第79回原宿句会
平成8年3月13日

   
兼題 霾 リラ 涅槃一般
席題 寄居虫 当季雑詠

        

            東 人
台詞入る隙なく嘆き涅槃絵図
ぐいと抜けするりと入る寄居虫かな
青き踏む蹠に目鼻あるごとし
別れ来し闇の遠のきリラの花
霾るや絵馬に村上水軍旗

            千 恵 子
涅槃図の象の抜け出す堂の闇
凶と出しコーヒー占ひ鳥帰る
のぼりては落つやどかりの日がなかな
霾や日は暈を着て崩れたり
風にリラ信濃に空の透き通る

            希 覯 子
啓蟄や妻を師とする厨ごと
寄居虫の叱咤を受ける歩みかな
つちふるや大内山を玻璃戸越し
リラの窓点滴時を刻みをり
涅槃図や絵解きの竹にゴムを被せ

            白 美
霾るやひとりで帰る転入生
あるだけの服を着換へてリラの花
濡れ縁で背のびする猫涅槃の日
春浅し手帖は札所印ばかり
プラスチック蓋を背負ひて寄居虫疾し

            翁 莞
涅槃会の歩幅大きく僧の列
寄居虫の逃げる早さも波が呑み
霾る日閉ぢし障子の指の跡
青空の樹氷に掛かる小さき虹
ライラック群がる園の香り風

            萩 宏
霾天に羊追ひたる大地の子
霾や朽ちし校舎の風見鶏
涅槃会の夜もなほ探るひとの肌
寄居虫や大波小波に目もくれず
待ち人の来ぬ駅前にリラの花

            利 孟
釘切りて終る装蹄リラ香る
涅槃図の傾げば象の垂る頭
霾や音出し詰めの調律師
咳き込みて鳴る時計台リラの花
涅槃図の襞のゆたかに紅衣

            美 子
流さない泪うす塩涅槃西風
リラの香に相応しき人勇退す
寄居虫の戦ふ構へ大形に
納税者春の埃の中を来る
霾れば藁の匂ひの美少年

            京 子
桜東風湖面の影を揺らしゆく
抱きし子と香り分け合ひリラの花
手枕に眉宇のやさしき寝釈迦かな
家移りの荷を見送りて黄沙かな
          正

  リラ薫る北の都の遠き日々
新墾の霾る丘も分譲地
涅槃なほ遠くにありて人恋ふる
鍵盤の音きらきらと春の水
寄居虫に伸び行く孫を重ねけり

            法 弘
涅槃会に不参の猫も方舟に
口笛の似合ふ街角リラの花
品書きにたらの芽は無し然れども
つちふるやあゝ銀幕の李香蘭
大津絵の鬼のおどろく春の雪

            伸 作
カンバスに香り描かんリラの花
猫をのせ長イスに伏す涅槃かな
富士を見る駿河の浜におにやどり
この国の来しかた思ふ黄砂かな
九十九里波打ち寄せよおにやどり

            義 紀
寄居虫や転居続きの我が生涯
転勤の友を見送り涅槃西風
雪達磨三日の後の泣き笑ひ
リラ咲ける街に旅立つ夜明けかな
霾るや空狭き高層ビル街に