第51回原宿句会
平成6年3月22日

   
兼題 春月 桜餅 木の芽
席題 啄木忌


            東 人
握力の失せたる右手啄木忌
塩味の湿りて甘し桜餅
手をつなぐ夫婦目で追ひ木の目風
梱包の箱を積み上げ春の月

            千 恵 子
清貧が好まれる世や啄木忌
世渡りの下手な男や桜餅
上向くも下向くもある芽吹きかな
憂きことは忘れろ忘れろ春の月

            白 美
桜餅ほどよき足の疲れかな
春月や眉まるくかく夜の化粧
黒塗りの椀に浮かべる木の芽かな


            利 孟
向き合ひて動かぬ猫や春の月
屋根透けし遊覧船や柳の芽
柳の芽厨を仕切る縄のれん
葉の剥かる音を手に聞き桜餅

            梅 艸
木の芽道木の芽の竹の雨が打つ
春月をぷるんと掏う銀の匙
続き読もう甘味喫茶の桜餅


            法 弘
妖怪ぬらりひよんに会へさうな春の月
胎の児の音波影像木の芽吹く
恋が愛に変はる予感や桜餅

            京 子
新宅に花一輪や啄木忌
思惟像の指思わせて木の芽立つ
桜餅包み売る手の爪紅
星々を引き連れ春の月凛と


            千 里
薄雲の動かざる空桜餅
うす皮の饅頭食らふ春の月
春月や上野の池の鳥照らす

            美 子
家移りの家族が消えて春の月
桜餅かうして食べてゐる齢
木の芽風坂の途中に地蔵堂
桜餅下げてぶらりと骨董屋

            希 覯 子
ぐい呑みとまごふ器や木の芽和
諳んずる歌十首あり啄木忌
微醺あり歩くを誘ふ春の月
桜餅ひさぐ言問ひ団子茶屋

            武 甲
春月や慶事の近き朱塗り門
教室に小さき笑み満つ啄木忌
ジョギングの掛け声増して木の芽ふく
桜餅売り子の声の晴れ晴れと

            浄
戻り景気願かけ幾度木の芽ふく
入社式やうやく暮れて春の月
裾上げて石段駆け上ぐ桜餅

            英 樹
春の月チェロを抱へて駅降りる
児らの喰ふ酢昆布匂ふ春の月
寄席跳ねて下町の風桜餅
チョコの香の菓子工場や木の芽風

            加藤春樹
待ちわびる老母は伏して木の芽風
児らの喰ふ酢昆布匂ふ春の月
寄席跳ねて下町の風桜餅
チョコの香の菓子工場や木の芽風