山岳ボランティア活動で生じる注意義務
Duty of care that occurs when volunteer activity on mountain

溝手康史 MIZOTE Yasufumi
弁護士、広島山岳会、日本山岳文化学会遭難分科会
Lawyer、Hiroshima Alpine Club

キーワード: ボランティア活動、職務活動、責任、注意義務、登山、事務管理

Key word: volunteer activity, employee activity, liability, duty of care, mountaineering,
negotiorum gestio

山岳ボランティア活動で生じる注意義務
Duty of care that occurs when volunteer activity on mountain

溝手康史 MIZOTE Yasufumi
弁護士、広島山岳会、日本山岳文化学会遭難分科会
Lawyer、Hiroshima Alpine Club

キーワード: ボランティア活動、職務活動、責任、注意義務、登山、事務管理

Key word: volunteer activity, employee activity, liability, duty of care, mountaineering,
negotiorum gestio


 山岳関係のボランティア活動は多いが、自然の中では事故が起きやすい。関係者の中に事故の法的責任に対する不安を持つ人が少なくない。しかし、山岳事故に関して法的責任が問われるケースは職務活動や営利活動中の事故が多く、ボランティア活動中の事故で法的責任が問われるケースは少ない。ボランティア活動では、注意義務は職務活動や営利活動ほど重くなく、緊急時には注意義務が軽減される。ボランティア活動で刑事責任が生じることは稀である。
 しかし、ボランティア活動で生じる注意義務と職務活動や営利活動で生じる注意義務の違いがわかりにくい。その結果、ボランティア活動でも職務活動や営利活動と同様の責任が生じると勘違いする人が多い。それが自発的なボランティア活動を萎縮させやすい。
 ボランティア活動で生じる注意義務と職務活動や営利活動で生じる注意義務の違いを理解することが重要である。また、ボランティア活動に対する刑罰の適用は抑制的であることが必要である。

はじめに
 山岳地帯で行われるボランティア活動は多い。公募登山、市民ハイキング、清掃登山、登山道の整備、登山講習会、自然保護活動、大学の山岳部のコーチ・監督、山小屋での診療、遭難した登山者の応急処置、遭難者の捜索・救助活動、救助訓練、国民体育大会の山岳競技、トレイルランニング、山岳レース、マウンテンバイクなどの競技会などの多くを無報酬のボランティアが担っている。自然の中には予想しにくい危険があり、これらの活動で事故が起きやすい。そのため法的責任に対する不安を持つボランティア関係者が多い。
 しかし、山岳事故に関する裁判で法的責任が認められるケースのほとんどが営利的なツアー中の事故や国、自治体、学校が関わる事故である。それらは、仕事として登山をしている際に起きた事故や営利活動中の事故である。これに対し、ボランティア活動中の事故が裁判になるケースは稀である。これまでに、ボランティア活動としての登山中に起きた山岳事故で損害賠償責任が認められた判例は1件しかなく、刑事責任を認めた判例はない。
 登山以外のボランティア活動を概観しても、福祉・介護活動や災害復旧活動に関するボランティア活動中の事故に関して損害賠償責任を認めた判例はこれまで1件しかなく、刑事責任を認めた判例はない。ボランティア活動中の事故に関して法的責任を認めた判例は多くない。ただし、川や海でのボランティア活動中の水難事故に関して責任を認めた判例は何件もある1)。
 ボランティア活動と職務活動・営利活動では、生じる注意義務が異なる。この点を理解することが、山岳地帯でのさまざまな活動を行ううえで重要である。職務活動や営利活動中の山岳事故について法的責任を認める裁判をマスコミが大きく報道する度に、山岳関係者が大きな不安を感じる。ボランティア活動は自発的な活動なので、法的責任に対する不安が強ければ、活動が萎縮しやすい。
 欧米ではボランティア活動の法的責任を軽減するための議論がさかんになされ、それに沿った立法もなされているが、日本ではこの点の議論がほとんどなされず、法律の関心も低い。それは、日本が仕事中心の社会であり、従来、法律が自発的なボランティア活動を軽視してきたからである。
 本稿では、山岳でのボランティア活動でどのような注意義務が課され、どのような責任が生じるのか、ボランティア活動以外の活動との違い、ボランティア活動の法的責任のあり方などについて検討する。
 
