなっています。顔を洗うしつけのために,幼い子どもに    理由を言って聞かせようとしても効果はありません。理由は後回しで,    黙って洗わせればいいのです。洗顔したらさっぱりした,その感覚に慣    れさせてしまうのがしつけであって,頭で理解する必要はありません。    理解できる頭はそんなに急には育てません。     幼稚園で園児にきちんとしつけていることは,「返事,あいさつ,後    片づけ」だそうです。実のところ,この程度のことは家庭でしつけ終え    ていなくてはならないのですが,それができていません。おとなしく先    生の話が聞けるということも,入学までにはしつけておかねばなりませ    ん。しつけの基本は慣れさせることです。だからこそ,家庭で親がして    みせることが重要になります。みんながしているから自然に真似して慣    れていくことができます。子どもだけにさせようとするから,どうして    自分だけがしないといけないのか,子どもが理由を求めるのです。     子どもにはよい環境を与えようとしますね。環境がしつけをすると感    じているからです。つまり,環境に慣れさせることが基本的生活習慣の    しつけなのです。幼い子どもは身の回りの家族がすることをなんとかま    ねてみようとして,自分の能力を伸ばしていきます。静かな家庭で育て    ば,静かにするというしつけができます。環境に適応する,慣れる,そ    れがしつけであり,さらには能力開発の基本なので,多様で豊かな環境    を用意しなければなりません。     「ちゃんとしなさい」,「何遍言ったら分かるの,同じことを言わせ    ないで」。「ちゃんとって? どうすればいいの?」。「ちゃんとはち    ゃんとよ,そんなことも分からないの」。「?・?」。「こうするのよ,    やってごらん」,「これでいいの」,「そう,ちゃんとできたじゃない    の」。口だけでしつけることはできません。しつけは身体を使ってして    みせることからスタートするものです。たとえ親が意識していなくても,    子どもは親の真似を通してしつけられていきます。     暗唱する,暗記する,暗算するといった学び方が昔に比べて減ってい    ます。古典の名文を暗唱させなくなって久しくなります。ママも歌は歌    えると思いますが,暗唱できる詩はないのではありませんか? 暗記す    るといえば,せいぜいかけ算の九九,歴史で年代を語呂合わせする程度    でしょう。それもうろ覚えになっているという現状があります。そうな    った背景には,丸暗記しても意味が分かっていなければ無駄であるとい    う思いこみがあります。それは正しいのでしょうか?     素養という言葉あります。一定水準以上の教養,素になる知材です。    美味しい献立を作るためには,素材がなければ手がつけられません。冷    蔵庫に何が入っているか,何もなければ調理のしようがありません。同    じように,人は今は意味がなくても,必要となる知材を蓄えていなけれ    ばなりません。名文を暗唱できることは,子どものうちには使い切れま    せんが,長じるにつれて言葉を美しく使いこなす際に土台になるはずで    す。美しい言葉遣いに慣れている,それが暗唱ということの意味なので    す。   ・・・《しつけとは,よい見本を与えられ,自から慣れ親しむことです》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  ○習う子?     乳幼児の頃は見よう見まねで慣れることによって生活習慣のしつけが    できていきますが,児童期になるともう一人の自分が自分をコントロー    ルするようになるので,言葉による自己コントロールが可能になります。    もう一人の自分が「起きなくては」と決断するから,自分を起こすよう    になります。「顔を洗おう」と思うから,洗面所に足を運びます。外か    ら帰ってきたとき,「手を洗おう」と思わなければ,汚れた手でおやつ    を掴みます。「○○しよう」という言語で記述された行動プログラムを    インストールする,つまり「習い覚える」ことが必要になります。     手を洗おうとしないときには,子どもに石鹸を使わせます。石鹸がか    すかに薄汚れるでしょう。汚れていると思わなかったけど,石鹸で洗う    と石鹸の泡が汚れた,本当に汚れていたんだと習うことができます。た    だ手が汚れていると言うだけでは,子どもには伝わりません。言うこと    は教えること,石鹸の汚れを体験することが習うことです。「そうだ」    と習うことによって,インストールしますか?の確認に対して「OKボ    タン」をクリックできるのです。     手習いという教え方があります。習字や楽器演奏などの非日常的な技    を身につける場合です。きれいに書ける,上手に弾ける,お手本に感動    したとき,なぞるという習いが始まります。有無を言わせないしつけと    違って,ある行動を取り入れるかどうかを選択できる場合には,「OK」    ボタンを自分で押さない限り,習いごとは発動しません。子どもに習い    事をさせようという場合があるでしょうが,本人が「習いたい」と言っ    たかどうかは,結構重たいことです。     ところで,子どもの意思表示は気まぐれなものです。習いたいという    気持ちがいい加減なのではありません。子どもは体験の量に比例した決    心しかできないからです。ちょっとやってみてもいいかなという程度で    習い始めます。ところがやってみると初体験を重ねていくにつれて,思    い通りに進まないことが分かってきます。小さな壁が現れてくるのです。    そのとき,まだ続けるの?という選択を迫られます。できるようになり    たいという思いが薄いと,「NO」ボタンをクリックします。