デリバティブの税務 − 金利スワップを例に −

茂腹公認会計士事務所

 

◆1)銀行融資との組合せの金利スワップ

 

金利スワップなどは一般企業には無縁の存在でしたが、最近は銀行からの勧誘でこれを利用するケースが増えているようです。銀行から変動金利による長期の融資を受けた企業は、「固定金利を支払い、変動金利を受け取る」との金利スワップ契約を締結することで、金利上昇によるリスクを回避することができます。つまり、企業は固定金利による長期の融資を受けたのと同じ効果を得ることができるわけです。

 

 このように、一般企業が金利スワップをリスク回避目的で購入するのであれば、それは支払うべき利息を固定金利にするためであって、金利スワップ自体からの収益は予想していないのが通例です。しかし、処理を間違えると、金利スワップ自体に課税関係が生じてしまうことがあります。そこで今回は金利スワップについての税務処理を取り上げてみました。

 

◆2)課税関係が発生してしまう理由

 

金利スワップは、取引時点での金利相場に基づき、

1)        固定金利支払のキャッシュフローの現在価値(*CFPV)と、

2)        変動金利受取のキャッシュフローの現在価値(*CFPV)

が等しくなる水準(等価)で取り引きされます。ここで注意すべきは、現在価値を算出するときに使う割引率は、その時点での変動金利そのものである点です。

     CFPVの算出式

Σ(利息÷(1+割引率)n)=

利息/(1+r)+利息/(1+r)2 +利息/(1+r) +・・・・・利息/(1+r)

 

そのとき、変動金利が上昇するとどうなるでしょうか?

@ 固定金利支払のキャッシュフローの現在価値は、

分母の割引率が上昇するので、小さくなります。

A 変動金利受取のキャッシュフローの現在価値は、

   分子も分母も上昇するので、変動しません。

 その結果、@<Aとなります。

 

即ち、将来、受け取ることになる変動金利のCFPVが、固定金利のCFPVを上回ることになりますので、差益が生じます。

逆に変動金利が下降すると、@>Aとなり、差損が生じます。

金利スワップの時価評価とは、年度末の金利相場に基づいて、この差益・差損を認識することをいいます。

 

 金利スワップは時価評価されるのが法人税法の原則ですので、年度末におけるスワップ取引の未決済部分について評価損益が存在する場合は、それが法人税の課税対象に取り込まれることになります。

 

 ただし、<一定の要件を満たした取引>であり、その旨が<帳簿の記載で宣言>されている場合は、リスク回避のための金利スワップ取引と認定され、年度末の評価損益の計上は不要とされます。

 

 

◆3)評価損益の計上が不要になる適格な金利スワップの要件と処理

 

<一定の要件を満たした取引>

 

購入する金利スワップが、次の5要件を満たしていることが必要です。これを、「為替や金利のリスクを回避するデリバティブであることを客観的に証明する5つの要件」と称します。

(1)契約期間を通じて固定金利及び変動金利の基礎となっている指標(LIBORなど)が一定である直先フラット型と呼ばれるものであること

(2)借入金と金利スワップの元本が同額であること

(3)借入金の償還期日と金利スワップの終了期日が同一であること

(4)借入金の支払金利と金利スワップの受取金利が同一の指標(LIBORなど)を採用していること

(5)借入金の金利支払期日と金利スワップの金利受取期日が一致していること

 

 <帳簿の記載で宣言>

 

次のような要項を記した帳簿を作成しなければなりません。これを振当処理・特例処理を行なう旨の帳簿での宣言と称します。

 

(1)リスク回避の対象となる借入金の種類・名称・金額

(2)リスクを回避する期間

(3)金利リスクを回避するために金利スワップを購入した旨

(4)当金利スワップ取引を期末時において時価評価しない旨

 

 時価評価を避けるには特例処理ヘッジ処理の2つの方法がありますが、その中の特例処理と言われるのが上記の処理であり、この要件を満たせば、金利スワップによって支払うことになった固定金利を支払利息として計上するだけで良いとの結論になります。

 

◆4)まとめ

 

金利スワップを例にしたデリバティブの税務の説明は以上です。案外簡単だと思いませんか。要は実務的には、要件を満たしているかどうかだけチェックすればいいわけです。

 金利スワップは、金利のデリバティブです。為替のデリバティブには、為替予約や通貨スワップなどがあります。金利のデリバティブも為替のデリバティブも税務の取扱いは、ほぼ同じと言えます。

 

アインシュタインが相対性理論を説明して欲しいという記者に小麦粉の意味が分からない人にパンの作り方を教えることが可能かと問いかけたという話がありますが、パンを作れる方のうち小麦粉を本当に分かっている人はどれだけいるでしょうか?小麦粉はスーパーで簡単に手に入るので、知っているつもりになっているに過ぎないのではないでしょうか?デリバティブも同じです。金利スワップの意味がわからない限り、金利スワップの税務がわからないというわけではないのです。

以下の図をもとにデリバティブとその税務のイメージ(「なんだ大した事ないな」というイメージ)を持つことが重要だと思います。

 


参考1)デリバティブの区分

 

 

先渡・先物

スワップ

オプション

為替

フォワード為替

為替先物

通貨スワップ

通貨オプション

金利

金利先物

金利スワップ

金利キャップ

金利フロア

     一般企業が銀行から勧められるのは、網掛けのものです。

     フォワード為替:フォワードとは先渡と訳されます。先渡は相対取引、先物は市場取引とおぼえてください。いわゆる為替予約とは、このフォワード為替のことを言います。

     先渡・先物:将来に○○を売る(買う)契約というイメージを持ってください。

     スワップ:先渡を定期的に購入する契約(先渡の集合)というイメージを持ってください。

     オプション:ストックオプションをイメージしてください。将来の○○の権利を売る(買う)契約です。

 


参考2)デリバティブの税務フローチャート

 

 下の図をご覧ください。デリバティブの税務の種類は3種類です。実務的には、デリバティブの時価評価そのものを行なわない処理である、振当処理(為替のデリバティブでは、こう呼びます)・特例処理(金利のデリバティブでは、こう呼びます)が選択できるように対応することになるかと思います。