V・UHF電波の伝りかた
| 1.序 |
V・UHFの見通し外の電波伝搬は、いわゆる異常伝搬と呼ばれてきました。これは、V・UHFでは地元のTV、FMは受信できますが、遠くの局は受信できないとされてきたからです。筆者自身には、地元TV、FMはサービスエリアという商業上の地域を決めてその範囲に電波が必要十分な電界強度で届くように設計されていて、それ以外の地域からの電波が届くと妨害を受けるとかで邪魔者扱いされた結果、異常という言葉がつけられたような気がしています。しかし自然界には様々な現象が存在しV・UHFの電波であっても簡単に見通し外まで飛んでいく場合があります。先輩諸氏の努力によりこの伝搬では季節がいつがよいとか何時頃どこそこが開けるとかが経験上かなり判ってきています。これは商業上は成り立たないような低い頻度でしか味わえませんが、非常に魅力的でロマンをそそるものです。
本稿では、V・UHF電波の伝わりかたを、@地上波、A対流圏伝搬、B電離層伝搬、C流星散乱、Dその他、 の5つに大略区分し、これまでのJVUDXC会員の受信活動から得た結果を織りまぜながら、簡単に説明します。
| 2.地上波 |
地上波はグランドウェーヴ(Grand Wave)とも呼ばれ、GWと略します。地表面近くの構造(平野、丘、山、建物等)に存在する伝搬形態です。現象的には、直接波、反射波、回折波、屈折波などに分類できます。地元のTVやFM放送の受信では送信アンテナからの電波が途中あまり障害もなく受信地に届いていることが殆どで、安定的に直接波を利用しています。もっと細かくみると電波は、大地や建物での反射波、球面大地や山岳での回折、大気の屈折率変動による屈折波、等の各成分を合成して受信していると考えられます。山の上で地元局を受信すると強力に受信できますが、これは直接波以外にも平野や山等あちこちで反射してきた電波も同時に届いているからでしょう。飛行機による反射波も一時的ですが受信できます。
地上波では近距離の国内局が中心になりますが、海外に近い場所では、対馬(長崎)における韓国局、与那国島・波照間島(沖縄)における台湾局等の受信ができることが知られています。山岳回折では見通し外の放送局のも受信可能で、例えば東京において大阪、京都など関西方面のFM局が受信されており、赤石山脈での山岳回折と考察されています。
| 3.対流圏伝搬 |
地上から約10〜15kmまでの高さの範囲を対流圏と呼んでいます。この対流圏では、地表近くと上空との間で空気が循環(対流)しています。気象現象に深く関わる対流圏ですが電波伝搬にも深く関わっていて、ラジオダクトや散乱により遠距離伝搬が可能になります。この対流圏に関わる電波伝搬を総称して対流圏伝搬またはトロッポ(Tr、Tropospheric Propagation)と呼んでいます。
(1)ラジオダクト; 通常の大気の屈折率は高さと共に減少しますが、温度逆転層や気圧の不連続面等で屈折率が上昇する領域が出てきます。この領域で電波の通路の曲率半径が地球の半径より小さくなり、電波は地表面近くを集中的に伝搬します。この領域をラジオダクトと呼んでいます。これにより数百kmから数千kmの伝搬が可能になります。九州では韓国局、中国局、台湾局、ロシア局等の受信例があります。国内でもかなりのルートが報告されていて、例えば1996年は島根で福岡のFM局が受信されています。この伝搬では、信号は安定していて急激なフェーディングもあまり生じません。従ってTVの場合、画像が流れることも少なく時には地元局と同じように鮮明なカラー受像ができることもあります。
(2)対流圏散乱; これは、大気中の局所的な乱れにより屈折率が周囲とは異なる領域が生じ、これにより電波が散乱されるものです。見通し外の距離では、球面回折波より電界強度が強くなります。200km〜1500km程度の伝搬に有効です。TV放送ではかつて昭和50年から1年間沖縄本島−先島諸島間で対流圏散乱によるTV中継回線(マイクロ波)が実用化されていました。また、筆者の経験から、九州北西部で真冬を除いて受信できる韓国南部のTV、FM局はこの伝搬によるものと考えています。
| 4.電離層伝搬 |
地球大気の上部は電離していて一つの電離圏を形成しています。この電離圏では、地上の高さによって電子密度が違っていて高さの低い方からD層、E層、F1層、F2層と名付けられています。V・UHFの電波は通常これらの電離層を突き抜けてしまいますが、次のような場合には電波が反射または散乱し、見通し外伝搬が可能になるときがあります。
