第19回原宿句会
平成4年2月26日 「扉」主宰、土生重次先生指導句会

   
兼題 啓蟄 犬ふぐり 薄氷
席題 実朝忌


  重 次
犬ふぐり素焼の壷の日を満たす
薄氷の奥にすばやく動くもの
啓蟄や巣箱に丸の出入り口
潮騒に混じる松風實朝忌

  東 人
寝床まで巻の十四を實朝忌
啓蟄や歩道の目地の濡れており
薄氷や羽毛をたてて吹かれをり
橇の子のもんどり打って犬ふぐり

  千 恵 子
啓蟄や嘴長き鳥の群れ
薄氷や愛書の栞の夢二かな
愚直たれの祖父の遺言実朝忌
踊り子には踊り子の影いぬふぐり

  内 人
啓蟄や午睡の後のくさめかな
波寄せる浮子を見つめて實朝忌
薄氷や根岸の路地に風走る
薄氷や傷痍軍人の杖の音

  利 孟
犬ふぐり研ぎ汁注ぐ飼葉桶
啓蟄や金の小匙のミントティー
隠れ田や犬の踏み割る薄氷
雪原の歩兵集団實朝忌

  希 覯 子
犬ふぐり順路をそれしところにも
出でし穴ふりかへりたる地虫かな
二度三度薄氷踏まる登校路
江ノ電の軒すれすれに實朝忌

  美 子
幅広の靴ずかずかと犬ふぐり
薄氷の光を碎く鷺の脚
啓蟄の村中に鳥の眼が光る
啓蟄や肉質となる土の艶

  千 尋
啓蟄の泥乾きたる子らの脛
実朝忌貴公子振りは如何にぞや
薄氷のゆるみぬるみぬ坂南面
沿道のくつくつ笑ひ犬ふぐり

  白 美
実朝忌背中で搖れる稚児烏帽子
籐篭にチャコと木綿や犬ふぐり
薄氷や円の揺るがぬ観覧車
啓蟄や不意に急坂駆け登る

  玄 髪
啓蟄の蟻の行方の右左
子をあやす道すがらなる犬ふぐり
薄氷の寿命儚なき通学路
實朝忌金槐集は棚の奥

  健 次
薄氷をよける柄杓や手水鉢
子供らが走り抜けたり犬ふぐり
切り通し歩き疲れて実朝忌
啓蟄の空軽やかに散歩道

  香 里
実朝忌祖母に求めし鳩サブレ
決めかねてブーツ履きけり薄氷日
髪切りしカチューシャつける薄氷日
啓蟄や空き地横切る乳母車