第22章 運命の切り札(1)

 

 イベリア半島の沖、約一○○○キロの大西洋上、マデイラ平原を米海軍のオハイオ級原子力潜水艦クリントンが潜行している。全長二○○メートル近いクリントンは船内も戦艦のように広く、壁一面に無数の計器類が並んでいる。その中で兵士達が緊張感を高めて、忙しく職務をこなしていた。
 このかつてない世界危機の中、世界中の原子力潜水艦は五つの海に散らばり、司令部からの指示を待っていた。現在も世界中で戒厳令が発令されており、艦内も非常待機状態にある。潜水艦は深く潜ると、地上との連絡が取れなくなる為に、非常待機中は電波が受信出来る、水深三○メートル以内を守って航行しなければならなかった。
 突然、クリントンの核弾道照準用コンピューターが作動を始めた。艦内に緊張が走る。
「コスビー艦長、司令部から何か指示が入っていますか?」
 オペレーターがインターコムで、艦長のコスビーに指示確認を行った。
『いや私の所には何の指示も入ってはいない。どうかしたのか?』
 コスビーの返事がインターコムを通じて聞こえてきた。
「いえ、今弾道照準用コンピューターが作動をし始めていますので」
 オペレーターは答えた。
『分かった、すぐそちらへ行く』
 コスビーは船長室を出ると精密機器の間を抜けて、核弾頭照準用のコンピューターの所までやってきた。コスビーは半袖の軍服にラフな格好をしている。
「どうなってる?」
 コスビーがコンピューターのディスプレイを覗きながら尋ねた。
 オペレーターはキーボードの操作をしているが、コンピューターは操作を全く受付けようとしない。
「おかしいです。キー操作を拒否しています」
 オペレーターが戸惑って、コスビーの顔を見た。
「どうなっているんだ」
 コスビーが場所を代わってキーボードを叩いてみるが、一向に操作を受付けようとしない。コスビーは徐々に不安げな表情になっていく。
「これは核弾頭の照準位置を決めるコンピューターだったな」
 コスビーがオペレーターに確認をした。オペレーターは頷いた。ディスプレイはどことも知れない場所を探すように、緯度、経度の数値が変化している。しばらくして数値が停止した。
「おいこの位置はワシントンDCじゃないのか!」
 コスビーの顔が青ざめた。
「艦長、ミサイルハッチが開いています」
 別のオペレーターの声が艦内に響いた。
「そんな馬鹿な・・・・・・」
 潜水艦発射弾道ミサイルが勝手に作動している。コスビーは動揺して言葉にならない。
 潜水艦のミサイル格納サイロのハッチがゆっくりと開いていく。その中には二十四個のトライデント型核ミサイルが納められている。その一発でワシントンDCを壊滅させるに充分な破壊力がある。
 急に艦内が騒然となり、オペレーター達がそれぞれの担当機器を操作して、ミサイルの発射を阻止しようと必死になった。が、どうしても停止させる事が出来ない。罵声が艦内に響き渡った。
「艦長、外部からミサイル照準用のコンピューターを何者かが操作しているようです」
 通信担当のオペレーターが報告した。その言葉にコスビーは信じられないという表情をした。外部からコンピューターを操る事など出来るはずがない。
「本当なのかそれは?」
 コスビーは再確認をした。
「はい異常電波が混ざっています」
「緊急潜行しろ。電波が届かなくなるまで潜るんだ」
 コスビーは指示を飛ばした。
「駄目です、発射管のハッチが開いているんです。水圧に耐えられませんよ」
 担当官の言葉通り、既に発射管のハッチは完全に開き、いつでも発射が可能な状態になっている。
「構わん、潜れ!」
 コスビーは怒鳴った。
 潜水艦のバラストに海水が流れ込んでいく。ゆっくりと船体が沈み始めた。クリントンは光の届かない海底へと突き進んで行った。
 オペレーターは電波が途絶え、ディスプレイの表示が停止する事を期待して画面を凝視している。水深は既に一○○メートルを越えているが、モニター内の数値はまだ作動したままだ。
「駄目です。まだ電波は途切れません」
