他人のふんどしで相撲を取る

2005/05/30

「高校の後輩の ○○ さんから電話」

妻から渡された受話器に『はて?』と首をかしげました。
『○○』姓は、一人だけ思い当たる人物はいたのですが、
かと言って、その人物とは、ふだんからの付き合いもありません。
以前、高校の全体同窓会の寄付集めの電話が2,3度あった程度で、
それに、後輩ではなく、同輩のはず。

「替わりましたけど・・・」

「あっ! 私、○○ヨウコ の □□ と言います」

「えっ?、○○ さんですよね?」

「はい、○○ヨウコ です」

ヨウコと言いながら受話器から聞こえてくるのは男性の声。思わず、

「○○洋子?さん・・・ですよね」

「あっ、いえいえ、『○○洋行』、会社名になります。

その会社の □□ と言うものです」


どうやら、自分とは関係のない人間のようです。

「あ、どうも。で、知り合いでは・・・ないですよね?」

「いえ、石田さんは東高校の卒業生ですよね?」

こちらからの、知り合いかどうかについての質問には言葉を濁し、
失礼にも、逆に、向こうから、質問を返してきました。

「ええ、それが何か?」

「実は私も同じ東高校の卒業で43期生になります」

同じ高校出身を持ち出し、それも、わざわざ、期生まで指定(年度ではなく)して・・・、
親近感を持たせようと企んでいるのだろうか。自分自身、期生を尋ねられても答えられないだけに、
相手の魂胆が見え隠れするようで、どうも、怪しい。

「ああ、そうなんですか。それは、どうも・・・」

「そこでですねえ、石田さん!」

「・・・」

初対面(初対話?)の相手に随分と馴れ馴れしく、
一方的な話の進め方に相槌を打ちかねていると、

「石田さん?・・・ 石田さん?」

「何ですか!?」

「ああ、すみません。ところでですねえ、

『○○洋行』という会社はご存知でしょうか?」


「いいえ」

「そうですか。『よう』は西洋の『洋』、『こう』は行進曲の『行』、

特徴ある字で、皆さん、印象に残ると言われているんですよ。

たぶん、石田さんも、無意識にしろ、その名称は、

何度かお目にしていると思いますよ。

そうそう、石田さんは、プロ野球などはテレビで、ご覧になりますか?」


「たまにですが・・・、それが、何か?」

「東京ドームのですね、外野席上なんですが、そこに、

コマーシャルボードが、たくさん並んでいるのはご存知ですよねえ」


「ああ、はい、はい」

「その中の一枚に、わが社の『○○洋行』もありまして、

ホームランを打ったときなど、目にすると思うのですよ」


「ああ、そう言えば、見たような気も・・・」

「そうでしょう。そうでしょう。絶対に見ていますよ」

何となく誘導尋問のようで、どうも、気に入らない。

「だから、何なんですか?」

「突然の電話で失礼とは思ったのですが、実はですねえ、同じ高校卒業ということで、

特別、石田さんだけにお知らせしたいことがありまして、お電話を差し上げたのですが、

その『○○洋行』という会社が、どんな会社なのかご存知でしょうか?」


「だから、会社名自体も見たような、見なかったような・・・」

「ああ、失礼しました。そうですよね。『○○洋行』はですねえ、

商品取引所法の適用を受ける商品取引の上場商品、又は上場商品指数の

商品市場における取引の受託、及び自己売買を業務にしています」


やはり、セールスかと、予想通りの展開に納得しながら、

「ああ、要するに、先物の勧誘ですか? 

申し訳ないのですが、その気も、お金もないです。」


「ああ、ちょっと、石田さんねえ、お話だけでも聞いていただけませんか。

この話は、私と同じ高校卒業ということで、普通の人には、決して、紹介しない

特別なものなのです」


「申し訳ないのですが、今、忙しいので・・・」

「ああ、そうですか。それでは、改めて、連絡をしたいと思いますが、

何時ぐらいでしたら、よろしいでしょうか。お暇な時間で結構です。」


「ず〜〜〜っと、忙しいです」

営業マンにとって、『忙しい』という言葉は慣れっこになっているのは、
容易に推測できるわけで、あまり、賢い言い訳ではなかったと思ったのですが

「分かりました」

意外とすんなりと納得した返事が返ってきました。と、思いきや、

「また、ご連絡させていただきます」

さすが、営業マン、ただでは起きません。

「あの〜、『ご連絡』 していただかなくても結構なのですが・・・」

「ははは、また、冗談を! どうぞ、よろしく、お願いします」

こちらの間接的な拒絶にも、全く、意を介さず、軽くあしらわれた格好です。
ひとまず、電話を打ち切ることができ、安心したのですが、
これは、単なる序幕に過ぎませんでした。



