137回原宿句会
平成12年11月6日


   


  東人
身に沁むや嘘で固めし出土跡
求人の委細面談秋深し
死刑囚の本はよく売れ文化の日
毒舌の舌は真つ白鳥兜
一歩ごと軋む木道残る虫

  千恵子
忘れたる頃の返書や残る虫
胸に買ふ罵詈雑言や鳥兜
耳てふは受身の器官秋深む
身に入むや無人市場に錢の箱
裂けてなほ実をこぼさざる石榴かな

  白美
身に沁むや桃色似合ふ年となり
クリムトの女寝そべる黄葉かな
語り継ぐ落人話鳥兜
出稽古の遅き仕舞や冬の虫
掻く撥の音色重たき秋の暮

  武甲
独り居の母の強がり虫細る
雨樋の無き家並みや羊雲
秋深し長文多きEメール
身に入むや喪中を記す住所録
公判で知る真実や烏頭

  希覯子
身に入むや嬰を背にして襁褓干す
仮名書きの蝦夷の地名や烏頭
野菜売る学園祭や帰り花
夜は無人浄水場に残る虫
門跡寺閉門早き秋の暮

  筝円
とりかぶと夜半に鴉の低き声
のこる蟲雨曝しなる古書の束
身に沁むや呪文のごとき風を聞き
無花果や軒深くして父祖の家
秋深し備後訛りの老女将

  翠月
三味を弾く童真顔の里祭
残る虫雄の悲哀を語る土間
花紫紺底に殺意の鳥兜
深秋の色もの多き野菜市
電灯をつけて身に沁む一人部屋

  正
秋深し樽積み上がるワイン蔵
毒舌の世に憚るや鳥兜
集ふれば病気談義や暮の秋
身に入むや妻には告げぬ恋の傷
老いてなほ恋囁くや残る虫

  和博
残る虫厠へ父を支へゆく
天高しクレーン二つが伸びをする
身に入むや一人厨に洗ひ物
秋深し石垣小路に三味の音
烏頭雨滴に揺らぎ沢の道

  美穂子
小さき嘘つきて手折りぬ鳥兜
人絶えし午後のコートに一葉落つ
虫嗄るや迷ひて記す旧字体
墓どれも無口の面秋深し
全うす母の命や蔦紅葉