HIGH CREATE ONE

 第1章 西暦2023年
 

 パレスチナのゴラン高原に、地平線の間から新しい一日の始まりを告げる朝日がゆっくりと射し込んできた。
 丘陵が長い影を作る高原は見渡す限り、戦車や戦闘ヘリコプターの無惨な残骸と、無数の声なき戦士の遺体が散らばっている。かつてパレスチナの民族が、血を流しあったこの地で、こうして再び大量の若き命が散り果てようとは誰れが想像しただろうか。
 人は過ちを教訓にせず、いつまでもそれを繰り返す。人がこの世から消え去るまで犠牲は強いられるのだろうか?
 その事実を全て掻き消してしまうかのように、強い風に舞い上げられた細かな砂が、見る間に辺りを覆い尽くしていった。

 第五次中東戦争、それはサウジアラビアが埋蔵量の乏しくなった石油の輸出を、大幅に削減すると発表した事に端を発する。それにより石油に全面的なエネルギーを依存している先進諸国では、石油製品の価格が暴騰し、大混乱を引き起こした。
 サウジアラビアの狙いは、石油価格を高騰させる為だけではなく、イスラエルよりパレスチナの奪還と、第三次中東戦争により失った失地を回復させる事が最大の目的だった。
 サウジアラビアはイスラエルとの平和条約を破棄させて、エジプトと同盟を結ぶ事に成功した。その事態で形勢は一気にサウジアラビアに有利に動き始めた。
 続いて第四次中東戦争の同盟国シリアと、ヨルダンが、サウジアラビア支持を表明した。四ヶ国は改めてアラブ同盟国として、イスラエル内の領地を返還するように求めた。
 さらにアラブ同盟国は要求が実現されなければ、石油の輸出を全面的に停止すると声明を発表した。彼らは石油を利用し、世界中に自分達の行動を正当化させようとしたのだ。
 北海の海底油田は既に枯渇し、世界の石油埋蔵量は激減していた。サウジアラビアの推定埋蔵量は、OPEC内の五○パーセント以上を占めており、サウジアラビアの石油なくして、今や世界経済は成り立たなくなっていたのだ。
 当然、世界の非難がアラブ同盟国に集中した。国連が中心となりこの状況を打破しようと、緊急会議が開催された。しかしこの会期中にアラブ軍が、イスラエルを四方から包囲し、イスラエル軍もゴラン高原に軍隊を派遣、一触即発の事態を招いた。
 国連は総会で即時停戦決議を発したが、それをアラブ軍は完全に無視。そして遂にイスラエル軍とゴラン高原で軍事衝突し、戦争に突入してしまった。
 開戦直後、圧倒的なアラブ軍の戦力にイスラエル軍は押され、窮地に立たされていた。国連は総会でイスラエル支持を表明し、同時にアメリカとイギリスを中心としたNATO軍が、イスラエル軍を援助すべく戦争に参加した。
 近代戦はコンピューターを駆使した情報戦と言われている。大量の敵の情報を得、それを活用した方が勝利出来る。NATO軍は軍事衛星や偵察機などから、アラブ軍の行動を詳細に観察し、戦地へ膨大な情報を流していた。
 NATO軍はスティルス機による空爆を繰り返して、アラブ軍の戦力の大多数を破壊した。しかし敵のゲリラ的な戦法については、歩兵を投入した地上戦でしか解決出来そうになかった。
 地上戦については、その犠牲による危険性が取りただされて、アメリカ、イギリスなどの国内外でも反対意見が多かった。しかし早期の解決を望むNATO軍は、反対意見を押し切り、遂に大量の海兵隊員を投入した地上戦に踏み切った。
 地上作戦は暗号でGーデルタ作戦と呼ばれていた。内容はゴラン高原の三ヶ所に点在する敵の基地を、空力と兵力で一斉に奇襲して壊滅させるという物だった。