実は、昔々、その昔、建設会社に勤務していた頃、同じように先物のセールスマンが
現場事務所に訪れ、そのいきさつの上、非常な不快感を味わった経験があります。
自分自身まだ若く、人に対して疑いを持つことなく、現場内へ招き入れてしまったことが、
結果として、相手を増長させてしまったようです。

『金(きん)』の先物勧誘でしたが、会社の信用から始まり、莫大な利益を得たケースなどを
延々と説明し始め、こちらとしては買う気がないと言おうが帰る気配すら見せない。

「そんなお金なんか、ありませんよ」

「元手は要りません。『信用買い』って、ご存知ですよね。

いくらでもいけます。多ければ多いほど、儲けは大きくなります」


「そうは言うけれど、逆に、下がったときは、多ければ多いほど、

損害は大きくなるじゃないですか」


「監督さん。信じてください。大丈夫です。

このグラフを見てください。このところ、一本調子で上がっています。

専門家である私が保障します。まだまだ、上がります。大儲けできます」


「そんなに大儲けできるなら、自分で買えばいいじゃないですか」

「もちろん、私も買っています。でも、ここに私がこうして、監督さんにお会いでき、

お話できたのも何かの縁です。自分で言うのも何ですが、私自身、人を見る目は

あると自認しています。その私が、監督さんだからこそ、お勧めしているのです。

誰も彼もと言うわけではないんですよ」



根負けする形で、『一度考えてみる』ということで帰ってもらったのですが、
さすがに、自分の営業成績に関わるだけあって、間を置くことをしない。
翌朝、早速、現場へ行く前の時間に、会社のほうへ電話がかかってきました。

「石田さん、考えていただきましたでしょうか?

実は、今日も上がっています。早ければ早いほど利益は大きくなります」


煽るような言葉には耳を貸さず、
電話を切り替えてもらった時点で言う言葉は決めていました。

「申し訳ないのですが、お断りすることに決めましたので・・・」

「何を言っているんですか。この機を逃すと後悔しますよ」

「結構です。とにかく、お断りします」

「ちょ、ちょっと、石田さん、石田さん、今、上司のものと代わりますので」

電話の向こうで相談しているのか、しばらく間があり、

「ああ、替わりました。 ▲▲ と言います。昨日は、うちの △△ がそちらで詳しく説明し、

お分かりいただけたと思いますが、とにかく、絶対に損をさせることは致しません。

上司である私が保証します」


『保障する』という言葉を、実に惜しげもなく使う会社である。

「話は聞きました。聞いた上で、そんなお金もないし、と言うより、

そんな気持ち自体がありませんので、申し訳ないのですが・・・」


「石田さん、昨日、あれだけ時間をかけ、説明させておいて、それはないでしょう」

明らかに、今までの丁寧な対応とは変わり、少し、きつい口調になってきました。

「それは、そちらの勝手で説明しただけじゃないですか」

こちらも、相手の口調に挑発される形で言い返すと、
相手は、何かを決断しているような、そんな沈黙の後、

「え〜、何だってえ! あ〜、分かった!

あんた、度胸がねえんだ。 ったく、男のくせに小せえなあ!」


こちらの断る意思が固く、これ以上、脈はないと見ると、本音を出してきました。
ついに、切り札の捨てゼリフ、見たこともない相手を『あんた』呼ばわりの罵倒です。

「ちょっと、あなたにそんなことを言われる・・・」

「うるせえんだよ。お前なんかに用はねえ!」

究極の逆切れ状態です。

「用がないって、そちらから・・・」

「ガチャ」

反論の余地すら与えず、強制切断されてしまいました。
残った憤懣の大きさもさることながら、それよりも、いい教訓になりました。



今回の電話にも、ある程度、冷静に、対応できたように思うのですが続きがあります。
話を昔々から現代に戻しますが、かの『○○洋行』、あれから三日ほど経ち、
再び、□□ から

