第270回 令和元年7月14日
兼題 水羊羹 風鈴

   利孟
 輪王寺御用の老舗水羊羹
 梅雨寒や音立てて引く旅鞄
 野地蔵の崩れし目鼻栗の花
 一口坂の風得て軒風鈴
 おにぎりの海苔ぱりぱりと藤は実に

   比呂
☆夕菅や遠流の島へ定期便
☆滴りや洞の小仏目鼻欠き
△烏帽子揺る夏越神楽は風に乗り
・おはぐろのへらへら石に息づけり
・むざと噛む子の胸濡らす水瓜かな

   昭雄
☆賑やかに風連れ来たる風鈴屋
・後ろ手に風待ちつづけ風鈴屋
・昼も夜も風鈴風に応へづめ
 飛んでゆけシャボン玉には夢がある
 水羊羹久しぶりだと父の箸

   美恵子
△子離れやつひの二人の水羊羹
△遠花火文字の余白の恋心
・風鈴や君と二人で撮る写真
・千の音の風鈴くぐり引くみくじ
・君の手の紅い風鈴恋みくじ

   ミヨ
△廃坑にも神酒をそそぎて山開
△話し花さき御持たせの水羊羹
・嫁がずに継ぎたる杜氏星迎
 風鈴や竹屋根裏の控の間
 泡盛やあらき桫欏風島泊

   木瓜
△緊張の喉を解して水羊羹
・新妻の風鈴をそつと下ろしけり
 そよそよとほぼ満足の夏の蝶
 頑固爺煙振りまく渋団扇
 ひきこもる内臓花火ぶち開く

   英郷
△風鈴の金魚微かに動くかに
 風鈴の微かな便りに耳澄ます
 水羊羹開き眺めつ畏まる
 茶に添へし水羊羹はなめらかに
 風鈴の舌にて風のあるをしる

   信子
・風鈴の笑ふ声かも風の来て
・牧の朽ち閉ぢ荒梅雨のません棒
・梅雨深し文字のかすれるボールペン
 未来図のラッピング電車や水羊羹
 校庭に響く球音雲の峰

   敬子
・掛け置きの弓の艶失せかの子百合
・末娘と父と揃ひの夏帽子
・同姓の多きふる里田植歌
 主の祈り母の愛せし赤き薔薇
 九十才の昔語りやガーデニア

   雅枝
・ビードロの紅の華やぎ江戸風鈴
・風に身をまかせ舞ふなり軒風鈴
・矛納めあたたかな茶と水羊羹
 南部風鈴の音涙腺に沁み入りて
 ひと切れを母に供へて水羊羹

   聖子
・駅に吊り回す風鈴町起し
・水羊羹母より継ぎし重箱に
 雨の軒風鈴の音の幽かなり
 石段に散る病葉や廃れ寺
 休憩に食ぶ水羊羹味深し

   良人
・軽やかに老舗の軒の鉄風鈴
 思ひ出の日光旅行水羊羹
 開くたび風鈴なりぬ玄関口
 錆色の南部風鈴音高し
 風鈴に汗の納まる夜の床

   巴塵
 ケとハレの内外をくぐる夏越かな
 金魚絵の夜店の風鈴客を呼び
 風鈴の鳴ればうるさし止めば蒸す
 水羊羹ゆるきタスキの祖母の味
 夏越祭ちとせを願ひ綯ふ茅