 作戦を実行させるには綿密な計画を要する。NATO軍は確実に作戦を成功させる為、膨大な情報を収集し、計画の実行を開戦から一ヶ月後の八月の新月の夜と決定した。
 月の光を翳る新月、それはNATO軍が要する最新兵器の能力を最大限に発揮出来、旧態依然とした兵器しか持たないアラブ軍の動きを、封じる事が出来ると読んだからだ。

 暗闇がゴラン高原を包み込んでいく。辺りに聞こえるのは微かな風の音だけだ。アラブ軍の兵士キャンプ地に、野戦テントが広がり、戦車や装甲車がひっそりと佇んでいる。
 高度一万メートル上空では、この静けさとは対照的な喧噪が存在していた。百機のロッキードハーキュリー輸送機が五千人の海兵隊員を乗せて、低いプロペラ音を響かせている。
 歩兵部隊はアルファAからEまでの部隊で構成されていた。地上では一足先に地上の安全を確保する為に、戦車隊が降下地点で待機をしている。その戦車隊が発する信号を目安に、兵士達が次々に大空に飛び出した。輸送機から飛び出した兵士達は、パラシュートを開き、続々と高原に降り立って行く。高原は彼らのパラシュートが一面に広がり、真っ黒になった。地上に降り立った兵士達は整然とパラシュートを片付け、装備のチェックを行い、戦闘の準備を進めている。
 兵士達の装備は最新の技術が満載されている。戦闘服は周りの光を吸収して姿を目立たなくし、弾丸を通し難い防弾素材で作られていた。またヘルメットは頭部だけはなく、顔面を保護する為にシールドで覆われている。そのシールド内部には透過型の有機ディスプレイが組み込まれ、暗闇の中でも赤外線暗視装置により、敵の姿を補足する事が出来る。そして各種のセンサーにより、兵士同士の通信や様々な情報を映し出す事も可能である。このような最新装備によりNATO軍兵士は、暗闇での戦闘を容易に行う事が出来る。
 ゴラン高原の上空五○○○メートルでは高原を見下ろすように、作戦司令機E101Bモバイルアタッカーが飛行していた。モバイルアタッカーは電波、赤外線等のセンサーを駆使し、敵地の情報を得て最前線に情報として流す。そして地中海に停泊するNATO軍の指令艦隊と連絡を取りながら作戦の指揮をする空飛ぶ基地でもある。
 ボーイング777程の大きさのモバイルアタッカーの機内には窓はなく、機内の中央に情報機器がズラリと並んでいる。それぞれの機器の操作を担当するオペレーター達が、戦闘前の緊張の中、黙々と作業をこなしていた。機にはこの作戦を指揮するソマーズ司令官が乗り込んでいる。ソマーズは五十歳代の将軍で、軍人らしくない痩せた外観が、彼の神経質ぽい性格を映し出していた。
 静かな機内はジェットエンジンと空調の低い音が反響し、ソマーズが落ち着きなさそうに、狭い機内を腕組みをしながら行き来している。
「どうだ問題はないか?」
 心配そうにソマーズが、オペレーターの一人に尋ねた。
「はい今のところ全て順調です。二十三時○○分の攻撃開始時には準備は完全に整います」
 通信兵が返事をした。
「そうか」
 ソマーズは部下にそう言われても安心出来ないのか、険しい表情を崩す事はなかった。
 既に地上に降り立った歩兵達は準備を終えて、いつでも戦闘開始が出来る態勢を取っていた。
「アルファAー1準備はいいか?」
 中隊を率いるアンダーソン大尉が、ヘルメットのインターコムで軍曹に連絡を取っている。
『アルファAー1準備整っています』
 軍曹からの連絡がインターコムに返ってきた。
「よし連絡があるまで待機しろ」
 アンダーソンは無線で指示を出した。