「ああ、石田さん、今日、特別に、そちら方面を回っているのですが、

是非、お会いして頂けないでしょうか」


「申し訳ないのですが、忙しいので」

「そうですか。実はですねえ、お勧めしようとした先物市場が

先日、電話したときから、上がり続けているんですよ」


「ああ、そうですか」

「新聞をご覧になれば、お分かりと思うのですが、

あの時、お買いになっていれば、倍とは言いませんが、

30%、40%は儲けになっていました」


「・・・」

「初回ということですが、石田さんの場合、特別に、今からでも、

絶対に、30%は保障します。

今までも、2倍、3倍になったケースも多くあり、

あっ、これは、上得意さんの場合になりますが、

石田さんもこの機会に参加されるのであれば、この先、

同じような恩恵を受けられると思います。

実際、今も、多くのお客様から感謝されています」


「ははは、そんな、・・・」

「いや、石田さん。嘘のようだと思うかもしれませんが、本当の話です。

是非、石田さんにも・・・」


「あの〜、話は長くなりますか?」

「いえ、石田さん。石田さんも、儲けたいと思うでしょ」

どうも、世のセールスマンと言うのは、人の質問には、お構いなしのようです。

「いいえ、思いません」

その態度への不満もあり、成り行き上、相手の言った言葉を否定するのは自然の流れです。

「それは嘘だ。人間、誰でも、少しでも多くのお金が欲しいと思うのは当然です」

「あなたねえ、私は思わないと言っているのですよ。

あなたが、そう思うのは勝手ですが、

全ての人間が、そう思っているとは限りませんよ。

心外だなあ」


ちょっと、熱くなってしまったようです。それが、奏効したのか、

「ああ、すみませんでした。お時間を取らせてしまいました。

今日は、この辺で失礼します」


これでもう、電話はないだろうと思ったら大間違い。一週間後、


「石田さん、大変です。今日の新聞、ご覧になりました。

アメリカの市場に反応して、先物市場は大暴騰しています。

だから、あの時、言ったじゃないですか。

あの時、買いに出ていれば、今頃・・・」


電話に出るなり、いきなり『大変です』とは、人の意表を突く作戦なのだろうか。
まあ、これもマニュアルのひとつに違いないと思うのですが、この作戦を、
朝のすがすがしい時間帯に実行されると、非常に不愉快な気分になります。

「あのねえ、あなた、人の話、本当に聞いています?」

「はあ?」

「私は、先物に投資するお金はないし、気持ちもないと

一番、最初に言いましたよねえ」


「ああ、はい」

「実際、先物なんて興味はないし、今日の新聞の先物市場の欄も、

当然のことながら見ていません」


「ええ」

「そんな人間を相手に、こうして時間を掛けても無駄ですよ。

これから、何度、電話を掛けてこられようと、絶対に投資をするつもりもありません。

ここに電話をかける時間があったら、その時間を、別の人間に当てたほうが、

あなたにとっても有意義じゃないですか。もう、これで最後にしませんか?」


「そうですか。分かりました。申し訳ありませんでした。失礼します」

捨てゼリフがないだけ、一応、紳士的に収まったと思ったのですが、
それから、2週間後、

「あ〜、もしもし、私、『○○洋行』の ◇◇ と言います。

石田さんは、東高校の卒業ですよね。

実はですねえ、私も同じ高校の・・・」


「ちょっ、ちょっと待ってください。

前、同じように、電話、掛けてきませんでしたか?」


「はあ?」

「前も、『○○洋行』さんから電話がかかってきたのですが、

その時も同じように東高校卒業と言っていました。

おたくの会社は東高校の卒業生ばかりなのですか?」


「・・・・・・ガチャ」

よくセールスなどにはマニュアルがあると言います。
そのセールスマンのバイブルであるマニュアルに従って話を進めるのはいいのですが、
複数のセールスマンが、一人の客相手に同じ情報、手順を用いると矛盾が生じます。
嘘がばれてしまいます。要するに、一度、使った手を用いるのは愚の骨頂、
使用済みの手は封印しなくてはいけません。

営業所内では、個人情報に対し、ある程度の共有はあるにしても、
お互いがライバルであり、それぞれの営業成績に直結する部分だけに、
その不備をカバーする、セールスマン同士の互助的なつながりは希薄なようです。
まあ、『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』、そんな不備など気にせず、
新しい接触を始めるべしとマニュアルに書いてあるかも知れませんが・・・