 オペレーターが悲壮な顔をして言った。コスビーは悔しそうに下唇を噛んでいる。
「もっと深く潜るんだ!」
 コスビーは拳を震わせて、焦りの表情を隠せずに怒鳴った。 
 クリントンは最後の抵抗を試みてさらに潜行を続けた。しかしミサイル制御コンピューターのディスプレイに"発射準備完了"の表示が現れ、それに続いて核ミサイルは発射された。空圧でミサイルは発射管から押し出されると、空気の泡と共に水面まで上昇した。水面に到達すると、推進装置に点火され、勢い良くジェット噴射を吹き上げた。そして標的であるワシントンDCへ向かって、核ミサイルは空高く飛び立って行った。
 艦内では乗組員達が、これから起こる惨事を想像して青ざめた表情のまま立ち尽くし、呆然としている。
「すぐに起爆装置のパスワードを変更して、爆破を止めろ」
 艦長の指示にオペレーターは我に返り、コンピューターの起爆装置のパスワードの変更を行おうとしたが、やはり操作は拒否されてしまう。
「駄目です。まだコンピューターが受付けません」 
 オペレーターの声が空しく響いた。コスビーは愕然とした。このままでは後三十分もすれば、ワシントンDCは跡形もなく消えてしまうではないか。
「すぐに浮上して、すぐに国防総省へ連絡を入れろ。緊急事態発生だ!」
 コスビーは素早く次の指示を出した。
「分かりました」
 オペレーターが答えた。
「それから起爆装置の変更用パスワードも同時に送信しろ。こちらが駄目でも国防総省からなら発信出来るだろう」
 コスビーは最後の望みに賭けた。
「艦長、原子炉出力が急激に高まっています。まだ外部から操作されているようです」 
 出鼻を挫かれるように推進管理のオペレーターの声が聞こえた。
「何だと?」
 コスビーは戸惑った。外部電波から逃れようと潜行すれば、国防総省に送信が出来なくなる。しかし原子炉が爆発すれば艦は沈没してしまう。すぐにどちらかを選択せねばならない。
「国防総省には発信出来たか?」
 コスビーは焦った。オペレーターが必死に対応しているが、まだ発信出来ていない。
「艦長、原子炉出力が一一○パーセントを越えました!」
 既に圧力容器の耐圧力を越えているではないか、すぐに潜行して外部の操作を途絶えさせなければ原子炉が爆発してしてしまう。
「仕方ない。再潜行しろ」
 まだ国防総省への送信が済んでいない事は分かっていたが、コスビーは潜行の指示を出した。
 再び船体は急潜行を始めた。バラストに勢い良く海水が注入されていく。しかしもう原子炉は保ち堪えられそうになかった。緊急事態を告げるサイレンが船内に鳴り響いた。
「船長、原子炉が放射能漏れを起こしています。もう保ちません!」
 怯えたようなオペレーターの声が響いて、コスビーは指示ミスをしてしまった事に気付いた。このままでは、国防総省に非常事態を伝えられないばかりか、艦まで失う事になる。何とかこの非常事態だけでも伝えなければ・・・・・・。
 コスビーは焦りながら船長室へと走った。緊急用の救難ブイを発射させる為にだ。救難ブイには発信器と、ブラックボックスが納められている。発信器には救難信号と一緒に、ミサイルの起爆装置の解除用パスワードも、同時に発信されるようになっていた。解除用パスワードは沈没した原潜から第三国が核ミサイルを奪って、悪用するのを防止する為に発信される。今回もこのパスワードが核弾頭に届けば、核爆発を防ぐ事が出来るはずだ。
 コスビーは船長室のドアを開けて中に飛び込むと、壁に備え付けられた無線操作卓の救難ブイ発射装置の鍵穴に胸から掛けた鍵を差し込んだ。そして蓋を開けると中の赤いボタンを力一杯押し込んだ。
 救難ブイの発射装置は、電子機器が故障しても発射出来るように手動式になっている。艦橋に取り付けられた筒の中から、オレンジ色をした細長いブイが発射された。ブイは勢い良く海中を突き進み、海面に達すると飛び上がった。そして水面に着水すると、先端のアンテナから緊急信号とストロボ光を発し始めた。