 アンダーソンのアルファA中隊は、三十六台のM1ーA3戦車と、二百名の歩兵により構成されていた。全ての隊の準備が整った事を確認すると、アンダーソンは赤外線スコープで敵地を覗いた。敵の戦車やベース基地となるテントが点在している。スコープのファインダー内は、モバイルアタッカーからの情報により、敵の位置が赤点で示されている。広い丘陵地帯が、まるで敵の領地であるかのように、赤色で埋め尽くされている。
 モバイルアタッカーからの情報で、歩兵隊の準備が整った事を確認して、イスラエル国境付近のヘリコプター待機域から、NATO軍のアパッチヘリ十小隊が編隊を組んで飛び立った。一小隊十機で、百機の大編隊だ。レーダーを避けるように丘陵地を嘗めるように飛行して行く。物量作戦で一気に敵を奇襲する計画だ。
 モバイルアタッカーの機内では、アパッチヘリが敵地へ刻一刻と近づいて来る様子が、レーダーを通して映し出されていた。機内ではオペレーター達がにわかに忙しくなり、ヘリに収集した敵の情報を発信し続けている。その脇でソマーズは攻撃の開始の機会を伺っていた。
「司令官、敵地は予想以上に静まっています。我々の動きは全く察知されていない様子です」
 オペレーターが報告をした。
 ソマーズは不可解さを消せなかった。敵の動きが余りにもなさ過ぎるのだ。それはこちらの作戦が、全て順調に進んでいる事に他ならない。が、それにしても敵の動きがなさ過ぎる。こんなに順調に事は運ぶ物なのか? ソマーズは長い戦歴経験から、嫌な胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
 アパッチヘリの一団が、国境を越えて敵地に再接近した。いずれにせよ、もう引き返すわけにはいかない。
「再度それぞれの持ち場をチェックしろ。異常がなければ攻撃を開始する」
 ソマーズは戦闘準備の指示を出した。
 さらに忙しそうにオペレーター達は、ヘリと戦地へ戦闘開始の最終確認の為の交信を続けた。
「アルファA部隊異常ありません」
「アルファC及びD部隊も異常ありません」
「アルファE及びF部隊も準備完了です」
「アルファB部隊異常ありません」
 オペレーター達から次々と異常なしの報告が入る。
「ヘリ部隊はどうなっている」
 ソマーズがオペレーターに尋ねた。
「第一ヘリ部隊問題ありません」
「第二、第三ヘリ部隊も異常ありません」
 アパッチヘリも順調に飛行しているようだ。ソマーズは腕時計を見た。デジタル時計は丁度二十三時を指している。予定通りこのまま敵地に到達させて攻撃を開始させようと、ソマーズはその時決意した。
「よし第一ヘリ部隊を突入させて、攻撃を開始しろ。アルファA部隊の歩兵を続いて侵入させる。いいか!」
 ソマーズは皆の緊張を保つかのように声を張り上げた。分かりましたと、言う部下達の声が機内に響いた。
 丘陵地帯に掘られた対戦車豪で待機する、アルファA部隊に突入の命令が下った。戦車小隊のアンダーソンがインターコムで、作戦開始の連絡を受けている。
「よし皆聞いてくれ」
 アンダーソンはインターコムで軍曹達に召集を掛けた。ヘルメットのインターコムを使う事で、大声を出さずに済むのが有り難い。
「今から五分後に第一ヘリ部隊が敵地を奇襲する。その攻撃に続いて我々が侵攻する」
 アンダーソンは部下達の顔を見ているが、皆緊張で手を震わせ青い顔をしている。無理もない、ここのところ世界情勢は安定していて本格的な戦闘など初めての者ばかりなのだ。それを察したアンダーソンは、
「大丈夫だ、我が軍は大量の情報を元に作戦を立てている。戦闘もテレビゲームをやっているようなものさ。それなら君達も得意だろ」
