第107回原宿句会
平成10年5月11日 新幸橋ビル

   
兼題 茄子苗植る 夏椿 神田祭
席題 業平忌


  東人
昔をとこ老後は知らず業平忌
とろとろと墨磨つてをり若葉寒
日の細く届く中庭夏椿
担ぎ手に火を打ち神田祭かな
根を張りしのち水遣らず茄子の苗

  千恵子
路地曲る傘の行方や業平忌
茄子植うる隣りに嫁の来る話
沙羅咲いて空に水色流れけり
神輿行く神田の路地に更地かな
若葉寒初夏にファーブル昆虫記

  希覯子
図書館は鴎外旧居夏椿
長老の火消し装束神田祭
洋菓子を提げて神田の祭山車
守衛所に隣れる寸土茄子植うる
夏椿葉には人の名願ひごと

  笙
散るまでの時せき止めて夏椿
丸、四角、土の重りの茄子の苗
爺の背の小さな法被神田祭
降る雨の音もかそけき業平忌
春霖のやさしく癒やす古戦場

  隆
帽子屋に迷ひてをりぬ業平忌
人の持つ磁界を逃げて春の蝶
夏椿落ちる気配に猫の向く
まだ紺に染まらずにをり茄子の苗
人垣を崩して神田祭かな

  利孟
神輿舁く隙なき隙に肩差して
定食に足す生卵業平忌
沙羅こぼるケーキのやはな紙の箱
茄子苗の水をあげ出し夕間暮れ
行き惑ふ川風神田祭かな

  武甲
墓碑銘にハリスの名あり沙羅の花
按配を交ひにたづね茄子植う
愁色の人待ち顔や業平忌
母の日や極上ねたを求む客
炎立つ神田祭や江戸の意気

  白美
玉砂利のことごと踏まれ神田祭
鯉幟嫡男嫡孫死語となり
夏椿カロッサ、ヘッセの訳者の死
業平忌波光の彼方向島
掌に残る土の香茄子植う

  箏円
畝少し曲がりて植ゑし茄子の苗
かたぐるま神田囃子の拍子とる
ピアスして継ぐ八代目業平忌
木の橋を一心不乱の毛虫かな
夏椿床の間占むる古き壺

  美子
ファインダー覗けば競ひ合ふ躑躅
母の日や母に代りて出す封書
手解きを警部に受けて茄子植ゑる
夏椿視点定めぬままに座す
青嵐犬の上唇乾く

  正
業平忌グラスの中は赤ワイン
パソコンを神田祭に来て求め
さざ波のレマン湖畔や花菜畑
茄子植うや有機栽培の書を探す
石庭に沙羅の花散る京の寺

  健一
神田祭担ぐ男の肌白し
友語る京の遊びの業平忌
茄子植うる添へ木に結ぶ紺の紐
教会の庭に溶け込む夏椿
川渡す幟はためく峡の村