(1)スポラディックE層; 5〜8月にE層と同じ高度(約110km)に、局所的にしかも突然発生する電離層です。Eスポ、Es(Sporadic E layer)と略します。最高使用周波数MUF(Maximum Usable Frequency)は最高200MHz辺りまで確認されています。これにより1000km〜2000kmの近隣諸国のFMやTV放送が受信できます。同じ時刻にうまい具合に2ヶ所以上発生するとマルチホップにより3000km以上の伝搬も可能になります。タイFMやインドTVの受信例等はこのマルチホップによるものと考えられます。Eスポの発生頻度としては10時頃と18時頃にピークがあります。Eスポによる電波は非常に強力に受信できる場合が多いですがフェーディングの強弱も急激です。
Eスポは通常の反射以外に散乱で伝搬する場合もあります。この場合はスキップゾーン内の比較的近距離の局が受信でき、後方散乱(バックスキャッター)と呼ばれています。筆者の経験では、中国FMがEスポで入感している最中に韓国FMが結構強く受信できることがあり、後方散乱ではないかと考察しています。
尚、アマチュア無線の間では、従来Eスポのマルチホップだとされてきた伝搬には、F1層が絡んでいるという考察が近年なされるようになりました。F1層は夏の昼間に高度約200kmに発生し、1回反射で最大3000kmの伝搬が可能になります。F1層自体の伝搬及びEスポとの絡みなど、これまでのTV・FM受信例をもとにその可能性を研究する必要があります。
(2)F2層; F2層は高度約300kmに常時存在し、時間的には朝7時から夜20時くらいに、また季節的には春秋の時期に、電子密度が大きくなる性質があります。通常、短波帯の通信や放送に利用されていますが、VHFのような高い周波数の電波は電子密度の比較的大きいF2層でも突き抜けてしまいます。一方、電子密度は太陽黒点数に大きく影響され、黒点数が多いと電子密度が高くなりVHF波でも反射するようになります。太陽活動には11年の周期があり、極大期前後の年の春秋には通常30MHz程度のMUFが60MHz程度まで上昇し、短波と同様な比較的安定な長距離伝搬が可能になります。1回反射の伝搬距離は約4000kmで、2回目に反射するF2層の電子密度も高ければ約8000kmとなります。サイクル21の極大期1981年秋の20時頃に受信された40MHz台のフランスTV音声はこの2回反射での伝搬例と考察しています。1998年現在はサイクル23がようやく始まったばかりですが、今後太陽黒点数が次第に上昇していくので楽しみです。
(3)スプレッドF層; 南極や磁気赤道付近では、F2層が高さ方向と水平方向に不規則に広がったスプレッドF層が発生します。Fs(Spread F layer)と略します。磁気赤道付近では21時頃が発生確率のピークです。太陽黒点数極大期前後の春秋の夜間(22時頃が多い)に東南アジアのTV、FMがフラッターやゴーストをともなって受信可能です。散乱による伝搬と考えられます。アマチュア無線では夜間にアフリカと交信できておりこのモードによるものと考察されています。スプレッドF層は時間と共に西に移動し地方時21時頃に発生確率が最大になるので、インド洋磁気赤道上空に地方時21時に本層があるとすると日本では午前1時辺りがアフリカ方面の最適な伝搬時間になります。アフリカのTV・FM受信も不可能ではないでしょう。
(4)赤道横断伝搬; 磁気赤道付近のF2層は、通常のF2層に較べて臨界周波数が高く高度も400km〜500kmと高い(通常約300km)ことが知られています。これは赤道異常F層と呼ばれておりこれにより磁気赤道を挟んだ南北間でMUFを越える高い周波数の伝搬が可能になります。この赤道横断伝搬はTEP(Trans Equatrial Propagation)と略されます。この伝搬は、アフタヌーンタイプとイブニングタイプに区分できます。アフタヌーンタイプでは昼間の12時〜19時に6000km〜9000kmの伝搬が可能です。オーストラリアやニュージーランドのTVが春秋期に比較的安定して受信できます。このタイプは太陽黒点数の影響は少ないとされています。イブニングタイプは夜間の20時〜23時頃に発生し、早いフェーディングとドップラーを伴って3000km〜6000kmの伝搬が可能になります。これによりサイクル22の春秋期にオーストラリアFMが受信できています。このタイプは太陽黒点数の影響を強く受けていて黒点数の少ない時期にはVHFの伝搬は不可能です。また、先述の夜間に発生するスプレッドF層の出現と相関性があると言われています。尚、赤道縦断伝搬というモードもあるようです。これは低緯度地域同士で磁気赤道上を伝搬するもので、サイクル22で沖縄から南米やアフリカのルートが開けアマチュア無線家の間で交信に成功しています。
| 5.流星散乱 |
