事務所の理念    2017年 記


 弁護士は法的紛争を解決することが仕事であり、法的紛争は人間と人間の関係がもたらすトラブルです。会社間の紛争といえども、会社を動かすのは人間であり、企業間の紛争も人間が関係引き起こします。

 なぜ人間の間に紛争が生じるのかといえば、さまざまな利害や感情、自己主張があるからです。人間が他人と関わりがなければ紛争は生じませんが、社会の活動が活発になればなるほど人間の間で紛争が生じます。

 このような紛争を放置すれば、弱肉強食、早い者勝ちの野獣の世界になってしまうので、法律という社会のルールを作って、社会が平和になるようにしたのです。盗みをする人や殺傷事件をする者を放置することは社会の混乱を招くので、刑法という法律を作り、刑事裁判で処罰することにしたのです。遺産について争いが生じれば、相続法や家庭裁判所、遺産分割のルールを定めて、一定のルールに基づいて財産分けをするようにしなければ、社会は収拾がつきません。

  弁護士は、法律相談という形で、法的紛争の解決のためのアドバイスをし、紛争当事者の代理人として、交渉、調停、審判、訴訟などを行います。私は、今まで長年、さまざまな事件を扱ってきました。一般の市民が関係する紛争のほとんどを扱ってきたと言ってよいと思います。若いころは目立つことが好きだったので(当時は、広島市内で弁護士をしていました)、マスコミが大きく取り上げる事件を多く扱っていました(三次市、安芸高田市に移ってからは地味な事件が多い)。
 その中で、事件処理について、次のように考えています。

1、多様な事件を扱う
 一般に、少額事件、煩雑な事件、収入につながらない事件、深刻な感情の対立のある事件、DV事件、ストーカー事件、相手が暴力的な事件などは、弁護士が扱いたがらない傾向がありますが、弁護士は、あらゆる事件に対応することが必要です。市民が弁護士を必要としている限り、それを応えることは弁護士の使命です。
 事件や事故の関係者は、常に、社会的少数者です。いつの時代でも、社会的少数者は、社会の中の多数者から見放されてきました。
 私は、フツーの弁護士が使わない事件を多く扱ってきました。かなり困難な事件も引き受けてきました。「勝てる事件」しか扱わない弁護士が多いのですが、私はそうではありません。裁判で勝てるかどうかは、証拠の有無や裁判官の考え方で変わってきます。私は、「誰もやらないことをする」ことにやりがいを感じます。
 私が扱わない事件は、法律的にまったく成り立たない請求や社会的正義に反する事件などです。

2、紛争解決の内容が重要
 当たり前のことですが、弁護士は紛争を解決できなければなりません。どんなに高尚な理念を掲げても、現実の紛争を解決できなければ意味がありません。
 同時に、紛争の解決は関係者が満足のいくものでなければなりません。裁判の場合には、裁判に勝つことが当面の目標になりますが、庶民の間では、裁判の数が多くなく、ほとんどの紛争は、裁判外で解決されます。たとえ、裁判に勝っても、解決できない事件がたくさんあります。どのような解決が望ましいのか、これはケースバイケースですが、個別事案ごとに考えて、もっとも望ましい解決をめざす必要があります。
 そのためには、弁護士は人間と社会をよく知っていることが必要です。弁護士は、法律について知っているだけでなく、心理学、社会学、経済学、文学、哲学、脳科学、精神医学など人間に関する他の分野の知識が必要であり、さらに人間行動に関する経験を通して、もっとも適切な紛争の解決を考えることが重要です。
 法的紛争を解決することは、人間の抱える問題を解決することであり、それはあらゆる人間科学と人間経験の適用場面です。弁護士は、法律の知識があるだけでは、紛争に法律を適用することはできても、紛争そのものを解決できません。
  
3、できるだけ弁護士を利用しやすくする
 「弁護士に依頼すると金がかかる」というのが市民の実感です。しかし、金のある者だけが司法を利用できる今のシステムは不公平です。誰も公平に弁護士に依頼できることが必要です。
 かつて、日本の司法支援制度(法律扶助制度)がは極めて貧弱でしたが、現在は、司法支援制度ができて以前よりは弁護士の利用が容易になりました。しかし、司法の先進国に較べればまだ不十分です。私は、今まで、日本でもっとも多くの法律扶助事件を扱った弁護士の1人であり、今までに数百件の民事法律扶助事件を受任しました(国選事件は今までに400〜500件くらい扱いました)。
 以前は、広島県北地域は弁護士会の中で「弁護士過疎地」と呼ばれていましたが、現在では弁護士の数が増え、「弁護士過疎地」ではありません。弁護士会は「弁護士過疎地」という言葉が好きなようで、よく使いますが、私はこの言葉は嫌いです。弁護士会のいう「弁護士過疎地」は人口数万〜十数万人の都市をさし、その地方の中心都市であることが多く、決して「過疎地」ではないからです。世界の中で見れば、人口数千人もいれば「街」です。
 弁護士の利用という点からいえば、都会にどんなに弁護士が溢れていても、弁護士を利用できない人にとって、「弁護士は不在」です。同時に、経済的に弁護士を利用しにくければ、弁護士への依頼が少なく、弁護士が余ります。今の日本では、都会でも田舎でも、弁護士に経済的に依頼しにくい状況があります。
 これに対処するために、可能な限り、司法支援制度を利用しています。それでも、司法支援制度を利用できない人がおり、費用を低額に抑え、費用の分割払いをしています(以前は消費税をもらっていませんでした)。

 



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