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お人形
お話提供: ニニ尾みかか様
 編 集 : 和田 好弘


 これは私が子供だった頃のお話です。
 人形のお話。
 でも、お話しする前にちょっと前置きを。
 男のヒトには理解しがたいかもしれないけど、女の子にとって、人形ってとても特別な存在なんです。
 お友達だし、妹のいない子には、妹代わり。
 だから、女の子は人形に愛情を注ぎます。
 髪を解いたり、服を着せ替えたり、時にはゴハンを食べさせたり。
 そうやって、『愛情』のお稽古をしていくんです、女の子って。
 それでは、そろそろ本題行きましょうか。

 私の従姉妹、M。
 ある日のこと、彼女が突然不思議なことをいいだしたんです。
「人形がね、私のほうを向くの」
 は?
 なんのこっちゃ?
 そう思って、聞きなおしました。
 彼女の話はこうでした。
 その当時Mは自宅の二階で、布団しいて弟やお母さんといっしょに寝てました。
 そこにはテレビがあり、その上には色々と人形が載っていたのです。
 ええ、ぬいぐるみをはじめ色々と。
 その上の人形の一つ。
 毎朝、布団のMの頭があるほうを向くんだそうです。
 布団ですから頭をどっちにも向けられるんですね。
 でも、その人形は必ずMの頭が在る方を向いている。
 ……身体ごと。
 ありえませんよね。そんなことって。
 そして私。
 当時、ちょっとキてたんです、私。
 いわゆる、霊感のようなもの。
 とはいえ、見えないものが見えるわけじゃないです。
 人形の表情がわかったんですよ。
 その当時は。
 それもと人形の想いなのでしょうか?
 じ〜っと見てると……刻み込まれた微笑みが、変わってくる。
 ただ、いくつか条件があって、人形のみ。
 縫いぐるみはダメ。
 しかも可愛がられてる、あるいは可愛がられてた人形でなくてはダメだった。
 だから、Mの家行って、『彼女』を見てみた。
 見えた表情は『悲しそう』だったんです。
 だから、Mにちょっと聞いてみたんです。
「ねぇ、この子、最近かまってあげてる?」
 答えは――NO。
 昔は可愛がってても、年月が経てば女の子は少女になる。
 大人になっていく。
 おいてっちゃうんです。人形を、思い出の中に。
 ここから先は、私なりの考え。
 人形ってね、ヒトのカタチって書くくらいヒトに近い姿をしてますよね。
 だから、人の愛情を受けて、魂を宿す器になりやすいんじゃないかと思うんです。
 宿った魂は、愛情を貰う心地よさを覚えている。
 だけど、人間の方は置き去りにしてしまう。
「気づいて。もう一度愛して」
 たぶん、そんな感じだったんだと思います。

 あれから大分経って……今は見えません。ほとんど。
でも、ぱっと見たとき「あ」って思うときが在るんです。
 少しだけ、嬉しそうだったり、そんな小さなことだけど。
 さぁ、今度の休みは、リカちゃんとマリちゃんに構った分、小百合をかまってあげよう。
バッグでも作ってあげようかな?綺麗な生地があったから。

『ねぇ、あなたの人形は、微笑んでますか?』


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