裁判判決要旨


☆一審(東京地裁 平成7年11月30日判決
     裁判長 萩尾保繁  裁判官 浦木厚利  市川智子)
☆二審(東京高裁 平成10年2月26日判決
     裁判長 矢崎秀一  裁判官 筏津順子  山田知司)

二審は一審判決をそのまま踏襲しただけのものにてほぼ同じ内容です。



判決要旨

判決はまず、健康診断における医師の注意義務のレベルを非常に緩く解釈した
「定期健康診断は、一定の病気の発見を目的とする検診や、具体的な疾病を発見
するために行われる精密検査と異なり、企業等に所属する多数の者を対象にして
異常の有無を確認するために行われるもので」
「撮影された大量のレントゲン写真を短時間に読影するものであることを考慮すれば
その中から異常の有無を識別するために、医師に課せられる注意義務の程度には
おのずと限界がある。
とした上で

昭和61年の写真には異常影が認められるが
一般臨床医では発見困難であるからして過失なし。

昭和62年6月及び7月の写真の異常影は一般臨床医でも発見可能であり
この見落としは過失ではあるがまゆみは早晩死ぬ運命にあったのであり、
この過失と死亡には因果関係がない、として責任は無し。

又、〇〇海上のまゆみに対する社員への安全配慮義務違反については、
「従業員に対する健康診断が労働契約ないし雇用契約関係の付随義務である
安全配慮義務の履行の一環と位置づけられるものであるとしても、信義則上、
一般医療水準に照らし、相当と認められる程度の健康診断を実施し、
あるいはこれを行い得る医療機関に委嘱すれば足りるのであって、
右診断が明白に右水準を下回り、かつ企業がそれを知り又は知り得たというよう
な事情がない限り、安全配慮義務違反は認められないというべきである。」
とした上で、
本件では明白に一般医療水準を下回る場合に当たらない。
として義務違反はないとした。



不当判決の一語につきるが、この原審判決を破棄すべきとして上告中です。
以下にもう少し判決内容を分析しました。
原審の判決の不当性を上告状にしてあります。上告状を是非お読み下さい。

 ポ イ ン ト   一審・二審ともの判断 ここがおかしい。
 過失判断の基準としての
 医療水準は
 一般臨床医のレベルが過失
 判断の基準
 一般臨床医とは次の全てを
 有する医者
 1.検診(健診)に常時従事
   していない
 2.胸部疾患の専門医でない
 3.レントゲン写真の読影の
   訓練を受けたことが無い
  
   
   
 ※こんな一般臨床医が胸部検診で
   レントゲンを読影すること自体が
  不適であるとは言わずむしろ日本の
  実情として追認している。
 集団検診ということで
 医者の注意義務は
 緩和されるか
 集団検診であると云うことの
 理由だけで医者のミスは
 全て免責される。
 ※一度に大量の写真をみるからミス
   もやむを得ずと判決しているが、
   それなら最初からミスする事を
   予測していて、それでも構わないと
   して検診を行っていることに、
   司法がお墨付きを与えたと同然
 過失判断の基準として
 主観説(具体的過失論)
 によるべきか
 客観説(抽象的過失論)
 によるべきか。
 昭和61年の写真を見落とした    
 小〇は専門医であるが、一般
 臨床医が発見できなければ、
 専門医が発見できなくても
 仕方がない。
 (即ち、素人が見て分からなけ
  れば玄人が見て分からなく
  ても仕方がない)??
 過失判断の基準はあくまで、
 一般のがどうしたで判断する
 客観説である。
 ※最高裁判例に明らかに
   違反している。
 ※最高裁は姫路日赤の未熟児
   網膜症医療過誤事件において、
   主観説を採るべきことを明らかに
   している。
   (最判平成7年6月9日、
    判例タイムズ883号92頁)
 昭和61年の写真の
 異常影が発見可能か?
 異常影は存在するが、
 一般臨床医では発見は困難。
 ゆえに被告に過失なし。
 小〇は専門医を標榜し、〇〇海上も
 社員に対して小〇はスペシャリストと
 宣伝し当社の健康診断体制は
 万全と社内報で宣伝誇示をしていた。
 専門医なら発見可能かでなければ
 ならない。
 専門医なら十分に発見可能との
 医師の意見書が多数あるにも拘わ
 らず原審では証拠として一切採用
 しなかった。
 61年に発見していたら
 救命可能だったか?
 裁判所鑑定によれば、
 この時点ではステージ1。
 癌研でのステージ1の
 5年生存 率は65%。
 しかし発見困難だから
 判断の必要なし
 昭和62年の写真の
 異常影が発見可能か?
 一般臨床医でも
 発見可能な異常影あり。
 ゆえに見落としの過失あり。
 一般臨床医イコール胸部レントゲン
 検診では素人同然。
 こんな一般臨床医でも発見可能な程
 の異常影を見落としていながら、
 安全配慮義務違反の判決部分にて、
 「本件では明白に一般医療水準を
 下回るとはいえない」と判決している。
 62年に発見していたら
 延命可能だったか?
 予後に差はない。
 どの道死んでいたから
 死亡と過失の間に
 因果関係はなし。
 ゆえに一切の責任なし
 どうせ死ぬ運命にあったというなら
 ば、生まれたばかりの赤ん坊だって
 どうせ死ぬ運命にある。
 あとどの位というどこで線引きを
 するのか。たとえ残り一日だった
 としても、残りの人生を否定する
 ことにはならない。
 司法は残り少ない人生など価値が
 ない、と言ったも同然だ。
 どうせ死んでたなら、その患者に
 何をしてもいいのか?
 全幅の信頼をおいて
 自身の健康管理の
 一環を委ねた医者に
 重大な過失を犯された。
 そんな医者の
 任務懈怠・義務違反
 自体に基づく責任
 医者の作為・不作為(過失)と
 患者に生じた結果との間に
 相当因果関係が認められない
 以上当該過失によって損害が
 発生したとはいえない。
 ゆえに損害賠償責任はない。

