安保法案の概要
                                         2015.7月
                                      弁護士 溝手康史

1、改正法案
(改正)

・自衛隊法
・国際平和協力法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)
・重要影響事態法(重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律)
・船舶検査活動法(重要事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律、
「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」から名称変更)
・武力攻撃事態法(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)
・米軍等行動関連措置法(武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に
関する法律、「米軍行動関連措置法」から名称変更
・特定公共施設法(武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
・海上輸送規制法(武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
・捕虜取扱い法(武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律
・国家安全保障会議設置法

(新設)

・国際平和支援法(国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律)

2、法案の内容
(1)重要影響事態法
・現・周辺事態法の名称を変更し、外国領域も支援対象にできるように法改正。名称を変更
・「重要影響事態」(新設)
 「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」
 周辺事態法の「我が国周辺の地域」という限定を削除した。 支援対象を拡大。
 旧・周辺事態とは、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の周辺地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」
・重要影響事態で、「米軍」、「国連憲章の目的達成に寄与する軍隊、その他」を対象に、後方支援活動、捜索救助活動を行う(3条)。
・「現に戦闘行為が行われている現場」では実施しない(2条)。
・武器の使用(11条)
 武器の使用は、「事態に応じ合理的に必要とされる限度」とする。
 米軍の宿営地に対する攻撃についても、一定の要件のもとに自衛隊の武器使用を認める。
・後方支援活動、捜索救助活動に国会の事前承認。ただし、緊急の場合は事後承認(5条)

(2)武力攻撃事態法
・現在の武力攻撃事態法を改正し、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」も対象にすべく、改正する。
 アメリカやオーストラリア軍に対する攻撃も対象にできるようにする。
・「存立危機事態」(新設)
 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
・「武力攻撃事態」(変更なし)
 「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」
 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を含むと思われる。
・「武力攻撃予測事態」(変更なし)
「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」
・武力の行使
 存立危機事態での武力の行使は、「事態に応じ合理的に必要とされる限度」とする(3条4項)。
・基本的人権の制限
 武力攻撃事態及び存立危機事態での基本的人権の制限は、「武力攻撃事態及び存立危機事態に対処するため必要最小限」のものとする(3条5項)。
 人権の制限が「必要最小限」かどうかは政府が判断し、司法判断は数年後。
・地方自治体の責務
 自治体に、武力攻撃事態等への対処について、国と協力し、必要な措置を実施する責任がある(5条)。
・国民の協力義務
 国民に、武力攻撃事態等において国や自治体等が実施する「対処措置」に必要な協力をする義務がある(8条)。
 「対処措置」の内容 
 米軍やその他の外国軍隊が自衛隊と協力して行う行動に対する物品、役務の提供等
 存立危機武力攻撃(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの)を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動
 これらに対する物品の提供、役務の提供
 外交上の措置その他の措置(包括的な規定になっている) 
 
 武力攻撃事態等における自衛隊の行動や米軍等に対する外交上の措置への国民の協力義務、国の外交措置に対する国民の協力義務あり
 「生活関連物資等の安定供給」などの措置に対する国民の協力義務あり
・政府の対処基本方針について国会の事前承認(9条)。ただし、緊急事態対処方針については、事後承認でよい(25条)。

(3)自衛隊法
・自衛隊の任務から「直接侵略及び間接侵略に対し」という制限をはずす(3条)
 日本に対する侵略行為でなくても、自衛隊の任務の対象とできるように法改正。
・存立危機事態での自衛隊の防衛出動を可能とする(76条)。米軍への攻撃事態などがあれば、自衛隊の出動が可能となる。
・米軍等を警護する際、必要性、相当性があれば、自衛隊は武器を使用できる(95条の2)。
・オーストラリア軍に対する自衛隊の物品、役務の提供(100条の8)について規定

(4)国際平和支援法
・「国際共同対処事態」の新設 
「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」
・「現に戦闘行為が行われている現場」では実施しない。
・国会の事前承認

3、問題点
・集団的自衛権を認めるための法整備
周辺事態法や武力後攻撃事態法などは以前からあったが、日本周辺に限定し、日本に対する武力攻撃が対象だった。
今回の改正は、米軍やその他の外国の軍隊の行動も対象にしようという法改正。自衛隊の出動範囲の拡大。
・憲法9条違反
・重要影響事態、存立危機事態、武力攻撃事態の内容は抽象的であいまい。その認定は政府が行い、国家の承認。