流星が高速で大気に突入したときに、電離したガスの柱がほぼ静止して残り、これにより電波が散乱または反射します。この電離ガスの高さは80km〜120kmで、ちょうどEスポ層が一時的に発生したような状態です。流星散乱はMS(Meteor Scatter)と略されます。ただ、電離ガスの柱はすぐに拡散してしまうため、発生する伝搬経路の持続時間1秒以下〜数秒と非常に短いです。従って受信した放送局の局名確認は一般的には困難です。MSによる伝搬距離の上限は約2000kmで、下限は理論上限界がないそうです。すなわちスキップゾーンがなく後方散乱を利用できます。MSには定期的な流星群(Shower M,eteors)によるものといつでも発生する確率のある散在流星(Sporadic Meteors)によるものに区分できます。
(1)流星群によるMS; 定期的な流星群には、何年かに1回地球の軌道と交わるもの(例えばジャコビニ流星群)などと、毎年定期的に現れるもの(例えばペルセウス座流星群)に分けられます。流星の出現数が多くなる極大日辺りが最適で、時間的には夜半から明け方にかけてがよいです。流星群によるMS受信は以前から試みられており、4月と6月の琴座流星群、8月のペルセウス座流星群、さらに12月の双子座流星群などの時期のTV、FM受信例があります。国内の他、近隣諸国のFM、TVも受信されています。
(2)散在流星によるMS; 散在流星は夏に多く発生し、時間的には流星群と同様に夜半から明け方にかけてが最適です。散在流星によるMS受信はDXerの間では知られていませんでした。しかし1985年頃から複数のJVUDXC会員により流星群の時期以外でもごく短い時間にFM放送が受信できることが報告され、考察が重ねられた結果、散在流星によるMSであることが判ってきた訳です。当時、「バースト的入感」と呼ばれていました。これにより韓国や中国、台湾のFM放送が受信されています。台湾のFM受信では中国語による局名アナウンスのみが聞けるという非常に幸運な例もあります。
| 6.その他 |
(1)リピータ; 放送局やアマチュア無線では、高層ビルや山頂などに無線中継所を設け、二つの周波数つまり受信電波を送信電波に変換し高さの低い地域へ電波を供給するという人工的な見通し外通信が使われています。国内のFM、TV放送の中継局送信所の殆どが海抜の高い山の上に設置されています。これらの中継局はリピータとも呼ばれています。実はこのリピータにより目的外の電波が中継され以外な局が受信できた例が下記のようにあります。
(本来の中継元) (実際の中継元) (リピータ) (実際の受信局)
FM福島親局81.8 NHK横浜FM81.9 FM福島いわき78.6 NHK横浜FM78.5A NHK岡山教育TV3ch NHK徳島総合3ch NHK岡山教育4ch NHK徳島総合4ch
また、非常に希な例として、対流圏伝搬で届いた韓国の釜山文化FM放送88.9MHzがNHK大分FMの各中継局で基幹局の電波として中継され(大分基幹局は88.9MHz)中継局と同じ周波数である82.3, 82.6, 84.2, 84.6, 85.0, 86.2各MHzで受信されたこともあります。この大変珍しい受信はNHK−FM放送終了後に起こっています。リピータによる受信は、本来中継されるべき電波が放送終了などで切れていてかつ中継局は電波を切らずに中継機能が働いている状態か、または、本来中継されるべき電波より遥かに強い電波が中継局に到達する状態でこのような現象が起こると考えられます。
(2)中層大気での電波伝搬の可能性; 対流圏と熱圏の間にある大気は中層大気と呼ばれ、高度の低い方からそれぞれ成層圏、中間圏、熱圏下部となっています。中層大気の自然現象に起因する電波伝搬はこれまで議論されてきませんでした。しかしながら中間圏、成層圏でそれぞれ成因の異なる屈折率の乱れがあることや、中層大気中に強力な水平電界があることなどが判っており、これらが電波伝搬に利用できるかどうか注目するところです。実際に滋賀県にあるMUレーダ(京都大学の研究施設)では46.5MHzの電波を使い中層大気のレーダ観測を行っており、この成果をよく調べる必要があると筆者は考えています。
| 7.参考文献 |
1)『電波伝搬ハンドブック』和多田一郎、1982年、CQ出版社。
2)『6m HAND BOOK』西原寿一、1994年、CQ出版社。
3)『無線通信の電波伝搬』進士昌明編、1992年、電子情報通信学会。
4)『流星バースト通信』福田明、1997年、コロナ社。
5)『MAP(中層大気国際共同観測計画)について』加藤進、1984年7月、日本航空宇宙学会誌。
6)『理科年表 1997年』国立天文台編、1996年、丸善。
7)『V・UHF DXing 19xx』、JVUDXC。