第95回原宿句会
平成9年6月9日

   
兼題 昼顔 あめんぼう 父の日
席題 梅雨入り


        東 人
黒南風や一反五畝の海女の畑
輪に散りて楕円に戻り水馬
異動先わからぬままに梅雨に入る
ゆらゆらと風に色づく浜昼顔
父の日や父に臙脂の蝶ネクタイ

        法 弘
涼み舟ゆれて揺るがぬ舟徳利
父の日や爪の割れ目の油染み
天下布武争ひし川あめんぼう
いのちなきものに昼顔すがりけり
犬同士顔見知りなる避暑地かな

        利 孟
昼顔や英語併記の基地の塀
往き戻る象の薄目や白日傘
あめんぼの総身の貧乏ゆすりかな
父の日の午の銀座の獣径
シーサーの吠えかかるかに梅雨に入る

        希覯子
海難碑浜昼顔の多きかな
はかどらぬ橋脚補強梅雨に入る
ぢぐざぐに遡る智慧持ち水馬
拝殿へ額くまでの日傘かな
父の日や娘二人の果報とは

        白 美
梅雨入りやかすれかすれのボールペン
父の日や黙々むしる庭の草
雨足に追はれて早きあめんぼう
昼顔の絡みて柘植の華やげり
朝顔の双葉に測る系のいろ

        千恵子
海昏れて浜昼顔も眠りけり
折れさうな四肢踏ん張つて水馬
新居まだ片づかぬまま梅雨に入る
黒南風や真珠筏は沈みがち
父の日や父知らぬ子も父となり

        正
父の日のネクタイ選ぶ茶髪の娘
何処とも厠の匂ひ梅雨の入り
川風や御輿をかつぐピアスの子
晝顔の家の中より夜想曲
水馬凱旋門のドライバー

        美 子
山開き魔女の瞳の濃き緑
梅雨の入り床屋の犬の伏目がち
父の日にいとえを紛ふ国訛り
ぎりぎりにこそげて立てり水馬
昼顔や大型店の地鎮祭

        梅 艸 
父の日や万年床の煙草盆
浜昼顔他愛なき会話途絶えけり
父タルヲ辞ス父の日の貸ビデオ
古池の底の水馬の溺死体


        萩 宏
傾斜とは無縁の日々や水馬
昼顔の色奪ひたる黒き雲
梅雨に入る庵の壁の白さかな
父の日のセールの札の破れけり
昼顔や海への歩み止めにけり

        健 一
水馬飛び戻るたび仲間増え
雨垂れの小石を撥ねて梅雨に入る
昼顔の朽ちたる柵にそろひ咲き
父の日に変へる掛軸父匂ふ
夏の山群れなす水の沢下り

        笙 
めばる煮る大鍋の蓋踊らせて
昼顔の淡きねぢりに時刻む
父の日に贈りしパイプ残されて
川の面に六つの笑窪水

        義 紀
飽きもせで石を投げし日水馬
捨てやうか古りし白靴遠き恋
昼顔や遠き友呼ぶ漁師の子
父の日のなぜふことなく果てにけり