ボランティア活動とは何か
 日本では、ボランティア活動は、教育、介護、福祉に関わる活動のイメージが強い。また、「官製ボランティア」や「義務的ボランティア活動」が多いと言われてきた。しかし、1995年の阪神・淡路大震災以降、自発的な災害復旧活動が増え、自発的なボランティア活動が増えてきた。ボランティアという日本語の元になったVolunteerに自発性の意味があり、自発性がボランティア活動にとってもっとも重要である。現在では、文化、芸術、スポーツ、レジャーについても多様な自発的な活動が多い。イタリアでは、法律でボランティア団体の活動内容を規定し、その中に文化、芸術、スポーツ、レジャーが含まれている2)。
 無報酬の自発的な公益活動は古くから存在するが、英語のVolunteerをカタカナ表記したボランティアという日本語は、戦後になって生まれたと言われている3)。ボランティア活動の要件として、自発性、無給性、公益性、創造性をあげる見解、主体性、非営利性、公共性、先駆性をあげる見解、自主性・主体性、社会性・連帯性、創造性・開拓性・先駆性、無償性・無給性をあげる見解、自発性、無償性、公益性をあげる見解などがある3)。活動の営利性や公益性が注意義務に大きく影響するので、本稿では、ボランティア活動を自発的な無報酬の公益活動と考えている。
 仕事はボランティア活動ではない。仕事には、収入を得るために労働をするという基本的な性格があり、仕事にはそれを遂行すべき義務が伴うからである。無報酬の仕事であっても義務が伴う。ボランティア活動は仕事を離れたプライベートの時間に行われる活動である。
 仕事では職務上の注意義務が生じ、これはボランティア活動で生じる注意義務とは異なる。職務活動(仕事)とボランティア活動で生じる注意義務の違いが重要である。両者を混同すると、ボランティア活動が萎縮しやすい。後述の警察の救助活動中の事故(積丹岳事故)に関して自治体の法的責任を認める判決が出た時に、不安を感じた民間人の救助活動従事者が少なくない。その不安は、警察官の職務活動で生じる注意義務と民間人のボランティアでの救助活動で生じる注意義務を区別しないことから生じる。
 職務行為とボランティア活動の区別は、仕事とプライベートの時間の区別が前提になる。日本では、仕事とプライベートの時間の区別が曖昧なことが多く、プライベートの時間が保障されないことが多い。プライベートの時間の保障は個人の幸福追求や自己実現の前提である。ボランティア活動が幸福追求や自己実現につながる場面は多い。
 無報酬のボランティア活動でも、交通費などの経費の支払いがなされる場合がある。法的には有償とは金銭を受け取ることをさし、1円でも受け取れば有償行為である。交通費などの経費を受け取る場合は有償である。この点で「無報酬」と「無償」は異なる。経費を受け取る場合でも、無報酬の自発的な公益活動であれば、ボランティア活動である。

ボランティア活動で生じる注意義務
(1)事務管理に基づく注意義務
 登山中にたまたま登山者の遭難現場に遭遇し、救助活動に協力する登山者や遭難者の捜索に参加する民間人の活動のように、それを行う義務がないのに他人に関することに従事することは、「事務管理」と呼ばれる。事務管理は他人に関することがらを、それを行う義務がないのに処理することをさす。事務管理という言葉は仕事上の事務処理をイメージしやすいが、日常用語の事務とは関係がない。明治時代に外国から入ってきた法律用語を日本語に翻訳する際、それまでの日本語にない言葉を造語したので、このような不自然な言葉になった。
 事務管理では「善良な管理者の注意義務」(善管注意義務)が生じる(民法697条)。これは、当該職業又は地位にある人が通常要求される程度の注意義務をさし、これに違反すれば、損害賠償責任が生じる。善管注意義務の具体的な内容は個々のケースごとに異なる。一般に、事務管理に基づく注意義務は、職務上生じる注意義務や契約上の注意義務ほど重いものではない。
 緊急時の事務管理では、故意または重大な過失がなければ損害賠償責任は生じない(民法698条)。これは緊急事務管理と呼ばれる。重大な過失とは、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかな注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」をさす(最高裁昭和37年7月9日判決)。水と間違えてガソリンを鍋に入れてコンロに火をつけて火災になれば、重大な過失がある。重大な過失は滅多に生じない。
 アメリカやカナダでは、「よきサマリア人法」という法律で、緊急時のボランティア活動での責任を軽減している。「よきサマリア人法」は、キリストを助けたサマリア人に関する聖書の中の逸話に因んでつけられた名称であり、自発的な活動を奨励する趣旨がある。しかし、日本の事務管理は、事務管理行為が違法でないことを規定したものであって、それを奨励する趣旨はない。