 と、言い励ました。兵士達に一瞬だけ笑みと笑い声がこぼれた。
「よし有機シールドを下げて、自己認識装置の電源を入れろ」
 アンダーソンは指示を出した。
 自己認識装置は兵士一人一人が身に付けるデジタル型発信器で、信号が受信されると、兵士のシールド上にその位置が緑点として表示される。それにより味方がどこにいるのかが一目瞭然となるばかりか、誤射により味方を攻撃してしまう事を防ぐ事が出来る。
 兵士達はシールドを下げて、戦闘スーツ内にある自己認識装置のスイッチを入れた。二人一組で向かい合い、発信装置のチェックを行った。それぞれのチェックは真剣だ、どれかが一つ欠けていても、命を失う事に繋がりかねないからだ。
 モバイルアタッカーのレーダーが、アパッチヘリの一団がレバノンからヘルモン山を越えて、敵地へ到達した事を告げた。
「よし奇襲を開始しろ。同時に軍事衛星の赤外線モニターに切り換えろ」
 ソマーズが指示を飛ばした。
 アンダーソンのアルファA隊の頭上をアパッチヘリの集団が爆音を轟かせ通過して行く。その数は百機以上、辺りの空気を震わせる爆音は敵に奇襲の脅威を与えるに充分だ。
 アパッチヘリの第一陣攻撃は見事だった。サイドワインダーで敵の野戦テントを吹き飛ばし、TOWミサイルで潜む敵戦車を破壊した。統率の取れた攻撃法はまさに一瞬で敵地を撃破した。その凄まじい被害状況からは、歩兵部隊出動の必要性を感じさせない程だ。
 先頭の指揮戦車のハッチを開けて、戦闘状況をアンダーソンが目視で確認している。アパッチヘリが猛烈な奇襲を終えて旋回し、戦車隊の上空を通り過ぎて行く。ヘリを見上げて兵士達の歓声が上がる。
「よし皆行くぞ」
 アンダーソンの号令で、アルファAの戦車、歩兵中隊が敵地へ向けて侵攻し始めた。
 砂埃を巻き上げて三十六台の戦車が先行する後を、歩兵達が付いて行く。戦車の暗視スコープにも敵らしき物陰は現れない。アパッチヘリの攻撃で全滅してしまったのだろうか?
 突然丘陵の奥から眼前に対戦車ヘリコプターの姿が現れた。味方のアパッチヘリは奇襲後すぐに基地へ引き返したはずなのに・・・・・・。アンダーソンは暗視スコープを拡大した。するとその姿は旧ソ連軍のカモフ型戦闘ヘリだった。
 随分旧型の機体だが、歩兵に対しての戦闘能力は充分以上だ。十数機のカモフヘリが地上の兵士に向けて機銃掃射をして、対戦車ミサイルで戦車を破壊した。
 モバイルアタッカーの機内でも、突然の敵ヘリの奇襲に騒然となり色めき立った。
「奴らめ、一体どこに潜んでいやがった」
 ソマーズは戸惑い慌てた。
「分かりません。敵の情報は全て収集していたはずですが・・・・・・」
 オペレーターも予期せぬ不意打ちに狼狽えている。
「すぐにアパッチヘリを引き返させて、攻撃させろ」
「駄目です。引き返すだけの燃料はもうありません」
「ちくしょう!」
 オペレーターの返事に、ソマーズは拳を握りしめて悔しがった。
「約十五分後にヘリ部隊が艦隊に帰還します。五分で燃料を補給して引き返らせれます」
「馬鹿野郎! それまで歩兵が保つか」
 ソマーズは額から大粒の汗を流し怒鳴った。
「構わんからヘリを引き返らせろ。帰還出来なければ不時着させても構わない」
 ソマーズは必死に指令を出した。
「そんな無茶な」
 ヘリを不時着させるとはヘリを捨てる事にも等しい。オペレーターは唖然とした。
「兵士を見殺しには出来ん!」
「分かりました」
 ソマーズの命令通り、オペレーターはアパッチヘリに戦地へ引き返すよう指示を出した。
 指示通りアパッチヘリ部隊は、進路を翻して戦地へと引き返した。その間も敵のカモフヘリの攻撃は続き、兵士達は次々と餌食になっていく。
