断るに断れない時

2003/11/22

晩秋の、そこはかとない寂しさ、わびしさ、心細さは、日の暮れる早さに比例し、
日増しの寒さが、更に、その気持ちに拍車をかけます。こんな秋の日暮は、ふと、
現代社会では薄れがちな季節に対する感慨、感動を再認識させてくれます。
午後5時というのに、すっかり日は落ち、空のしらみもほどなく消え、今にも
黒一色に塗り潰されようとしていました。

彼がひょっこり訪れたのはそんな時でした。小学校、中学校と一緒に通学した
幼馴染、とは言え、そんなに親しいと言う間柄でもありません(でした)。
今現在、生まれた地を離れて暮らしているらしく、ここ十年近く、顔を
合わせる機会もありませんでした。

幼馴染と言うものは、いくら歳をとっても、久しぶりに顔を合わすと、自然に
お互いを『ちゃん』付けの名を呼び合うものだと、自分ながら感心してしまいました。

互いの名を呼び合った後、突然の訪問に思わず

「どうしたの?」

と、問い掛けると、

「ちょっと、頼みたいことがあるんだけれど・・・」

おっとっと、やな予感

実は、この幼馴染、色々な噂が立っていました。それも、良い方の話ならいいのですが、
反対の話を聞いていて、『頼みたい』の言葉に、思わず腰が引ける思いでした。

「車が故障してしまって、お金を貸して欲しいのだけれど・・・」

ああ、来たか、聞きたくなかった。

何年か前に知人から聞いたのですが、その奥さんが経営している美容室に徒歩で
やって来て、「車が故障したので、5千円程、貸して欲しい」と言う頼みに、
知らぬ顔でもなし、都合したのですが、返しに来ないと言う。
「あんな事をしたら、二度と顔を合わすことも出来なくなるのにねえ」と
店に来て、話していたことを思い出しました。

この丸っきり同じパターンの出来事に、一体、どのように反応したらいいのか
判断が付かない。噂は噂として、目の前の幼馴染が、最初から自分を騙そうと
しているとは思いたくないし、でも、聞いていたのとパターンは同じ、
この幼馴染の車は地元に帰ると決まって故障するなんて・・・、
自然と、自分の眉間にしわが寄っていくのが自分でもわかる。

結局、

「いくら、いるの」

「ありがとう。6千円でいい。来週火曜日に、必ず返しに来るから」

それにしても、大人になり、それぞれの職業を持っている(だろう)立場で、
降って湧いたような、幼馴染どうしのお金の貸し借りは、例え、返して元通りに
なったとしても、確実に関係は悪化します。借りた方の負い目もさることながら、
貸した方の気分は、見たくもないものを見てしまったようで、更に複雑なもの。

どこか、晩秋の寂しさにも似ている。



返しに来てくれるのだろうか?
期限は11月25日
次回に続く、乞う、ご期待、続かないかも知れないけれど・・・

一種、メロスを待つ、セリヌンティウスの気持ちにも通じる。
友よ、君を信じていた。だから、一瞬であろうと、君を疑った自分が恥ずかしい。殴ってくれ。・・・と

でも、子供心に、『走れメロス』の話は余りにも単純すぎる、矛盾がある、
これは偽善だと思ったのは、自分だけだろうか?






2003年11月23日





2003年11月24日





2003年11月25日






お待たせしました。

2003年11月26日 になりました。

果たして、メロスは<下に続く>




















来なかった。 <下に続く>



2003年11月27日

2003年11月28日

2003年11月29日

2003年11月30日

2003年12月1日

2003年12月2日

2003年12月3日

2003年12月4日

2003年12月5日

2003年12月6日

2003年12月7日

2003年12月8日

2003年12月10日

2003年12月11日



メロスは来た。

2週間遅れとは言え、疑った自分が恥ずかしい。
何故か、今度は、そんな思いを抱いた自分が、惨めに思えてきた。
何とも、後味の悪い結末。
これからは、疑るくらいなら、初めから、きっぱり断ることにしよう。


でもなあ、頼まれると断れないタイプなんだよなあ。 
  ↓
気が小さい?押しに弱い?『オレオレ、オレだよ』に騙されやすい?