第100回原宿句会
平成9年10月3日 新幸橋ビル

   
100回祝賀兼新会場移転記念句会
  兼題 稲孫 秋の蚊 猿酒
  席題 「幸」読み込み


  東人
語るほど出所あやふやましら酒
木曾塚のそらかきまはし破れ芭蕉
稲孫田のあをいちめんの近江かな
ともに喰ふことが幸せ芋煮会
秋の蚊の音なくすねをすべり落つ

  千恵子
猿酒を盗みし話薪煙る
葛の花峠越えれば風違ふ
炊き上げし新米光る今朝の幸
揺れるには丈の足らざる稲孫かな
墓参る我を離れぬ名残の蚊

  希覯子
稲孫田に線路がありぬ縄電車
猴酒酌んで山窩の宴かな
幸便で届く投句や秋燈下
秋の蚊や女子供を狙ふかに
鮎錆ぶと山方宿に友あれば

  利孟
まつすぐに鉄路は甲斐へ蛇笏の忌
生命無き音満つる闇猿酒
耳朶を叩きて潰す名残の蚊
稲孫田や湯の頃合ひの魔法瓶
秋灯や山幸彦の削る鈎

  美子
雨粒の蘂に連なり曼珠沙華
やすやすと打ちすゑ秋の蚊と思ふ
猿酒の山刳り貫いて高速路
田は稲孫モツ煮る妻と二人きり
幸不幸測る尺度の秋の空

  白美
稲孫田に置かれしままの油注し
萩割つてかすかに見える行幸塚
秋の蚊の闇に吸はれて消えにけり
彼岸花夕べは長き影の枷
猿酒欲し佳き酪を得た今日の日は

  正
仙人の浮き世に帰るましら酒
秋の蚊や予算査定の頁繰る
序曲より始まるオペラ秋の夜
幸の薄き王妃や曼珠沙華
燃え盡きてまた燃える恋稲孫の穂

  健一
稲孫田を行くほど淋し水の音
沖の紺うねり幾重に土用波
古井戸の秋の蚊いづこ細き声
猿酒や口論のあと先づ盃を
猿酒や盃に美人の酌に幸

  箏円
秋の蚊の風に追はるる行方かな
親の年越えて生く身や稲孫稲
寝待ち月幸しんしんとひとり酒
苔清水たどりて深し猿酒
闇深き栗落つ音のおどろかな

  龍堂
別れ蚊の声聞く我も闇に溶け
稲孫田に地蔵のおはし子ら遊ぶ
ましら酒喰らひて舞ひし酔胡王
大蛇棲む朽ち木を濡らす秋ついり
幸神の枝垂れ赤四手月の下

  笙
稲孫田に並びし幟村芝居
秋の蚊の飛ぶに任せて屋台酒
洞へと香りが誘ふ猿酒
新涼や「幸福」行の切符買ふ
秋霖の止めどなき音聞きて夜

  武甲
子の笑みに早足止める赤い羽根
秋の蚊の羽音の壊す一夜かな
稲孫田や祭の近き伊賀の里