「スティンガーミサイルを用意して反撃をしろ!」
 アンダーソンが歩兵に指示をした。
 戦車の後部ハッチが開いて機械化歩兵達が飛び出してきた。手には機銃やスティンガー対空ミサイルを持っている。兵士は肩に対空ミサイルを背負うと、カモフヘリに向けて狙いを定めた。対空ミサイルは敵味方の認識装置を備え、狙った相手が味方である場合、ロックオンされない構造になっている。しかしこの時、向かって来るカモフヘリに照準を合わせた兵士は、認識装置が敵ヘリを味方と誤認してミサイルを発射する事が出来なかった。ミサイルが発射出来ず、立ち尽くすだけの兵士と戦車は、カモフヘリの格好の餌食だった。あっという間に、機銃と対戦車ミサイルの攻撃で粉々に吹き飛ばされた。
「どうなっている。どうしてスティンガーミサイルを発射しないんだ!」
 アンダーソンの悲痛な叫び声が響き渡る。
 ようやくアパッチヘリの編隊が戦場に戻ってきた。しかし最初の奇襲で、搭載していたミサイル類を使い果たしているアパッチヘリの武器は、先端に取り付けられた三○ミリの機関砲しかなかった。カモフヘリはアパッチヘリとの戦闘に備えてサイドワイダーを搭載しており、その戦力差は余りにも大きい。五十機のアパッチヘリも機関砲だけでは射程距離が短か過ぎて、その射程に入る前にカモフヘリのサイドワインダーの攻撃を受けて、面白いように撃墜されていく。
 モバイルアタッカーの機内も、予想だにしなかった損害に皆は呆然として静まり返った。今更どうする事も出来ずにソマーズは言葉を失ってしまった。何故こんな事に・・・・・・。
 何とか反撃をしようと敵の機銃掃射の中、兵士達が果敢に対空ミサイルを抱えて飛び出して行く。カモフヘリに狙いを定めてロックオンし、ミサイルを発射すると、信じられない事にミサイルは味方のアパッチヘリへ向けて飛んで行くではないか。ミサイルが着弾して上空でアパッチヘリは爆発炎上した。地上の兵士達が次々に放つ対空ミサイルは、全て味方のヘリに向かって飛んで行き、味方のアパッチヘリを撃墜した。無情にも兵士の頭上にヘリの残骸が降り注いでいく。
「馬鹿野郎、あいつら何をしているんだ!」
 戦車の中でアンダーソンは怒鳴った。
『敵ヘリに向けて照準を合わせたのですが、どういうわけか味方のヘリに向かってミサイルが飛んで行くのです。敵味方の識別信号が混信しているのではないですか?』
 兵士の混乱した声がインターコムから聞こえてきた。
 識別信号が混信しているだと? アンダーソンは耳を疑った。精密なコンピューターによって制御されている我が軍の認識信号に間違いなど絶対に有り得ない。
 アンダーソンの乗る戦車に向けてカモフヘリから対戦車ミサイルが発射された。真っ直ぐな軌跡を描いて戦車の砲台にミサイルは突き刺さり爆発した。破片が飛び散り、真っ赤な炎を吹き上げて戦車は燃え上がった。アンダーソンはその疑問を解く事なく、その中で息絶えた。
 ゴラン高原にゆっくりと朝日が射し込んできた。昨夜の戦闘の激しさを物語るように、至る所に黒煙が立ち昇り、硝煙が焦臭い臭いを放っている。しかし銃声も人々の叫び声もなく、無気味な程の静寂の世界がそこにはあった。
 高原には焼け焦げた戦車や、アパッチヘリの残骸が広範囲に渡って飛び散り、無惨な兵士の遺体が辺り構わずに転がっている。強い風に吹かれた砂塵がその遺体を次第に覆い隠していく。
 Gーデルタ作戦の死傷者は一万人余り、NATO軍の完全なる惨敗であった。そしてアメリカにとっては、ベトナム戦争以来の敗北を喫する結果となってしまった。