第271回 令和元年8月11日
兼題 秋めく 蛍

利孟
 人通るたびに舞ひ出て揚羽蝶
 鮎の棲む水に身沈め鮎釣り師
 生まれ出し痕空蝉の二つ割り
 棚経を読み熱き茶とおしぼりと
 朝飯の汁の香りや秋めけり

 昭雄
△呆けたる母を叱りて泣きて盆
△まつすぐに北向く鉄路秋立てリ
・秋めくや切符木箱に無人駅
 裏井戸にとりどり沈む夏野菜
 欲しきとき欲しき風やる渋団扇

 聖子
△ゆき違ふふたりの手紙盆の月
・草笛を捨ておしらじの滝しぶき
・大胆に盛る夏料理母のゐて
・朝顔のまだ覚めきらぬ色をして
・秋めくや丈夫な体父母に受け

 雅枝
△はらからのひとつの西瓜切りわけて
・園児らの紺ベレーや秋の風
・棚経の先づしはぶきて始まりぬ
・鳴く雄と鳴かぬ雌蝉目合へり
・御霊待つ部屋を守りて茄子の馬

 比呂
・秋めくや雲たひらかに流れゆく
・花鳥風月淡く廻りて岐阜提灯
・御神体失せたる社油照り
 くり返し手〆重ねて祭果つ
 地震過ぎておはぐろとんぼ湧き出づる

 信子
△ぶら下がる手足の重さ極暑かな
・八溝嶺の鮎の黒影さやぐ川
・盆支度終へておのれの晩御飯
・梅雨明けや歩を止めて入るものの影
・直立の青さや盆の杉並木

 ミヨ
△小切子の斎く五箇山秋めきぬ
・晩涼や念仏平の小屋開けて
・浜茄子や砂洲に裾引く利尻富士
・里風に袂すくはれ盆踊り
・帰省子の指すぐ動き踊り笛

 巴塵
・連山のまづ秋めける那須ケ岳
・「華」に隠れる六つの十の字秋ちかし
・盆灯籠流し蛇籠に捕はれて
 夏草を刈り蟷螂を驚かす
 秋めくや曲彔の朱の庭に映え

 良人
・夕暮の雲のちぎれて秋めきぬ
・歌声に囃子太鼓の踊りの輪
 谷川の流れの澄みて秋めきぬ
 夕日射す野に闇迫り秋めきぬ
 秋めくや夕焼雲の色増しぬ

 英郷
・新盆や茄子の馬にて早や来たる
 茄子の馬面影浮かぶ道端で
 とき刻み巡り来たりて初盆や
 大嵐去りたる後は秋めきぬ
 蜂が舞ふ遅き黴雨明け待ちかねて

 敬子
 紫陽花にほつと息づく押し車
 恙なき卆寿の暮し鳳仙花
 裏道にぽつぽつ現れし初螢
 夏木立夕風わたる巴波川
 五十年つけし日記や梅雨晴るる

 木瓜
 老ゆることに寂しくもなし秋風鈴
 秋めくや隣に声をかけてみやう
 白桃を描く乳呑み児の尻に似て
 秋めくや小鳥の声の閃けり
 秋風や色も速さも薄くあれ