本文中、画像部分をクリックすると、ポップアップで拡大表示します。
(申し訳ありませんが、ポップアップ表示は、Internet Explorer Ver5.5以上が必須条件です。)
ポップアップ以外をクリックすれば、拡大した画像は自然消滅します。




夏草や 兵(つわもの)共が 夢の跡

2005/06/14

ここは、走る観光地?



本当に、この場所だったのだろうか?

30年以上前の記憶を呼び戻そうと、あたりをぐるっと見渡しました。
記憶にあるのは、食堂に設置されていた、
鍾乳洞奥から配管で引っ張ってきたと言う自慢の天然クーラー、
観光釣堀で細い竹と心もとない釣り糸の釣竿を賃借りし、イワナ、マス釣りをしたことぐらいで、
肝心の鍾乳洞の中も、鍾乳洞を出た自然の風景も記憶から抜け落ちていて、
どうしても思い出せません。

ここは、岐阜市から郡上八幡に向かう国道156号線、
東海北陸自動車道、美並インターチェンジを過ぎた付近を東方向、
山を登ること5〜6kmに位置する大滝鍾乳洞、
その駐車場から見て、左手に食堂、正面に土産物店、右に観光釣堀、
確かに、大道具は揃ってはいるのですが、それでも、どうも、違う。
何となく、しっくり来ない。

 ←画像をクリックすると拡大
  左からトイレ、鍾乳洞入場券売り場(ケーブルカー乗車賃を含む)、
  ケーブルカーへの案内路、土産物店、鍾乳洞出口からの階段、空き店舗(元土産物店?)。


昭和40年後半、オイルショック前の高度経済成長期真っ只中、
生活の豊かさを得るため、ひたすら働き続けて来た国民、
そのおかげで出来た余裕は、余暇、レジャーに振り向けられました。
しかし、まだ、その過ごし方に個性が無いと言うか、
レジャー産業自体が成熟していなかったように思います。

自家用車購入、いわゆるマイカー時代の到来に、「さあ、いくぞ」と
意気込んではみたものの、行く場所は限られた施設、
結果として、その少ない施設に、どっと押し寄せる傾向にあり、
まだ週休1日が常識の時代、日曜日のそこは、まるで、
雑踏のような賑わいを見せたものです。
おまけに、道路整備は後手に回り、今以上の大渋滞が発生したものです。

当時の大滝鍾乳洞も例外ではなく、日曜日ともなると、
国道156号線から鍾乳洞に向かう道路は、車の数珠繋ぎ、
帰路は更に、郡上踊り見物の行楽客と合流する形となり、
更なる大渋滞発生がシーズン日曜日の恒例行事でした。

そうか、そういうことか!

自分たち(妻と妻の両親)以外は、釣堀のカップル一組だけです。
大道具は揃っているのですが、役者がいない。
まるで、『夏草や 兵(つわもの)共が 夢の跡』、祭の後の寂しさが漂っています。
国道から現地へ向かう6kmの道のりで、すれ違う車が存在しないほどの状況を見るに
レジャーの多様化と変化について行けずに取り残された空間がそこにありました。

メインの鍾乳洞にこだわり続け、衰退に対抗する有効策も効果を発揮せず、
いつしか遠退いた客足に、そこで働く人、風景には、あきらめにも似た雰囲気が漂い、
怠惰な時間が流れています。
(でも、こういう風情が、自分には、何となく落ち着く雰囲気ではあるのですが)



「おっちゃん、死んでるで」

その言葉の内容にびっくりして、その方向を見ると、
カップルの彼氏との死闘で、糸を切り、逃れた魚が腹を見せ、浮かんでいます。
気のなさそうに振り向く、おっちゃんは、

「気ぃ、失ってるだけや。もう、ちょっとしたら、生き返る」

と言いながら、堀のふちから、竿の先で、その魚を突付き始めました。

はあ〜〜〜、空しい!

弱っていようと、死んでいようと釣ったと認めない観光施設側の
頑(かたくな)な態度には、その台所事情が垣間見え、悲哀すら感じます。

2段になっている堀の、上の段には魚の姿はありませんし、
下の段にしても、その数は、決して群れを成すと言った状況ではありません。
収入に見合う魚の数を考えれば、必要ないということでしょうか。

 ←画像をクリックすると拡大
  堀へは沢の水を流し込んでいるようなのですが、
  堀自体の清掃はしていない様子で、お世辞にも清潔そうには見えない。



そういえば、先ほどから、どうも、見張られていると言うか、
中央、土産物店辺りから、こちらの様子を伺っている感じがする。

土産物店の前を過ぎ、右手の和風料理店らしき方向へ進もうとすると、

タッタッタッタッタッ

と、一人の男性従業員が、土産物店を出、先回りするように、その方向へ走る。

「やっぱり、やめようか」

と立ち止まると、

ピタッ

と、従業員も動きを止める。
きびすを返し、鍾乳洞の発券所へ向かおうとすると

タッタッタッタッタッ

またもや、先回りし、発券所の方向へ向かう。

妻の両親が

「自分たちはいいから、お前たちだけで行け」

と言うのですが、

「それならば、自分たちも・・・」

と、立ち止まると

ピタッ

「じゃあ、せっかく来たのだら、軽く、食事だけでも」

と駐車場脇の食堂へ向かうと

タッタッタッタッタッ

今度は、女性従業員が土産物店から走ってきて、
自分たちが食堂正面の階段を上がる間に、近道をし、
横の入り口から滑り込むように駆け込みました。
自分たちが、その建物に入ると同時に照明がつき、
先ほど、横から入った女性がお冷を持って参上。

いったい・・・・?

先ほど釣堀にいたカップルを、発券所まで案内し、発券し、
更に、その奥、ケーブルカーまで案内し、ケーブルカーを始動させる、
それらすべての仕事をこなしたのも、釣堀で釣竿を渡した従業員でした。

そうか! そういうことか!

そうです。ここは、一人三役、四役をこなす(こなさなければならない)ために、
従業員が走る観光地なのです。

 ←画像をクリックすると拡大
  もちろん、中央の人物は水色のハッピ姿、男性従業員の走る姿です。


6月、それも平日と言うことで、これが、多くの観光地の現状に違いありません。