第82回原宿句会
平成8年6月13日

   
兼題 紙魚 洗膾 雲海
席題 日除


            東 人
狗肉売る店の日除けの青と白
落款印の一画崩し紙魚光る
金時の絵皿の上の洗ひ鯉
炎昼や青磁の罅の割れる音
雲海に坐す峰のなし韓の国

            利 孟
雲海を堰きて箱根の山明ける
引き残る皮の光や洗鮎
洗ひ盛る硝子簀子の木綿糸
辻一つ紙魚の加へて大江戸図
いざといふときの早逃げなめくぢら

            千 恵 子
紙魚喰ひや句読点なき候文
日覆や一ト日客なき時計店
箸先に泥の移り香洗ひ鯉
雲海へ一閃の朱や声上がる
この頃の日の経つ早さ四葩咲く

            笙
ぐり石で止める日覆法衣店
時折は歩のにぢりゆく紙魚の跡
雲海を突き抜けて立つ大没日
大西日ビル満面を鏡とす
洗い鯉そがれしままの曲り癖

            希 覯 子
水替へも看護のひとる水中花
日除け巻き銀座に夜のとばりかな
伝来の三體本や紙魚のあと
ギヤマンに盛られし鯉のあらひかな
雲海や北極点過ぐとアナウンス

            白 美
雲海やまたも運ばれ機内食
珈琲の香りのこもる日除けかな
輝けるものは紙魚のみ古官舎
噂立つほどのことなし洗ひ鱧
「かあさま」に聞きし運針桜桃忌

            法 弘
雲海や黄山に座す石の猿
元禄御畳奉行の日記紙魚は食ふ
清張のギョロ眼なつかし紙魚の穴
一刷けの雨過ぐ庭や洗ひ鯉
新宿の女がくぐる茅の輪かな

            正
赤い日除青い日除や巴里の街
雲海を枕にしたり空の旅
紙魚の書の並ぶセーヌの晝下り
帰り来し子と一献の洗鯉
マロニエのふさふさ揺れて乳房かな

            美 子
肝腎の一字喰はれて紙魚憎し
洗ひ鯉定食頼む日本海
雲海や友の横顔素に戻る
越し方を思ふ雲海眺めつつ
黒塚の岩屋見てきて洗膾喰ふ

            健 一
雲海のふはり峰越しのたり落つ
縮れ身に舌のざらつき洗鯛
紙魚あとに本の整理となりにけり
初夏の渓谷水の私語絶えず

            梅 艸
洗鯛ネクタイシャツと解きけり
話やや込み入って水漬く洗膾かな
雲海や月下に纏ふアマルガム
黄表紙の穿孔古き紙魚の恋