第20回 平成10年1月23日
アーバンしもつけ


森利孟
風花や総身をくづし木偶の泣く
雪の朝音あげて沸くエスプレツソ
余り菜をなにかと加へ齊粥
福豆や画面の並ぶ監視台

会田比呂
野は闇に眼前に雪降り初む
地吹雪や海へ流れて逆上る
埋火や刻みの粗き灰ならし
冷えてより青菜匂ヘリ七日粥

石本充弘
七草の粥ふつふつと国訛り
細雪眉毛を濡らす露天風呂
一山の所領の社雪深し
退治さる神楽の大蛇元署長

小又美恵子
一列に湯気上げ歩く雪の朝
凍星や靴音高き熟帰り
「ただいま」と懐より出す石焼芋
七草粥啜りて祖母の歌想ふ

片山栄機
小鳥来て冬芽を数ふ朝の庭
雪楽し犬人ペアの散歩跡
白息を継ぎ駅伝継ぎゆく
炬燵寝の球技観戦ひもすがら

川村清二
大吉を引き揚々の初詣
七草を採って子供に言ひ伝へ
お焚場に積まれし両眼の達磨かな
雪をかき顔を出した福寿草

後藤信寛
白銀の雪を欺く兎かな
白銀の鷹を欺く自兎
新雪を我が物顔に二本線
深雪にエッジきかせてカービング

高島文江
七草をすすれる口のはひふへほ
雪止んで木椅子ソファのごときかな
上燗屋泣き出しさうな雪達磨
粕汁や風がトタンを叩くきをり

田仲晶
泣き癖の一つ七癖寒茜
白息を次ぎ正論の決めて欠く
雪晴れやオカリナ復習ふ小学校
卓に置く七草籠の裏表

永松邦文
割箸をみどりに染めし七日粥
荒れし手で串打つ女雪催ひ
朝の雪さくさくと鳴り文届く
日の丸に挙手当直の息白し

仁平貢一
那須岳を借景にして雪見酒
法蝋を数へし女春を待つ
寒風や女土工の手信号
ぼたん雪舞台を蹴りし女形

福田一構
降る雪や行方案ずる鴉かな
老いの手で七種はやす粥の味
七種や土鍋にかほり溢れしめ
寒稽古師のふり真似る豆剣士

堀江良人
屋根の雪すべりて庭の闇を打つ
陽の光鳥声も無し雪の朝
瀬に迫り初雪積もり川細る
盛る椀の色鮮やかに七日粥

三澤郁子
淡雪やヒマラヤ杉に積り初む
なづな粥正座に慣れし宣教師
一夜にて径を隠せり雪の量
レストラン窓は雪野につづきをり