第51回 平成12年8月25日
アーバンしもつけ



池田孝明
盆踊り孫に手振りを教へつつ
雨戸より音のあふるる秋出水
段々畑遠くに浮かぶいわし雲
梅干しの匂ひのこれる物干し場

岩本充弘
稲を刈る太閤検地の隠し田に
国後島を引き寄せてゐる鰯雲
隠し井の昔を今にこぼれ萩
実のひとつ口に含みて早稲田刈る

大垣早織
赤城より筑波へ渡り鰯雲
白萩や主の留守を伝へられ
それほどは呑気に見えずきりぎりす


片山栄機
こぼれ萩車掌に切符渡す駅
仏法僧釣り船滑る川の堰
街を抜けわが町で見る鰯雲


川村清二
大文字三毳の山を焦がす夜
枝豆を一つ手に取り後止まず
無人駅降りたる先の乱れは義
被写体の花に添へしや鰯雲

佐藤美恵子
萩の花おじぎ上手の子の笑ひ
病窓を照らしてとぼる花火かな
鰯雲峡の大橋吊り上げて
靴履きし背の子と見上げる鰯雲

田中鴻
白萩のあふる旧家の庄屋門
墓所までの萩のトンネルくぐりけり
鰯雲パソコンで繰る時刻表
杉木立間に見える鰯雲

とこゐ憲巳
仲人の話のつかへ天高し
天ぷらの魚歯にくづれ遠花火
送別に「百恵」の話し羊雲
音と火を後先にして遠花火

栃木昭雄
朝礼の校歌斉唱鰯雲
男体山にゐまします神鰯雲
詣で道子の道もまた萩の道
こぼれ萩踏みしだき来る通夜の客

永松邦文
機音にいつしか慣れて鰯雲
鯖雲や人無き町を風抜けて
かなかなや芋羊羹屋の人集り
扉を閉ざす煉瓦館の花カンナ

仁平貢一
消灯の窓に零れし萩の花
尼寺の道に沿ひたる萩の花
出島より傾き伸びし鰯雲
聞き役に徹してをりし秋扇

福田一構
端座して面をはづせば秋の風
秋暑し息つぎ道衣に霧を吹く
川隔て叫ぶ漢裸の測量士
肌脱ぎて老母羞じらひの乳房館

へんみともこ
放鳩の弧より散りぢり鰯雲
萩の花池のほとりの石の椅子
水面へあふれんばかり萩の花
水やりのホース長なが松葉牡丹

堀江良人
切通狭めて萩の豊かなる
こぬか雨萩の小花を揺らしをり
仮眠より覚め真夜中に桃すする
鰯雲妙義の岩の弥高し

三澤郁子
鰯雲尺の木で組むログハウス
墳丘をからめる蔓や葛の花
駅の名は会津高原鰯雲
野の萩の紅深く吹かれをり