第9回 平成9年2月28日
土生重次指導句会 アーバンしもつけ

土生重次
寒鴉すとんと降りて影たたむ
水温む立たせて廻す陶の土
利休忌や唐の茶椀の重ね釉
雪吊りの肩の荷おろすごと解かる

森利孟
利休忌や眉に影おく眠り猫
地ビールの漢字のラベル水温む
雪除けに籠もりて時計台の鐘
人脅かすつもりの横目恋の猫

会田比呂
一処箒目乱し恋の猫
容赦なく口開けられししじみ汁
顔だけで聞きし繰言春愁
水温む揺れ緩慢な風見鶏

池田孝明
利休忌や恩師の茶器を偲びをり
庭隅の土持ち上げて蕗の菫
さざ波に光うつして水温む
利休忌や名のみばかりの茶会かな

岩本充弘
切り株の年輪洗ふ春の雨
陽と風を掬ひて鬼怒川の水温む
利休忌や梵鐘の音色山に澄み
沢ひとつ違ひのありて水温む

小又美恵子
水温むかはたれ時の畑仕事
明け暗れの遠きバスの灯襟合はす
春の風黄色に染まり杉揺らす
利休忌や肩越しに見る寺縁起

片山栄機
庭木にもカサカサと降る雪の夜
薄氷を踏みて通夜への道遠し
水温む頃に別れと出会ひあり
利休忌や昭和の文字はうすれゆく

茅島正男
鬼ごつこ梅の蕾にまあだだよ
利休忌や背すじ伸ばして湯を注ぐ
水ぬるむ気もゆるむかなひと眠リ
セリ摘やちよつと伸びたる藁の下

後藤信寛
渓流の釣り糸絡み新芽摘む
水温み湯の湖跳ねゐるヒメマスや
水温み岩魚飛び付く疑似餌かな
水温み我が浮き笑ふ浮魚よ

田中鴻
水ぬるむ素早く過る魚の影
蘆の角淀みの底に丈比べ
利休忌や主菫の教へありがたし
冬鳥の小刻みで魚追ひにけリ

田仲晶
温みたる水面へこぼる夕汽笛
鯉跳ねし濁りを加へ水温む
決め手欠く陶の真贋利体の忌
種袋振れば生命の音返す

高島文江
さお竹の布巾乾きし利体の忌
水温む子牛五頭を守る犬
さわさわと竹林の風利休の忌
利休の忌金平糖を掌にのせて

手塚一郎
春蘭や枯葉おしのけうすみどり
せり掘りし冬眠がへるおこしけり
三椏の花に足停む庁舎前
水温む泥付き芋を洗ひけり

手塚須美子
春めきて駅のポスター旅誘ふ
水温む人なき丘の墓参かな
茶を点てる音さわやかに利体の忌
つばみなる桃一枝の窓辺かな

床井憲巳
もう一本ねだる晩酌木の芽和
酔ひ醒まし初蝶追ふちどり足
花ことば多幸といふ韮を食む
畔川の垂水音響き水温む

永松邦文
東に春の満月宴なごむ
水温み固き紅筆やはらけり
水温み蟷螂の子ら仁王立ち
利休忌や遠走りして蕎麦屋酒

仁平貢一
水ぬるむ鬼怒の川辺で夢語る
水温む岸辺に芹の花わずか
利休忌や底冷えの寺訪ねをり
利休忌や偲んですする粥の膳

福田一構
隧道の闇のにほひて春の昼
水撒きの母のしはぶき水温む
停年や思ひは寧し春の風
いささかに酔を残して利休の忌

堀江良人
利休忌や軒に音なき雨降りぬ
雨止まぬまま春雷の遠ざかる
雨あがり野田に霞の簾立つ
鬼怒川に吹く風は山手へ水温む

三澤郁子
鯉ゆらり池の水の温みけり
利休忌や寺のどこかで水の音
夕ひかり石置くごとく残り鴨
水温む机に草花図鑑かな