このよう    なときには,「後で」ボタンをクリックして,少し時間を置くようにす    ればいいでしょう。     何をやらせても永続きしない,根気がない,我慢ができない,努力が    足りない。子どもはそんなものです。あれこれやってみる時期だから,    それでいいのです。料理でいえば,下ごしらえをしているのです。あっ    ちもこっちも中途半端で止めているように見えても,一つひとつの育ち    のステップを習い覚えています。育ちは一本道ではありません。乗り継    ぎをしながら,待ち時間でちょっとしたお土産を手に入れています。大    人でも壁に出会ったら,ちょっと別のことをしてみるという解決法を採    っているはずです。同じことです。     楽器を習うためには,まず箸使いがちゃんとできることです。名ピア    ニストが初来日したとき,日本人の箸使いを見て驚嘆し,素晴らしい演    奏家が生まれるだろうと予言したそうです。後片づけができる子は成績    もよい子が多いそうです。次のことまで考えるという習い性が有効に機    能するからです。教えてできることは大した成果にはつながりません。    細々したことを習い覚えているとき,それらが総合されて実力になるの    です。習うという育ちをしっかりとさせてやってください。  ・・・《学校は教え,家庭や地域は習わせる場であると考えてみませんか》 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞  《慣れるか,習うかは,できる力を子どもが取り込む道の違いです。》 ※教えられたら分かります。でも,分かったからできるということにはなりま せん。習い慣れてこそできる力になります。マニュアルが理解できても,即座 に使いこなせないのは自ら習って慣れようとしないからです。慣れるには繰り 返しという手間が掛かります。スイッチポンの生活に慣れていると,手間暇を 惜しむようになります。それが習いに不可欠なスローペースを忌避させてしま います。  根気がない子どもは,根気の要る生活をしていません。今の便利な生活に慣 れている以上,無理な注文です。お腹空いた,その一言で食べ物が手に入りま す。何か食べたかったら自分で買い物に行ってくるといった程度の手間を掛け させることです。学校や塾に通うのに,座っていれば着いてしまうという送迎 付きでは,とても頑張りは期待できません。楽をして育ったら何もできないの が当たり前です。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ☆予告☆  次号では,【お子さんは,思い切りますか,くよくよしますか?】             について考えることにします。どうぞお楽しみに! ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ ★編集後記★  肉を多く食べるとリンも一緒に体内に入りますが,その際カルシウムが必要 です。体内のカルシウムが減るので,情緒が不安定になりキレルようになるそ うです。偏った食生活に慣れると,そこから派生していく連鎖が好ましくない 症状として出てきます。症状が出たら対処療法ではなくて,根本から,つまり 普段の慣れていることから変えなくては状況の改善は望めません。子育てだけ ではなくて,家庭や仕事の場合も同じです。  生活習慣病,身体の病気だけではなくて,心の不健康にも当てはまるようで す。ちょっと早めに寝る,それだけでも子どもの育ちはよい方に動いていくは ずです。もちろん劇的な効果などは期待しないでください。育ちは劇薬を使う のではなく,健康食で賄っているのですから,スローペースです。そう言いな がら手抜きをしてしまうこともありますが・・・。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ ●タイトル:『子育て羅針盤』 [Kosodaterasinban] ●発行期日:毎週月曜日正午(2000年09月25日より) ●発行責任:モリのクマさん(詳細はHP「徒然窓」〜プロフィールに)   「徒然窓」= http://www5a.biglobe.ne.jp/~mbear    ・・・・・・「掲示板」もご相談などにご利用下さい。・・・・・・   ・・・・・・「バックナンバー」もご覧になれます。・・・・・・・ ●記事の一部、もしくは全部の無断転載・無断配布を禁じます。  掲載記事の著作権は筆者に有り、筆者の許可なく複製・再配信等を行う  ことはできません。事前に下記アドレスまでメールのご一報を下さい。 ■《講演》のご依頼は,メールで気軽にお問い合わせ下さい。 ※著者連絡: mori-bear@mvd.biglobe.ne.jp ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ●配信の協力を頂いている発行支援システム ◆インターネットの本屋さん『まぐまぐ』= http://www.mag2.com/   登録・解除= http://rap.tegami.com/mag2/m/0000046251.htm ◆メルマ***『melma!』= http://www.melma.com/   登録・解除= http://www.melma.com/mag/37/m00019737/ ◆無料メルマガ発行サービス『メルマガ天国』= http://melten.com/   登録・解除= http://melten.com/m/2166.html ◆よりすぐりメルマガサイト『めろんぱん』= http://www.melonpan.net/   登録・解除= http://www.melonpan.net/mag.php?005885 ※解除される方は,登録された配信先の解除手続きをして下さい。 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○