第29回 平成10年10月23日
アーバンしもつけ

森利孟
鍋据ゑてはやカラオケの芋煮会
通りやんせの唄の信号後の月
アナウンスの保母の良く褒め運動会
残菊やひねりし鶏の毛焼きして

会田比呂
篁の揺れ自ずから十三夜
犬釘の浮く引つ込み線藪からし
棒立てる事から始め里祭
ひね芋の土間にこぼるる芋煮かな

田仲晶
頬杖の肘やはらかに十三夜
沼一枚被ふ月光雁渡し
芋煮会舌が覚えの故郷の味
茸汁熊撃ちにして宿の主

岩本充弘
口紅の薄きルージュや秋時雨
芋煮会酒客しきりに国訛
湯もみ唄外へ流れて十三夜
佐渡岬流人の墓地の彼岸花

川村清二
還暦を迎へし朝の寒露がな
秋深し匂ひ棚引く芋煮会
換気扇吹き出す煙秋刀魚かな


田中鴻
十三夜初穀物も供へあり
戸を立てて栗名月の酒を酌む
輪を作り幼稚園児の芋煮会
河原に一家総出の芋煮会

とこゐ憲巳
各々に輪の不揃ひの芋煮会
芋煮会鍋に似合ひの大杓子
食べごろの蓋開け多き芋煮会
老若の年の差のなき芋煮会

永松邦文
住職の姉さん被り芋煮会
円陣を解きてをはりの芋煮会
太葱の芯の甘みや失塗り椀
男体山の尾根碧々と十三夜

仁平貢一
追分に座る野仏彼岸花
遠き日の恋とどかざる十三夜
友ありて話の続く蕎麦談義
十三夜隣町より木遣節

福田一構
大鍋を洗つて終る芋煮会
まづ味を誉めて給仕の芋煮会
無人駅終車の尾灯無月かな
稲の穂を添へて師よりの候文

へんみともこ
閉てし戸の半ばを開けて十三夜
後の月とろ火のままの煎じ薬
顔ぶれの変はり二度目の芋煮会
気まぐれに螺旋のひかり鳥威

堀江良人
霜降や翡翠色して川澄みぬ
里田呑み荒れし余笹川に野分かな
川下へ風向き変はり後の月
ふぞろひの割箸並べ芋煮会

三澤郁子
十三夜木立隠れの館の灯
辛口の地酒が話題芋煮会
風凪ぎて茶臼山頂秋麗
泥芋をどさと置きある厨ロ