第73回 平成14年7月
すぎなみき・やしお合同


利孟 敬子 芳子 信子 栄機
清子 郁子 良人


一構
産院を出て婿との冷やし酒
ぬば玉の闇に夜振りの火の粉撒く
古里の闇は瀬音と蛍かな
老鶯の声を献上御用邸
峰雲の海のひろがる峠かな

信子
夏雲や歩く速さの電動椅子
夕虹や二胡の奏でる童歌
点滴の片腕捉ふ薄暑かな
日盛の竿にあづけし洗い靴

芳子
抱き上げし嬰の匂ひや夕端居
梅漬けしと友の便りの太き文字
夜振火や岸辺の重き闇揺れて
梅雨晴間家庭菜園一巡り


良人
日盛りや路地にひそかな風通ふ
颱風過煌めく粒の機影かな
山峡にただ一つの火夜振の火

昭雄
夜振火の風に色あり匂ひあり
夜振火の闇をつらぬき?走る
日盛や茶道教授の背筋伸ぶ

郁子
ひとつ帰依一つまた消ゆ夜振りの火
一粒の雨透きとほる額の花
つがひ鳩廂にこもる大夕立


清子
水鶏鳴くカードで開けるホテルの扉
滝見茶屋滝に真向ひ並ぶ椅子
青苔の寺あくせくと亀の行く

敬子
牧水の暮坂峠遠郭公
日盛りの行者確かな足運び
日時計の投影盤の梅雨の冷え

栄機
梅雨晴間すべての窓の風を呼ぶ
夜振火の川面に白き膝頭


ともこ
日盛りの砂利道横切り猫車
県境の長きトンネル合歓の花

ミヨ
あめんぼう川面の雲を裁ちゆけり
穴掘りて犬の巣ごもり日の盛り

利孟
バイク便の漢沈澱日の盛り
もののけの棲む夜振火の外の闇