 コスビーが救難ブイの発射を確認した時、船体に激震が走った。遂に艦内の原子炉が爆発したのだ。あっという間に船内に高濃度の放射能が混じった高圧の蒸気が溢れてきた。船体の後部原子炉付近がひび割れ、そこから水圧に押し潰されるように船体は歪んだ。閃光が船内から瞬いたと思った瞬間、船体は大爆発を起こした。巨大な泡が吹き出し、猛スピードで上昇して行く。船体は砕け、船首と船尾に割れたまま、暗い深海の奥へと音もなく沈んで行った。
 海面には爆発で生じた巨大な泡が、水面から立ち上がり、救難ブイを空高く舞い上げた。その勢いで一○○メートル以上も上空にブイは吹き飛ばされたが、無事水面に着水して緊急信号を発し続けた。泡が引いた後、海は何事もなかったように静まり返り、救難ブイが発するストロボ光の点滅だけが、暗闇の中に光り輝いていた。

 ホワイトハウスの大統領執務室で、ルーベンスがシャフナーからの緊急連絡を受けていた。
「何を馬鹿な事を言っているんだ。ついさっきお前は事件が解決したと言ったばかりじゃないか!」
 ルーベンスは唾を飛ばしながら激怒している。
『それがコンピューターがまた作動し始めたのです。それで核ミサイルがワシントンDCに向けて発射されるんです』
 シャフナーは必死に説明を続けた。
「お前の言う事は信用ならん!」
 ルーベンスは癇癪を起こして、PDAのスイッチを乱暴に切った。
「どうしたのだ」
 カールソンはくつろいだように椅子にふんぞり返って、のんびりと構えている。
「シャフナーの馬鹿が今度はワシントンDCに核ミサイルが飛んで来ると、訳の分からない事を言い出したんです。もうあいつは首です」
 ルーベンスの怒りは治まらなかった。
 その時執務室の扉が勢い良く開いて、血相を変えたダグラスが飛び込んできた。
「大統領大変です!」
 小太りのダグラスは息を切らせて叫び、額から大粒の汗を流している。
「どうしたダグラス?」
 カールソンが素っ気なく尋ねた。
「今国防総省から緊急連絡が入りました。イベリア半島沖を潜行する原子力潜水艦クリントンから、ワシントンDCに向けて核ミサイルが発射されたそうです」
 ダグラスは興奮して声が上擦っている。
「何!」
 カールソンは驚いて椅子から飛び上がった。
「止められないのか?」
 カールソンが尋ねた。
「起爆装置の解除は発射した潜水艦からしか出来ないのです」
 ダグラスが言った。
「それならすぐその潜水艦から解除させろ!」
 カールソンは怒鳴った。
「それが、原潜からの連絡が途絶えてしまったのです。沈没の可能性があります」
 深刻そうな厳しい顔をしてダグラスが言った。
「何だと? すぐに調査させろ!」
 カールソンが指示をした。
「現場近くの大西洋上を航行しているイギリス海軍の空母から、戦闘機が現地へ急行しています」
 ダグラスが現況を報告した。
「直弾予定は?」
 カールソンが心配そうに尋ねた。
「着弾時間は六時十五分です」
 カールソンは腕時計を見た。後三十分程しか時間がない。
「早く国民に知らせないと・・・・・・」
 ダグラスは気を揉んだように焦っている。
「みんな寝込んでいるよ。それに後三十分でどこへ逃げる」
 開き直ったように落ち着いた口調でカールソンは言った。そして座り込むと、苦しそうに頭を抱えた。押し黙りながら目を開けて窓の外を見つめると、外では雨が降り始めたらしく、大粒の雨粒が窓を叩き濡らしていた。

 フライ社のコンピュータールームは、重苦しい空気に包まれていた。プレコンピューターのシュミレーション画面には、原子力潜水艦から核ミサイルが発射されてから、ワシントンDCに着弾するまでの軌跡が、地図上に刻々と描かれていく。画面下には着弾までの残り時間が表示され、それは既に三十分を切っていた。
「遂に発射されてしまったようだな」
 ぞっとしたような表情で、シャフナーは画面を見つめた。
「どうする?」
 シャフナーは尋ねたが、今のレナードの混乱した頭では良い考えは何も浮かんで来なかった。
「確か核ミサイルは起爆装置を解除出来るようになってなかったか?」
 ウェルマンが彼らの後ろから助言をした。
「そんな事が出来るのか?」