(2)契約上の注意義務
 ボランティア活動として実施される公募登山、講習会、レース、イベントなどでは、主催者とイベント参加者の間に契約関係があり、事務管理ではない。この場合には、関係者に契約に基づく注意義務が生じる。
 公募登山、講習会、レース、イベントなどで生じる契約上の注意義務の内容は、個々の契約に応じてさまざまであるが、一般に参加者の安全を確保することが契約内容に含まれ、事務管理行為よりも注意義務が重くなることが多い。
 契約上の注意義務が生じる場合は、緊急事務管理の適用はない。しかし、同じ契約上の注意義務であっても、営利活動はボランティア活動よりも重い注意義務が課される。報酬が安全確保の対価とみなされるからである。
 国や自治体が実施する講習会、ハイキングなどのイベントでも参加者と主催者の間に契約関係が生じる。国や自治体が実施するイベントは無償であっても、生じる注意義務が重い。これは国や自治体の公的活動に対する国民の信頼が大きいからである。
 国や自治体の活動を無報酬で手伝う民間人はボランティア活動であるが、国や自治体の活動の履行補助者であり、国や自治体が負う注意義務を担う地位に立つ。履行補助者は主催者の手足となって履行する者をさす。履行補助者に過失があれば国や自治体が責任を負い、原則として履行補助者が責任を負うことはない。
 日本では行政主導のボランティア活動が多い。後述するように(注14参照)、官民共同のキャンプでは、行政に協力するボランティアの民間人が負う注意義務は、行政が負う注意義務に近い。官民共同のイベントは、実態は公的行事だが、ボランティア活動の形態をとり、その法的性格が曖昧になりやすい。

(3)刑事責任上の注意義務
 一時的に行うボランティア活動中の事故に関して行為者に過失があれば、過失致死傷罪(刑法209条、210条)の対象となるが、法定刑は罰金、科料しかない。ボランティア活動では不起訴になる場合が多いだろう。
 しかし、NPO法人やアウトドア団体などの継続的なボランティア活動は業務上過失致死傷罪(刑法211条)の対象になる。これは過失致死傷罪よりも刑が重い。「業務」とは、継続反復して行われる一定の危険性のある活動をさし、仕事に限らない。営利活動や職務活動も業務上過失致死傷罪(刑法211条)の対象になる。
 これまで山岳事故に関して刑事責任が問われたケースは、教師やツアーガイドの職務中の事故がほとんどである。ただし、山岳事故ではないが、NPO法人が主催したスキーキャンプ中の事故に関して、NPO法人の役員や職員ら3人が業務上過失致死罪になったケースがある(広島地方裁判所平成26年3月4日判決、判例集未搭載)。山岳団体のボランティア活動に関して関係者が刑事責任を負ったケースはない。
 
