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霊を呼ぶ怪談を聞いた少女
文:和田 好弘
この話は、聞いたものは必ず怪奇現象に遭うという怪談を聞いてしまった少女のお話です。
その話を聞いた者は、必ず霊体験をするという怪談。
A子は、その怪談を友人から聞いてしまいました。
そして数日後、バイトからの帰り道のことです。
いつものようにスクーターに乗って、夜道を彼女は走っていました。
家まで数百メートルというところの住宅地。いつもの角をいつものように曲がると、不意にゾクっとした寒気にA子は襲われました。
A子は例の怪談を聞いていたので、そろそろかな? などと呑気に思っていたのですが、さらに次の角を曲がると、その寒気はきれいさっぱりと治まりました。
ちがうか……。
そう安堵したとき、彼女の目に入ったもの。
それは路肩にバイクを止めて、なにやらエンジンの辺りをいじっている男の人。
フルフェイスのヘルメットを被ったその男の人は、街灯の下でなにか作業をしてました。
A子はその男の人の脇を、なんの気なしに通りすぎ、一路自宅へと急ぎました。
そして少しして気が付いたのです。
後を、あのバイクの男が追って来ているのを。
徐々に大きくなってくるバイクのエンジン音。
なんだかA子は怖くなり、スクーターを飛ばして、飛ばして、家にたどり着くと、転がり込むように中へと入りました。
玄関の扉の、覗き穴からみると、門の前であの男がバイクに跨り立って、じっとこっちを見つめています。
A子は怖くなってへたりこんでしまいました。
今日はひとりきり。
両親は法事のために田舎へと行っているので、家には彼女ひとりしかいないのです。
どうしようと怯えていると、再びバイクのエンジン音が聞こえてきました。
その音は、明らかに家の周りをまわっています。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
頭のなかにはそればかり。
そしてふと気が付くと、バイクのエンジン音が大きくなっています。
そう、もうバイクは家の回りの道路ではなく、まさしく庭を回っているのです。
A子はそのことに気付くと、慌てて電話に飛びつきました。
そう、A子は思い出したのです。
友人のB子の母親が、この手のことに関して、生業にしていることを。
震える手でB子に電話をすると、彼女はとにかく落ち着いて、ウチに来るようにいいました。
電話を切ると、A子は泣き出したくなるのを必死にこらえて、家から飛び出しました。
そしてスクーターに乗ると、必死で飛ばして、飛ばして、一路B子の家へと向かいます。
後ろからは、あのバイクの男が追ってきます。
飛ばして、飛ばして、死ぬほど飛ばして、漸くA子はB子の家にたどり着くと、スクーターを乗り捨てるようにして玄関に走りました。
「B子、開けて! 私!」
バンバンと玄関の戸を叩き、A子が叫びます。
「A子!!」
玄関の扉が開くなり、B子がいきなりA子の肩のあたりに右手を突き出しました。
そして左手でA子を引っ掴むと玄関に引き摺りこみ、扉を施錠しました。
「な、なに?」
うろたえるA子に、
「A子いまあんたの肩に、知らない男が手を掛けていたんだよ」
B子は母親がそういった霊関係のことを生業としているプロということもあって、彼女にもそういった力があるらしいのです。
そして再びバイクのエンジン音が響いてきます。
家の周りをグルグルとまわるエンジン音が。
そして悪いことに、B子の母親は仕事で、遠方にでているというのです。
B子も、こういった本格的な霊を相手にしたことなど無く、ふたりで途方にくれていました。
トゥルルルルルル!
突然鳴った電話に、A子とB子は飛び上がりました。
電話に出ると、それはB子の母親。
彼女は、仕事先から自宅の異変を察知し、心配して電話をかけてきたのです。
そしてB子が事情を説明すると、彼女はこう指示しました。
「いますぐコップに水を汲んで、家の窓という窓のところに置きなさい。明日の朝一番で変えるから、それまで一歩も外に出ないこと、誰も入れないこと、いいわね」
そしてA子とB子は慌てて云われた通り、コップに水を汲むと、家中の窓の前にコップを置きました。
もちろん、玄関にも。
すると、置き終わった途端、不思議とバイクの音が聞こえなくなりました。
そして翌朝。
帰ってきたB子の母親のおかげで、すべては事なきを得たのです。
霊を呼ぶ怪談。
あなたも、怪談を聞くときには、十分にご注意を……。
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