 シャフナーが振り向いて尋ねた。
「ああ、誤爆を防ぐ為に発射されてからも、起爆装置を解除出来るようになっているはずなんだ。原潜から解除信号を送れば良いはずだが・・・・・・」
 ウェルマンは首を振って考えながらそう言った。彼は何かの理由で解除信号が送信されていない気がしていた。
「それも無理なようだぞ」
 レナードが言って、ディスプレイを指さした。そこには先程まで表示されていた、原潜の姿はなく、
"撃沈"の文字が残されていた。
「沈められてしまったのか・・・・・・」
 その理由が分かってウェルマンは唸った。
「もう止める手だてはないのか?」
 さすがにウェルマンは軍事兵器の事については豊富な知識があるようだ。シャフナーは彼の方を見て他の方法を探らせそうとした。しかしウェルマンは腕を組んで唸るだけだ。
 もうおしまいなのか・・・・・・。誰もが全てを諦めた。
 ワシントンDCは後三十分余りで、この世から消え伏せる。その後はCUBEの企て通り、世界中に核ミサイルの雨が降り注ぐ。そして地球から全ての生物は死滅するのだ。

 大西洋上を二機のイギリス海軍のハリアーWが飛行していた。暗がりの海上で頼りになるのは、レーダーと暗視装置によるシンセティクビジョンのモニター映像だけだ。
 突然レーダーに救難信号が割り込んできた。原潜から切り離された救助ブイの信号をキャッチしたのだ。
「原潜からと思われる緊急信号をキャッチした。距離は北西に三○○キロ。進路をその信号に合わせる」
 ハリアーWは電波の発する方角へ機体を翻すと、マッハ二・○の最高速度で現地へ急行した。

 コンピュータールームではこれから起こる惨状を想像して、皆が静かにインナーヘッドに座り、項垂れている。一度は救われたと思った人類が、こんな形で最期を迎えようとは思いもしなかった。誰もが絶望に打ちひしがれていた。
 それでもランバートは諦めず、一人目を閉じながら打開策を考え込んでいた。たとえワシントンDCが破壊されても、CUBEを停止させられれば、その後の核攻撃は阻止出来るのではないだろうか。そうすれば被害を最小限に抑える事が出来る。しかしその為には、どうしてもクリエイト協会のコンピューターにHC1を登録しなければならない。残り僅かな時間でそれが可能なのだろうか? ランバートは悩んだ。
 何もやらないよりはマシじゃないか。突然ランバートの脳裏に閃いた。そう何もしなければ、本当に人類は滅んでしまうのだ。
 ランバートはむっくりと立ち上がって、
「どんな事をしても、クリエイト協会のコンピューターからHC1のプロテクトを解除するんだ。そしてCUBEを止めよう」
 と、皆に向かって叫んだ。
「ランバートそれは無理だよ。時間がなさ過ぎる」
 レナードが諦め顔で呟いた。
「でも何もやらなければ我々はCUBEに負けるんですよ。レナードさんCUBEはあなたが作った機械でしょう。あなたにも責任はあるんですよ。クリエイト協会に連絡をして、何としてもプロテクトを解除するように説得して下さい」
 ランバートは訴え掛けるようにレナードに懇願した。仕方なさそうにレナードは立ち上がった。
「分かった、やってみるよ」
 レナードは無理と分かっているだけに、嫌々胸ポケットからPDAを取り出した。
「やってみるではなくやるんだ。もう時間がないぞ!」
 ランバートは今までにない力強い口調でレナードを叱った。コンピューターディスプレイのカウントダウンは既に二十分を切っている。
 ランバートに怒鳴られてレナードは目が覚めたように驚き、頷いた。クリエイト協会へ電話を掛けると、応対に現れたのはまたモーガンだった。PDAの画面のモーガンは疲れ切っている様子だ。
『今度は理事ですか』
「モーガン良く聞け。今ワシントンDCに向けて核ミサイルが発射された」
『はあ? 冗談でしょう』
 モーガンの疲れは一気に吹き飛んだ。
「後二十分程で着弾する。それまでにどんな事をしてもHC1のプロテクトを解除するんだ」
『それは無理ですよ。プログラムを組んだ主任がいないんじゃどうする事も出来ません』