山岳ボランティア活動で法的責任が問題になるのはどのような場面か
(1)山岳遭難の捜索・救助活動
 捜索・救助活動中の事故について裁判になったケースが2件あるが、いずれも職務中の事故である(積丹岳事故、富士山事故)。積丹岳事故では自治体の損害賠償責任が認められ、富士山の事故では否定された5)。積丹岳の裁判で、自治体は、警察に職務上の注意義務がなく救助活動は事務管理だと主張したが、裁判所はそれを認めなかった。民間人の山岳遭難の捜索・救助活動に関して裁判になったケースはない。
 遭難現場に遭遇した登山者、山小屋の従業員、地元の山岳遭難対策協議会に所属する民間人、遭難者が所属する山岳会・大学などの仲間が行う捜索・救助活動は事務管理である。山岳会や大学山岳部の仲間は遭難者の家族、山岳会、大学などからの依頼を受けて捜索・救助活動を行うが、「捜索を頼まれた」だけでは捜索する義務は生じない。山小屋が行う捜索・救助活動も、それを行う義務はないので事務管理である。山岳遭難対策協議会に所属する民間人が行う捜索・救助活動は、遭難者やその家族から後で日当の支払を受けることが多いが、遭難者やその家族との間に契約関係があるとは言えず、事務管理である。
 事務管理に基づく捜索・救助活動で生じる注意義務は重いものではなく、遭難者に危険が迫っている場合には、故意または重大な過失がない限り損害賠償責任は生じない(緊急事務管理)。

(2)遭難現場での医師の医療行為
 登山中にたまたま遭難現場に遭遇した医師が捜索・救助活動に協力して医療行為を行う場合も事務管理である。医師法19条は、「診療に従事する医師は、診察治療の求のあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定する(応招義務と呼ばれる)。しかし、診療時間外、勤務時間外は診療を拒否する「正当な理由」になりうる6)。たまたま遭難現場に遭遇した医師に診療する義務はなく、医師の行為は事務管理であり、緊急事務管理の適用がある。
 しかし、医師が診療義務を負わない場合でも、医師の医療行為は刑事上の「業務」に当たり、業務上過失致死傷罪の対象になる(刑法211条)。医師が行う医療行為は、仕事外の事務管理であっても業務上過失致死傷罪の対象になる。刑法の緊急避難は業務に適用されない(刑法37条2項)。事務管理は民事上の損害賠償責任に関する制度であり、業務かどうかは刑事責任に関する問題である。これまで山岳事故に関して医師が刑事責任を問われたケースはなく、今後もその可能性は低いが、刑事責任を問われる可能性があることが委縮効果をもたらしやすい。
 この点は、飛行中の航空機の中で急病人が出た場合に、たまたま同乗している医師が名乗り出るかどうかのアンケート調査にも表れている。この調査では、ドクターコールに応じると回答した日本の医師は約4割だった。ドクターコールに応じない理由として、約7割の医師が法的責任問題をあげている7)。
 アメリカでは、救命行為の失敗に刑事罰が課されることを懸念する医師はいないと言われ8)、もっぱら救命行為に対する民事責任が議論される。日本ではもともと民事裁判が少ないので、救命行為が民事裁判の対象になる可能性が低いが、刑事責任の可能性は関係者に不安をもたらしやすい。

(3)医師以外の者が行う医療行為
 医師以外の者は医業ができず(医師法17条)、これに違反すれば刑罰の対象になる。しかし、医業は医行為を業とすることをさし9)、医師以外の者が遭難者の応急処置をしても業務性がないので、医師法違反ではない。山岳ガイドが急病の客に自分が携行している医薬品を投与しても医業に該当せず、医師法に違反しない。山岳ガイドが客に対し応急措置を行うことは職務活動であって事務管理ではないが、他パーティーの登山者に対する応急措置は事務管理である。登山者がたまたま遭遇した遭難者に応急措置を行うことも事務管理である。
 通りかかった一般登山者の応急処置にミスがあれば、過失致死傷罪(刑法209条、210条)が問題になるが、緊急避難、正当業務行為、社会的相当行為などの理由から違法性が阻却される場合が多いだろう10)。また、過失致死罪は罰金刑と科料しかなく、不起訴になることが多い。これまでに山岳遭難の救助活動に関して、民間人が損害賠償責任や刑事責任を問われたケースはない。

