第77回  平成14年11月17日
馬頭吟行


栃木、茨城県境:鷲子神社

岡田耕
観音の石の微笑み冬紅葉
千年の杉の根元の藪柑子
山茶花の花ふるはせて結ふ神籤
からすやまとりのこみちのもみぢかな
散米を鳩のついばむ神の留守
広重の道中地図や初時雨

堀江良人
山埋める紅葉の壺中よりの天
山深き鷲子路の紅葉かな
奉納の石の梟枯葉散る
毛氈に据ゑし竪琴紅葉散る

大塚登美子
県境の山の社の柚子の御饌
漆黒の闇に杉生ふ秋祭
鷲子山の祭の果てて秋惜しむ
山神の座せる闇へ新米を撒く
思川の鯉小春日にやすらげり

とこゐ憲巳
冬に入る千年杉の守る社
紅葉照る寺にハープの木霊する
商工会まつりの町に柚子香る
禰宜のでて車の整理柚子香る

三澤郁子
千年杉見上げて息の白木かな
帯ときや山の社に親子ゐて
頬に指あてし露座仏木の実古
バス停に置かる木の椅子小鳥来る

柏崎芳子
天覆ふ千年杉や神の留守
紅葉燃ゆる山にハープの音満つる
水澄める皮に陰岩ちたけ蕎麦
柚香る坂の参道風立ちぬ

泉敬子
鷲子山の千年杉の落葉かな
梟の鷲子山を守りて無く
裏山は八溝の山よ柚子の里
慈母観音燃ゆる紅葉を天蓋に
紅葉寺ハープを抱く女ゐて

会田比呂
御手洗の乾きし杓や散り紅葉
神殿の扉の細く開き今朝の冬
神木の紙垂の痛みて神の留守
枯葎日がな音無き田の煙

石塚信子
広重の死絵にほのと秋灯し
猪狩の段取りを決め日の高し
金色の他は地に無く銀杏散る
秋の山重なる奥の奥に山

大貫ミヨ
参道の茶店に試食の柚膾
慈母観音もみぢ大樹を天蓋に
野仏や零余子ひとつを残す蔓
暮るる日を返す白壁柿すだれ

片山栄機
柚子を売る山の社の杉木立
大工の名記さる山門紅葉山
品書きのまつすぐ貼られ泥鰌鍋
詠み人の知れぬ石碑や泥鰌汁

栃木昭雄
淀みては流るる紅葉鯉が追ふ
頂上の千年杉やとろろ汁
でこぼこのものを選びて柚子の風呂
飲み残すワインのボトル秋深し

標幸一
そのままに残す足跡霜柱
木枯しのげんこつのごと頬を打つ
茜さす照り寒菊の揺らぐかな
夜なべの手休めて篤きココアかな

森利孟
寒風や千年杉の肌よれて
献楽のハープの指のかじかめり
二十人前の大釜走り蕎麦
堰落ちし水のたちまち澄めるかな


黄葉の御前岩と武茂川