第18回 平成9年11月28日
アーバンしもつけ



森利孟
やや反りの大判小判三の酉
鋲数多植ゑて猫背の皮ジヤンパー
逃るもの穂先で捉へ落葉掃
初冬や火床明りの農具鍛冶

会田比呂
万葉の落葉等しき音に踏む
酉の市千両小判雨に反る
それぞれに持ちし箸穴煮大根
朱印押し仕上げる御札冬温し

岩本充弘
冬初め大佐渡小佐渡濤高し
廃村を知らぬ野仏に木の葉散る
観光の蝋の坑夫や風花す
木の葉散る路地は昔の女坂

小又美恵子
公園を見下す廊下濡れ落葉
車窓入る朝日眩しき冬初め
玄関で飛びつく子より蜜柑の香
ざつくりとセーター着込み始発バス

茅島正男
冬はじめ暦も枝も透けにけり
ブナ林落葉集めし布団敷く
広告も重ね着をする年の暮
男松菰の腰巻き冬はじめ

川村清二
天日受け窓辺で踊る吊し柿
静けさも落葉しぐれで騒がしく
冬近し菰を巻く手の離れ業
晩秋の粕尾峠の蕎麦の味

小林美智子
最後まで捻らぬ蛇口冬初め
口紅もママと揃ひの七五三
風下を避けて取り巻く落葉焚


高島文江
地に触れてピカソの色の柿落葉
落葉して街路樹空へ背伸びする
初冬の雲塊まりてちぎれけり
筑波嶺のくつきり見ゆる冬はじめ

田中鴻
藪の中声を響かせ鷦鷯
新設の築山の上落葉舞ふ
湯の宿の谷の流れに落葉浮く
初冬の陽干し大根をしなびさせ

田仲晶
犬猿の隣リヘ焚火煙追ふ
ネオン道一つはづせる落葉路
息継ぎの太き山風落葉舞ふ
借りて抱く嬰のふつくらと冬隣

とこゐ憲巳
落葉路そつと踏みつつ朝散歩
芋焼きのコツを教へて落葉焚
ボーナスも紙一枚の父力
人の輪のしだいにふえて落葉焚

永松邦文
冬はじめ母娘嵯峨野へ旅たてリ
柿落葉の栞かさばる文庫本
散紅葉露天の湯壼染めにけり
夕暮てマロニエの葉の不意に散り

仁平貢一
作り置く妻の巻繊冬はじめ
単身の味噌汁からし冬はじめ
風を得て落葉階段駆け上がる
遠き日の斑猫埋む落葉かな

福田一構
金色の風こまやかに落葉掻き
夕日うけ打ち振る鍬や冬はじめ
燗酒や師の喜寿祝ふ祝うた
見上げれば残る枯葉に大夕日

堀江良人
冬の入り夜雨の音に力なし
鉄橋を過ぎる風足冬に入る
水道のぬくみ残るや冬の入り
枯葉掃く老女の腰の低さかな

三澤郁子
落葉してダム底の村へ径つづく
柿落葉今朝あたらしき箒の目
風残しゆきし落葉の色あまた
躓きて銀杏落葉を散らしけリ