「泣き言を言っている暇はないんだ。何をしても構わないから。皆で手分けしてプロテクトを外せ!」
 レナードは脅迫するような鋭い口調で指示をした。
『分かりました。やってみます』
「やってみるではなく、やるのだ! 電話は切るな、状況を逐次報告しろ」
『はい』
 レナードはランバートに感化されたのか、モーガンに対してきつい言葉を浴びせかけた。
 モーガンはすぐにプログラムルームにいるドレスラーとコンウェイを呼び寄せた。そして現状を説明して、手分けしてプロテクトを解除する作業を開始した。
「何から始める?」
 ドレスラーが尋ねた。
「プログラムを開いてスタンプが何を組んだのか調べろ」
 今ここで一番役職の高いのはモーガンである。彼の指示に従って二人は作業を始めた。
「分かった」
 ドレスラーがプログラムを開いて中を調べている。彼の度の強い眼鏡にプログラムが反射しながら流れていく。
「このHC1プロテクトってのを検索して、ワイルドカード指定して全部消してしまえばいいんじゃないか?」
 ドレスラーが言った。
「そうだなプログラムが大きいから三人で分けてやろう。ドレスラーはAパターンからDパターンまでを頼む。コンウェイはEパターンからHパターンまでを頼む。後は俺がやる」
「分かった」
 ドレスラーとコンウェイはモーガンの指示に従い、それぞれの担当区分のプログラムを開いて作業を続けた。
「おいワシントンDCに核ミサイルが落ちたら俺達どうなるんだ?」
 コンウェイの脳裏に急に疑問が浮かんだ。
「馬鹿な事を考えてないで早く仕事をしろ!」
「そうだな・・・・・・」
 モーガンに怒鳴られて、コンウェイは深く考える事を止めた。
 
 ハリアーWが暗黒の海の中にブイから発せられるストロボ光を発見した。パイロットの肉眼でもその位置はハッキリと確認出来る。コックピットの受信機に、ブイから繰り返し発せられる救難信号と、起爆装置解除のパスワード信号が飛び込んできた。
「今救助ブイの信号をキャッチした。送信するので解読を頼む」
 パスワードは高周波の複雑なデジタル信号の為、解析するには専用の解読器が必要だ。パイロットは交信を済ませると、その信号をメモリーに溜めて基地に向けて送信した。

 コンピュータールームでは、ランバートとレナードが議論の真っ最中だった。
「インナーヘッドとCUBEを直接繋ぐよ」
 ランバートが提案をした。
「馬鹿な事を言うな。そんな事をしたら君の脳の情報をCUBEに吸い取られてしまうぞ。こちらに戻るにも時間が掛かりすぎる」
 何を言い出すのかと呆れて、レナードはその意見に猛反対した。
「しかしプレコンピューターを接続していたのでは、CUBEのメインプログラムに到達するのに時間が掛かり過ぎるんだ」
 ランバートは尚も言い張った。
「そんな危険な事を俺は許可出来ない」
 レナードは頑なに譲らなかった。
「今クリエイト協会では自分達の命を賭けて、プロテクトを解除しているんだ。ここでCUBEを停止出来なければ彼らの努力はどうなる。僕にはどんな事をしてもCUBEを止める義務があるんだ」
 ランバートは力説した。彼の厳しい目は全てを覚悟している事を語っていた。この固い意志にはレナードも従うしかなさそうだった。
「分かったよ」レナードは折れて渋々頷いた。
 レナードはプレコンピューターからCUBEに繋がるコネクターを外した。そしてそのコネクターにインナーヘッドのコネクターを直接差し込んだ。するとインナーヘッドは、簡単にCUBEと直結された。
「これでインナーヘッドは自動認識される」
 作業を終えてレナードが言った。
「インナーヘッドにディスプレイを繋げておいて欲しい。僕の操作状態を確認してもらいたんだ」
 ランバートが頼んだ。
「ああいいよ」
 レナードは言うと、手早くモニターをインナーヘッドのディスプレイ端子に接続した。
「問題は時間内にHC1のプロテクトが解除出来るかどうかだな」
 準備が整ってランバートはひたすらモーガンからの連絡を待った。一秒がこんなに長く感じられるのは初めてだ。