(4)登山道の整備
 日本の登山道の多くはボランティアで整備されており、その活動の多くが事務管理に該当する。自治体が民間人のボランティアに委託して登山道を整備すれば、公務員に職務上の注意義務が生じる(自治体から委託を受けてボランティアで整備する民間人は自治体の履行補助者である)。
 しかし、日本では管理者不明の登山道が多く、自治体が整備費用を負担したとしても、自治体が登山道の整備主体ではないことが多い。この場合の登山道の整備主体は個々のボランティアの民間人であり、自治体はボランティア活動に対する資金的な援助をするだけである。
 ボランティアによる登山道整備では事務管理に基づく注意義務が生じ、すぐに破損するような鎖や梯子を設置すれば事務管理上の注意義務違反になる。しかし、事務管理者にその後の登山道のメンテナンスの義務はない。登山道のメンテナンスの義務を負うのは登山道の管理者であるが、管理者不明の登山道が多い。管理者不明の登山道で老朽化した鎖、梯子、柵、ロープの崩壊による事故が起きても責任が生じにくい。
 欧米では登山道の管理者が明確であり、登山道の標識も統一していることが多い。欧米には「登山道のリボンを信用するな」と書かれた文献がある11)。それは、リボンが登山道の管理者が管理する標識ではないことを示している。しかし、日本では、登山道の標識の統一性がなく、信用できるリボンとそうではないリボンがある。管理されていない登山道に設置者不明の間違った標識があっても、法的責任が生じにくい。

(5)公募登山
 山岳団体が一般市民を対象に行う無報酬の公募登山はボランティア活動である。有償、無償を問わず、参加者との間に参加契約が成立し、主催者とリーダーに契約に基づく注意義務が生じる。その中に参加者の安全を確保すべき注意義務が含まれる。
 多数の者が参加する登山で裁判になったケースのほとんどは、営利的な登山と学校で実施された登山であり、ボランティアでの公募登山中の事故の判例は1件あるだけである。  
 これは、4月下旬に南八ヶ岳で社会人体育文化協会が登山を実施し、参加者が滑落して死亡したケースである。社会人体育文化協会は地域・職域の健全な体育文化活動を育成することなどを目的とする団体であり、旅行、ダンス、ハイキング、登山などを実施していた。同協会の職員ら3人が28人の参加者を引率していた。裁判所は、引率者の注意義務違反を認め、文化協会、引率した職員、協会の代表者、事務局長の損害賠償責任を認めた12)。
 一般に、ボランティア活動では営利活動ほど重い注意義務が生じないが、この協会は継続的に有償の活動を行っていたこと、ピッケル、アイゼンを持参しない雪山の初心者を引率したことなどの事情から、裁判所は営利的なツアーに匹敵する責任を認めた。この事故では引率者や協会の役員の刑事責任が問われることはなかったが、営利的なツアー中の事故では引率者の刑事責任が問われる可能性が高い。
 ほとんどのボランティアでの公募登山は、危険性の低い山域とコースが選定されるので、裁判の対象になるような重大な事故が起きない。
 自治体主催の市民ハイキングをボランティアで手伝う民間人は、公務員が負う注意義務の履行補助者である。履行補助者の過失により事故が起きれば、自治体が損害賠償責任を負い、原則として民間人は民事責任を負わない。

(6)講習会
 国や自治体が市民を対象に行う講習会は自治体の活動であり、職務上の注意義務が生じる。国や自治体が主催する講習会での事故について、国や自治体の損害賠償責任が認められたケースがある13)。
 山岳連盟などが会員外の一般市民を対象に実施する公募型の講習会では参加者との間の契約関係が生じ、主催者や講師に安全管理上の注意義務が生じる。しかし、国や自治体が主催する講習会よりも参加者の自己責任の範囲が広いと考えられる。これに関する判例はない(山岳連盟が主催する救助講習会で事故が起き、裁判になったケースがあるが、公表されていない)。
 最近、山岳団体が実施する講習会が増えているが、実費的な経費を超える参加費を徴収すれば収益事業になり、主催者の注意義務が重くなる点に注意が必要である。主催者の収益は講習の安全性に対する対価とみなされやすい。
 実行委員会を組織して行うさまざまなイベント(市民ハイキング、山岳レース、トレイルランニング、清掃登山、キャンプなど)の多くがボランティア活動として実施されている。民間団体主催のボランティア活動であっても、自治体職員が事務局を担う場合には、生じる注意義務が重い14)。

