第93回原宿句会
平成9年4月8日

   
兼題 かすみ草 北寄貝 仏生会
席題 しやぼん玉


            東 人
世の塵の彩をたわめて石鹸玉
灯の入りて白の浮き立つ花御堂
霞草花の盛りに捨てらるる
塩水で舌引つこませ北寄貝売
夜桜を見上げ油断の腰構へ

            白 美
大甍逆にのせてしやぼん玉
青塗りの象の張り子や花祭り
尻にまだ列車の小揺れ北寄貝
また助演賞受く女優霞草
いろ失せし都の桜年ごとに

            美 子
姥貝やしやきしやきと逝く名女優
花束の余白を埋づめ霞草
鳥が餌を食みし嘴跡春の土
仏生会手向けに稚児の薄化粧
巣立つ子の母逞しき高笑ひ

            利 孟
乳呑子に吸はせし指の甘茶かな
親のゐる辺りうかがひ入学児
こぢ開けし舌の蠢く北寄貝
花束に箱より加へかすみ草
しやぼん玉売りまき散らす陽の欠片

            千 恵 子
北寄貝岬淋しといふ便り
堰越えてよりのゆるみや花筏
天を指す指の乾きて甘茶仏
仮縫ひの鏡に吾と霞草
吹き流れ行く先は空シャボン玉

            希 覯 子
小童の路地ほしいまま石鹸玉
浅草寺裏から拝み植木市
みちのくに教へ子がをりほつき鍋
あくまでも添へ花として霞草
家苞は人形焼と佛生会

            義 紀
またひとつ破れし恋やシャボン玉
いつのまに側にゐる人かすみ草
大黒の細き腕や仏生会
春暁のラジオ講座やABC
北寄貝食めば現はるオホーツク

            正
北寄貝鮨屋で開く和英辞書
彗星の大きく見ゆる仏生会
藤匂ふアルハンブラの赤き壁
歌姫の笑みこぼれたり霞草
故郷の空に帰りてしやぼん玉

            法 弘
しやぼん玉キリンの角に当たりけり
夕月のかかりて暮るる花御堂
かすみ草いたく踏まれて逮夜かな
梁にきしむ柱や戻り寒
春陰や勃起に隣る北寄貝

            健 一
佛生会来る人絶えて香の部屋
北の香の皿に一盛り北寄貝
花の艶透ける包みの霞草
うちけぶる雨に背伸びの若緑
シャボン玉いくつかの舞ひ声で追ひ

            萩 宏
壁に付き触れても割れぬシャボン玉
大漁とかざす両手に北寄貝
花祭り早寝の祖母の鼾かな
ドレスより輝く髪のかすみ草
去年より小さき渦の栄螺かな

            笙
寿ほぎの髪を彩るかすみ草
仏滅の空晴ればれと花まつり
ストローを入りつ出でつつしやぼん玉
うらうらと一日過ぎて春の風邪
節高き指に打たれて北寄貝