第86回原宿句会
平成8年10月8日

   
兼題 紅葉狩 夜長 赤とんぼ
席題 石榴


            東 人
風乾く日は高々と赤蜻蛉
石榴裂けしままに乾びし異人館
九時以降絶飲食の夜長かな
被写体の見目良き一樹紅葉狩
沢風に裾を捲くられしゆうめい菊

            希 覯 子
海路より訪ねし離宮紅葉狩
赤蜻蛉止まりに順のあるごとく
点滴の秒を刻みて夜の長き
数枚の稔り田名残り巾着田
実石榴の百歯を見せる笑ひかな

            美 子
石榴の実前歯で噛んで童女めく
ファックスが届きて後の夜長かな
山頂に赤とんぼ群れ人が群れ
紅葉狩体内脂肪燃え立たす
秋刀魚臭き掌で湯気の飯大盛りに

            千 恵 子
長き夜や火星に生き物ゐる話
自転車を降りて押す坂金木犀
原っぱの空の四角や赤とんぼ
一枝をリュックに挿して紅葉狩り
無きつのる子ののどちんこ石榴落つ

            武 甲
アムラーの肌まだ黒き紅葉狩
逆上がり出来し破顔や赤蜻蛉
真犯人探しあぐねる夜長かな
秋冷の気圧配置や村暮れる


            利 孟
水筒のぬるき紅茶や紅葉狩
木のベンチ脇に伺候の赤とんぼ
実ざくろや寺の並びし魚籃坂
指遣ひ譜に書き込める夜長かな
露けしや音立て動く木偶の顎

            梅 艸
背を丸めインターネットの夜長かな
紅葉狩一年ぶりのスニーカー
遠吠えのクラクション一つ長き夜
赤とんぼ買ひ手の付かぬ築五年


            法 弘
帯の間に挾む名刺や紅葉狩
赤とんぼ地上にルカの福音書
実石榴や村のどの家も同じ姓
塾の子を駅に迎へる夜長かな
連如が子指折り数ふ夜長かな

            白 美
紅葉狩茶店の椅子を譲りあふ
鉛筆の芯のまるみて夜長かな
ゆらゆらとためらひ見せて赤とんぼ
満月や心に疚しきこと無きや


            笙
夕風に茎から揺れて吾亦紅
履き慣れし靴を頼りに紅葉狩
切れぎれの汽笛聞きゐる夜長かな
飛ぶ雲と共に流れて赤蜻蛉

            健 一
軽々と向きを自在の赤蜻蛉
実石榴やすつぱき味の今昔
掛け時計長き響きの夜長かな
魚影の早くなりぬる秋の川
遠景の仰ぎしばしば紅葉狩

            義 紀
くねくねと車連なる紅葉狩
簿記論に居眠り多き夜学生
実石榴や彼の日に言へぬ言葉あり
新しき三輪車ある良夜かな
二組の親子行き交ふ紅葉狩

            正
紙吹雪メークドラマの夜長かな
カナダより届く便りや紅葉狩
爽やかな声聞く人も爽やかに
赤とんぼふと童心に立ち返り
実る恋実らぬ恋や石榴笑む

            香 里
とりためしビデオ並べて世の長き
フイルムは残りわづかに紅葉狩