山岳ボランティア活動の展望と課題
(1)ボランティア活動の進展
 かつて日本では、行政の活動を補完する義務的なボランティア活動が多く、ボランティア活動に対する法律の姿勢は「無関心」だった。事務管理の規定は、事務管理行為を違法ではないものとして扱うだけで、それを奨励する趣旨はない。
 これに対し、アメリカやカナダの「よきサマリア人法」は、自発的な活動を奨励する趣旨の法律である。アメリカではボランティア活動従事者の免責の範囲を拡張し、あるいは、ボランティア活動従事者に労災給付をする法律のある州がある15)。
 日本でも、近年、国がボランティア活動を推進するための法改正がなされている16)。これは行政主導型のボランティア活動に関するものだが、自発的なボランティア活動も国民の間に広がりつつある。登山についても、今後、自発的なボランティア活動がいっそう拡大し、法的責任が問題になる場面が増えると考えられる。
(2)職務行為とボランティア活動の区別
ボランティア活動と職務活動・営利活動で生じる注意義務の区別が明確でなければ、ボランティア活動が委縮しやすい。山岳捜索・救助活動、国や自治体主催の講習会、イベントなどでは、公務員と民間人のボランティアが共同で活動する場面が多い。そのような場面で公務員が負う職務上の注意義務と民間人が負うボランティア活動上の注意義務の混同、混乱が生じやすい。公務員と民間人が共同作業を行っても、生じる注意義務と補償が異なることを自覚する必要がある。公務員は負担する注意義務が重いが、公務員個人は原則として損害賠償責任を負わず(国家賠償法1条)、被災すれば公務災害の対象になる。民間人のボランティアにはそのような保障・補償がない。

(3)ボランティア活動の有償化
 講習会やハイキングなどで参加費を徴収することがあるが、経費などを徴収するだけであれば無報酬のボランティア活動であり、生じる注意義務は重くない。しかし、イベント参加費が経費を超えて利益を含む場合には収益活動になり、収益活動では注意義務が重くなる。報酬や賃金の金額の少ない活動を「有償ボランティア」と呼ぶことがあるが、労働の対価が少なくても職務上の注意義務が生じる。
 NPO法人、公益法人、一般法人が収益活動を行う場合には、注意義務が重くなることを自覚する必要がある。団体が行う継続的なボランティア活動は業務上過失致死傷罪の対象になるが、収益活動かどうかという点は、検察官が起訴するかどうかを判断する際の重要な事情になる。

(4)責任の明確化
 責任は社会を規律するための概念であり、責任は社会秩序を回復するための儀式として機能するとの見解がある17)。責任の内容は社会を反映し、ミスに対して厳しい社会では、裁判所が過失事故に刑罰を科す範囲が広くなる。日本の社会はミスに対し不寛容な社会であり、近年、過失事故に対し厳罰化の傾向がある。しかし、ボランティア活動やアウトドア活動に関する限り、事故について起訴されてもほとんどの判決で執行猶予が付く。執行猶予は、判決で刑の言い渡しをしても服役することはなく、一定期間が経過すれば刑の言い渡しが消滅する制度である。
 起訴するかどうかは検察官の裁量に属するが、その裁量の範囲が広く、起訴に関する検察官の判断理由が公表されないことが多いので、刑事責任を問われるかどうかの基準が国民にわかりにくい。現状では、民亊責任について緊急事務管理が成立する場合でも、刑事責任が生じる可能性がある。 
 前記の事務管理の規定はボランティア活動の一部を対象とするだけであり、日本にはボランティア活動の法的責任について規律する法律がない。また、事務管理やボランティア活動に関する判例が少ないので、ボランティア活動で生じる責任の内容がわかりにくい。
 そのため、ボランティア活動で法的責任に対する不安が生じやすく、その不安が活動を萎縮させやすい。日本では、責任に対する不安から行動を抑制する人が多いが、責任が生じるかどうかの曖昧さが人々に不安をもたらすことが背景にある。したがって、新たな立法により、ボランティア活動で生じる責任について法律で明確にすると同時に、過失事故に対する刑罰の適用は抑制的でなければならない。
 
