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歯なしにならない話

 

 さて、僕の医者雲の悪さは、もう周知の事実である。今度の医者の手違いは、壮絶な物だった。これをあなただけに教えちゃうからね。

 僕は歯が痛かった(だからなんだっての)。奥歯である。当時小学四年生。甘いもの大好きで、学校から帰るとすぐにチョコレートを食べていたくらいである。おかげでおでぶちゃんにあっという間に変身してしまったわけだが。

 その悪食(?)がたたって、僕の奥歯はとうとう虫歯になり、ご飯もロクに食べられなくなっちゃったのである。

「そりゃないぜセニョリータ。なんで俺の歯をこんな目にあわせるんだベイベー」

 などとほとんど錯乱状態。奈落の底に落ちていくような不思議な痛みを味わいながら、ご飯を食べること2週間。とうとう大嫌いな歯医者にいくことになってしまったのだ。

 

 S歯科の前に着くと、僕は極度の緊張で体がコチコチに固まってしまった。油の切れたロボットよろしく、ぎこちない足取りで待合室の椅子に腰を下ろす。ほどなくして看護婦が僕の名前を呼び、診察室へといざなわれたのだった。

 

 その看護婦がまず最悪だった。胸元のネームプレートには、「研修生」と書かれていて、銀縁の少々つりあがった眼鏡。んもう全体的にヤブヤブヤブヤブヤブヤブヤブヤブヤブうわわわわわわああああああああああーっ!、と主張しているようである。

 僕はまずマジンガーZの操縦席みたいな椅子に座らされ、よだれかけみたいなのをさせられる。それから先生がカルテを見ながら治療部位を治し始める。そこで悲劇が起こったのだ。

 あの看護婦のせいだ。

 看護婦は僕の治療部位を、左右反対に書いてしまい、さらにそこを抜かれちゃったのだる。僕は何も知らずに、健康な歯をヤットコの化け物みたいな器具で引っこ抜かれ、肝心な虫歯は放置。そのまま帰宅となってしまった。

「神様〜、おらあなにも悪いことしてねえだよ。たまにおかず盗み食いしたりするくらいじゃございませんか。おねげえだす。痛い歯を何とかしておくんなせえ」

 なんて、鏡で自分の歯を見た僕は、心から神の慈悲にすがろうとしたが時すでに遅し。抜かれた物は元に戻らない。後の祭、一巻の終わり、である。

 

 このように、僕はこの歯医者でひどい目にあったっわけだが、ここだけの極秘情報も公開しよう。これを他言すると、作者が消滅するのであしからず(そんな事はない)。

 あの間違えちゃった事件から半年後。以前の虫歯がどうしようもない状態になって、別の歯医者の門を叩いた。

今度は割合しっかりした看護婦で、カルテの間違いもなく、治療もスムーズに行っていた。そして先生が僕の歯を見て、

「歯茎切って、抜いちゃいましょう」

 僕はこの言葉を聞いたとたん、気が遠くなりそうな気がした。歯茎を切るのである。んもうそれだけで冷や汗ものではないか。僕は必死で抵抗したのだが、そこは所詮子供。おやつと言う誘惑に負け、麻酔を打たれたのだった……。

 

 それからさらに一年の月日が過ぎたある日。また虫歯になった僕は、その時とは別の歯医者へ通う事になった。そこの先生が、以前の手術の後を見て一言。

 

「こりゃ、ヤブにかかりましたね。きっと技術が足りないから、適当な事言って誤魔化したんだろうね」

 

 医者運が悪いのは、もう諦めの境地まで来ているが、こんなにみじめ〜な事件に遭遇したのは、これが最初で最後である。

 歯医者へ行く時は、慎重に選んでね。じゃないと、僕みたいに歯茎ズタズタだぞ。

 虫歯がなんだ! 歯医者がなんだ。俺の歯茎滅茶苦茶にしやがって。んもうイジワルゥ。

 

 

あごば様のHP『あごバットの煩悩帝國』で、4242hit記念にいただきました。

谷桜美夜は、あごば様の言葉のセンスが好きなの〜(><)

「マジンガーZの操縦席みたいな椅子」とか、

「そりゃないぜセニョリータ、何で俺をこんな目に合わせるんだベイベー」とか・・。