 そもそも医師は医療水準の如何
 に拘わらず、緻密で真摯 かつ誠実な
 医療をつくすべき注意義務を負っており、
 右義務に違反して粗雑・杜撰で
 不誠実な医療をした時は、
 医師のその作為・不作為と患者に
 生じた結果との因果関係を問うことなく、
 その不誠実な医療自体につき、
 これによって患者に与えた精神的苦痛の
 慰謝に任ずる責がある。
 どの道死んでいたからと、
 どんな重大な過失を
 犯しても責任を負わないのは不当である。
 精神的苦痛自体の
 損害
 精神的苦痛なぞ損害とは
 認めない。
 ※死亡しか損害とは考えて
   いない
 まゆみは自身の生死に関わることで
 医者が過失を犯し、それによって極めて
 大きな精神的苦痛をうけている。
 にもかかわらず、医療過誤訴訟に
 おいては、その精神的苦痛を損害と
 認めず、医者に過失があるのに何の
 責任も負わないというのは極めて
 不当である。
 治療機会喪失
 及び期待権について
 治療機会喪失は損害とは認めず。
 期待権なぞは権利と認めず。
 まゆみは、医者が当然行うべき注意を
 払ってレントゲン写真の読影に当たって
 くれるものと考え、
 それが正しく為されていれば
 直ちに必要な精密検査等を行い、
 最善の治療が受けられた。
 ゆえに治療機会を喪失している。
 まゆみは最善の治療を受ける
 期待を裏切られている。
 

判決文はアップロードいたしません。(量が多いため、悪しからず)
判決文は下記文献を参照いただければ幸いです。

◇判例時報 1568号70ページ(一審判決)
◇労働判例 1998年4月15日 bV32 〇〇海上火災保険・〇〇ビル診療所事件(二審判決)
◇判例タイムス 1016号192ページ(二審判決)
◇判決速報  医療事故情報センター センターニュース 第102号



尚、上記以外に本事件に関しての判例研究として

◇日本法学 第63巻 第2号 定期健康診断における医師の過失が問題とされた事例 (日本大学法学会)
  「担当医師が異常陰影の判断を誤り適切な処置をとらなかったことにつき、期待権侵害ないし
  治療機会喪失として、その精神的苦痛に対する慰謝料が認められる事案ではなかったかと
  思われる」として判決を批判している。


また、本件事件及び判決が社会にどう捉えられたかとして、

◇日経ビジネス 1997年7月14日号 103ページ 「定期健診の診断ミス、責任問えるか
                                 医師の注意義務の重さは増している」
◇読売新聞医療ルネッサンス 1996年2月8日 「がん検診 健康診断異常なし 発見時には手遅れ」  
◇メディカル朝日 1996年3月号 「定期健診を受けていて肺癌死」
◇週刊新潮 1995年12月14日号 TEMPO 48ページ 「ならば定期健康診断は無用の長物ではないか」
◇雑誌フライデー 1992年4月10日号 「ガン見落としや出産事故、続発する医療過誤の実態」
           医療ジャーナリスト 永井明氏報告文
           「一方、肺癌見落としのほうはなんともお粗末だ。ただただ情けないと言うしかない。」
◇この弁護士に聞け 日経BP社  54ページ 「泣き寝入りが圧倒的な医療過誤」  
                     188ページ 「社内健診、企業の責任は
判決は企業の注意義務を緩和」
◇カッパブックス 「患者のための医療事故法入門」 第7章 定期健康診断には落とし穴がある。
◇月刊いのちジャーナル 1998年7月号 「いいかげんな職場検診の果てにがん死した女性の悲劇 
                           なぜ誰も責任をとらないのか」

◇ドキュメント92 「この悲しみは消えず 医療過誤の構図」 読売テレビ製作 
            1992年5月24日 日本テレビ放映 

他にも色々ありますが、取りあえずこのくらい。


                   トップページへ戻る