[注]
1)その詳細については、溝手康史:ボランティア活動の責任、共栄書房、2022
2)山田恒夫:国際ボランティアの世紀、放送大学教育振興会、2014、p.19
3)中山淳雄:ボランティア社会の誕生、三重大学出版会、2007、p.44
4)柴田謙治外:ボランティア活動論、みらい、2010、p.1、内海成治外:ボランティア学を学ぶ人のために、世界思想社、1999、p.5など
5)積丹岳の事故について、札幌地方裁判所平成24年11月29日判決(判例時報2172号77頁)、札幌高等裁判所平成27年3月26日判決、最高裁平成28年11月29日決定。富士山での事故について、京都地方裁判所平成29年12月7日判決(判例時報2373号59頁。溝手康史:山岳救助における組織的救助活動の法的課題、国立登山研修所、登山研修vol.33、2018、溝手康史:山岳捜索・救助活動の法的責任と萎縮効果、日本山岳文化学会、日本山岳文化学会論集17号、2020
6)厚生労働省:応召義務をはじめとした診察診療の求めに対する適切な対応の在り方等について、令和元年12月25日厚生労働省医務局長通達、2019
7)大塚祐司:航空機内での救急医療援助に関する医師の意識調査、宇宙航空環境医学41、2004
8)樋口範雄:続・医療と法を考える、有斐閣、2008、p.247
9)平沼直人:医師法(第2版)、民事法研究会、2021、p.102
10)丸山富夫:救急活動と法律問題上巻、東京法令出版、2009、p.454。小濱啓次、大塚敏文:一般市民が救命手当を施した場合の法律関係について、日救急医会誌 1994:5:732-8。緊急避難は、生命や財産に対する危難を避けるためにやむをえず行った行為によって生じた損害が、回避した損害を超えなかった場合に違法性を阻却する制度である。正当業務行為、社会的相当行為は一定の要件のもとに違法性を阻却する考え方である。
11)Craig Caudill, Tracy Trimble:ESSENTIAL WILDERNESS NAVIGATION, Page Street Publishing Co. 2019, p.123
12)静岡地方裁判所昭和58年12月9日判決、判例時報1099号21頁、判例タイムズ513号187頁
13)長野地方裁判所松本支部平成7年11月21日判決(判例時報1585号78頁)、富山地方裁判所平成18年4月26日判決(判例時報1947号75頁)
14)実行委員会形式で実施するイベントでも、自治体から派遣された公務員が事務局を担う場合には、事務局員が負う注意義務は重い。官民共同の推進協議会が実施したキャンプで参加者の子供が溺死した事故で、推進協議会職員の注意義務違反に基づいて推進協議会の使用者責任が認められたケースがある。この推進協議会は民間団体であり、住民が参加するボランティア活動だったが、推進協議会職員は自治体職員でもあった。この推進協議会職員(自治体職員)が負う注意義務は重いが、ボランティアの民間人との共同作業では注意義務と責任の所在が曖昧になりやすい。佐賀地方裁判所令和元年12月
20日判決(判例時報2460号76頁)、福岡高等裁判所令和2年9月17日判決
15)Community Preparedness Division Federal Emergency management Agency:Citizen Corps Volunteer Liability Guide, p.15-33
16)その例として、2001年に学校教育法の321条は、「小学校においては、前条第一項の規定による目標の達成に資するよう、教育指導を行うに当たり、児童の体験的な学習活動、特 にボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の充実に努めるものとする」と改正された。
17)小坂井敏晶:責任という虚構、東京大学出版会、2008、p.195
 
[参考文献]
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Street Publishing Co.
Community Preparedness Division Federal Emergency management Agency:Citizen Corps Volunteer Liability Guide


日本山岳文化学会論集20号