で、これ以降、電話がありません。少し、寂しい?です。
たぶん、名簿業者などから手に入れたであろう東高校卒業名簿の電話接触(?)の欄の、
自分の所に、しっかりチェックマークが入れられたようです。

セールスの電話は掛かってくれば、掛かってくるほど、
確実にその手の内が見えてきますし、それを心得ていれば、余裕が出来ます。
暇な時は相手にするのも楽しいかもしれませんが、あまり、深入りをするのは、
賢明とは言えません。相手も冷やかしかどうか判断するでしょうし、
下手をすると、罵倒され、精神的余裕どころか、こちらの頭の中が
沸騰してしまう結果に終わるかも知れませんので、ほどほどに。



先物取引の勧誘に限ったことではありませんが、セールスマンの特性を少し・・・

●対面を要求
セールスマンは説き伏せる自信があるようです。
こちらにとって、セールス対象に対しての知識でかなうわけはありません。
変に知ったかぶりをしたり、訳が分からず、賛同するのは禁物です。
ここぞとばかり専門用語を駆使し、一気に畳み掛けてきます。
大人と子供のけんかです。相手になりません。
その気がないのであれば、会うことは避けるべきです。

●信用を強調
『東京ドームに大看板を出している』
『○○証券の関連会社』
『きれいなカラーパンフレットを提示する』
これらに惑わされてはいけません。信頼できる会社だと言う錯覚を
与えようとしています。とにかく、もし、自分が望むのであれば、
相手が提供する情報ではなく、自分から手に入れた情報を頼りにすることです。

●親近感を持たせる
どうも、卒業高校が同じというのは、『○○洋行』だけの手口のようです。
最近は電話セールスに警戒感を持つ人が増えてきたようで、
セールスマンが話をする前に、一方的に電話を切られてしまうのが、
どうも悩みの種?のようで、まず、同じ高校卒業と言うことで、親近感や
仲間意識を持たせ、むげに電話を切れない状態にするようです。
セールスマンにとって、話に乗ってくることが第一条件ですので、
同じ高校卒業という言葉に限らず、怪しいと思ったら、
暇な時?以外は、即、「切ります」と言って、強制切断しましょう。
相手が電話番号を知っているから、後から嫌がらせ電話が掛かってくるのではと
心配するよりも、まず、強い態度を見せることが必要です。

●相手を特別扱いする
『あなただけです』
『こっそり、教えます』
などと、特別扱いしているふうをちらつかせ、人の虚栄心をくすぐります。
セールスマンにとって、相手は全て、特別な存在です。営業成績アップの。

●『必ず儲かる』を強調する
勧誘に際し、「絶対、損をしません。儲かります」を言うこと自体、違法行為なのですが、
それをうたい文句にします。たぶん、実態(文書)がないので、安心しているのだと
思いますが、当然、信じないことが肝心です。(後で言われても、『知らぬ存ぜぬ』で
押し通すつもりでしょうし、万が一、苦情が来ようが、口では絶対に負けないと思っています)
まあ、「損するかもしれません」などと口にするわけはないのですが、
もし、心配であれば、相手に断りを入れた上でボイスレコーダーに
記録しましょう。たぶん、断りを入れた時点から、口にしないはずです。

●『保障します』を口にする
前項と同じ

●脅す、おだてる
特に、女性、年寄りには脅す手を使います。
大きな声で威圧し、相手に話す余裕を与えません。
相手に『これは大変だ』と言う気持ちを持たせようとします。
逆に、男性の場合、おだてて、いい気分にさせようとします。



何にしても、引っかかったことはないので何ともいえませんが、
うまい話は、そうそう、転がっていないことだけは確かなようです。
セールスマンにしたら、お客が儲けようが、損しようが関係ありません。
出来るだけ、大きな『賭け』をしてくれれば、ありがたいわけで、
セールスマン自身には営業成績、会社には手数料が入ってきます。

ただ、そのお客に継続して『賭け』をしていただき、更なる、
営業成績、手数料のため、それなりの努力はするでしょうが、
所詮、『他人のふんどしで相撲を取っている』ようなもの、
自分が怪我をすることはありません。怪我をするのは、お客様です。

確かに、利益を上げることもあるでしょう。でも、それを継続することは至難のわざ。
いつかは、落ちていくことを考えてしまう自分は、やはり、小心者に違いありません。
と言うか、自分自身、博打には、めっぽう、弱いと自覚しています。

くれぐれも、皆さま、お怪我のないように