13:00 第1講座 模擬授業道場
         参加者による模擬授業(希望者各10分)
         松本俊樹による介入、演習、代案あり
 
 
1 向山洋一氏が語る授業のポイント10
 
 02年11月30日、岡山でのエクセレント講座で「全文要約」の模擬授業に松本は挑戦した。授業後の解説時に示された授業のポイント10である。

(1)全体の枠組みの是非「要するにその授業では何がいいたいのか」
(2)授業での主たる発問は何か。
(3)導入、最初からつかんでいるか。
(4)授業では何がポイントなのか。
(5)リズム・テンポがあるか
(6)対応して個別に評定しているか
(7)全体への目配りができているか
(8)指示「・・しなさい」が端的に明確になされているか。
(9)子どもの活動が促されているか。
10)授業全体のあたたかさがあるか
 
 以下、松本の学びを書き記す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2 (1)全体の枠組みの是非「要するにその授業では何がいいたいのか」
 
 授業を構想、構成、組み立てるときにまず考えることが「要するにその授業では何がいいたいのか」である。授業後に向山氏から「授業では何を言いたいのかひとことで言ってご覧なさい」と問われて明確に答えられるかどうかである。
 ではその一言(一文)をどのように作り出すのか。これも「向山型」に解ありである。「向山式要約指導法」に学べばよい。要約の仕方を応用するのである。

1 キィワードを取り上げる。
2 3つのキーワードを確定する。
3 最も大事なキーワードを文末にした体言止めの一文にする。

 
 5年生の3学期に「雪の多い地方」の事例がある。
 キィワードを思いつくままに書き出す。「雪国」「工夫」「備え」「くらし」「生活」「雪害」「出稼ぎ」・・・。指導要領、教科書などから洗い出せばよい。
 次に第1キィワードを確定する。「雪国」としよう。
 では「雪国」がどうなのか。主語「雪国」に対応する述語を決める。
 「雪国は雪が多い」を教えるのか。ちがう。雪が多い事実は示すがそれだけではない。何らかの「工夫」があるのだ。「雪国の工夫」にしよう。
 さらに「何を工夫」するのか。「くらし」または「生活」である。
 3つのキーワードを使って一文にしてみよう。

ア くらしを工夫する雪国。
イ 雪国のくらしの工夫。
ウ 雪国で工夫するくらし。
 
 3つのキィワードだけを使っても順序を変えればこれだけニュアンスがちがってくる。
アかイが妥当であろう。
 「ア くらしを工夫する雪国。」なら「くらしの工夫」を示し調査させ田子に雪国の特徴に迫る授業になるだろう。「イ 雪国のくらしの工夫。」なら「雪国」とはどんなところかを先にとらえさせて「くらしの工夫」を調査させる授業になるだろう。
 いずれの授業もおもしろく興味関心を深める授業になりそうだ。「数字」「写真」「実物・もの」ももちろん用意する必要がある。IT上にもたくさんの情報・資料がある。
 
 
 
3 (2)授業での主たる発問は何か。
 
 いわゆる中心発問である。補助的に問われるとしたら「主たる発問はいくつあるのですか」「その順序を支えるロジックは何ですか」。
 発問を考えるには「発問論」に学ばなければならない。
 すぐれた発問にはいくつかの原則があるのだ。
 とりあえず思いつくままに書き出してみよう。

1 知覚語で問え。
 
 例を示そう。このようなすぐれた発問の例を20も30も即座に出せなければプロの教師とは言えまい。
(1)「目を閉じなさい。(教師朗読)家にはドアがありました。ドアを開けて中に入り   ました。何か見えてきましたね。何が見えましたか。」
   (「雪」三好達治:向山洋一氏の発問)
(2)「バスの運転手さんの仕事は何でしょう」
 →「バスの運転手さんはどこを見て運転していますか」(有田和正氏の発問)
  「駅のホームの車掌さん、笛は誰に聞かせるのですか。」(同上)

2 選択させる言葉で問え。
 
 「話者の目はどこにありますか」「話者は大人ですか子どもですか」「

3 多様な答えが出る発問をせよ。
 
 「この写真を見て分かること、気がついたこと、思ったことをノートに箇条書きにし なさい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
4 (3)導入、最初からつかんでいるか。
 
 授業の一番いいところから持ってこなければならない。
「向山の前で授業するんだから一番いいところを最初に持ってこなければならない。い いところに行くまでに終わってしまう。」(向山談・文責松本)
 導入・つかみの原則もいくつかある。「(部分を示して)何だろう」「簡単な問題を次々と示してまきこむ」「訳の分からないモノを示して何だろう」「知っていること、人気のあるモノを示してつかむ」
 
 海浦小での河田孝文氏の授業は「導入」で子どもを巻き込んだ授業の一例だった。
 最低限「無駄な言葉を入れない」「どうでもいいことを入れない」「どうでもいい発問をしない」を意識しなければならない。
 
5 (4)授業では何がポイントなのか。
 
 (1)と重なるようだが違う。「ポイント」をおさえていなければ焦点ぼけの授業になる。せっかく実践したのに我流点睛を欠くという授業になる。
 
 「要約指導」では何がポイントなのか。「個別評定」である。
 台上前転では何がポイントなのか。「踏切足が揃う」「まっすぐまわる」である。
 ・・・と言うように。
 
6 (5)リズム・テンポがあるか
 
 「リズム・テンポ」はライブで体験するしか身に付かない技能である。この上に「自然な流れ」も向山氏は強調される。
 音読「続け読み」時の重ね読み、児童に板書させたあとの発表時に待たない、余計な言葉を挟まないことなどが思い浮かぶ。
 
7 (6)対応して個別に評定しているか
 
 どこが良くてどこが行けないのかを明確に児童に示すから向かう方向がはっきりするのである。写真の読みとりで「数」が大事なら数について個別評定、意見の内容のレベルアップを図るなら意見内容を個別評定するのである。
8 (7)全体への目配りができているか
 
 これは例えば「空白禁止の原則」「一時に一事の原則」「全員の原則」「所持物の原則」細分化の原則」が当てはまる。
 「3問目ができたら持ってらっしゃい」「早くできた人は・・・をしなさい」「まだの人も持ってきなさい」などの指示である。
 
9 (8)指示「・・しなさい」が端的に明確になされているか。
 
 文末が濁る教師がいる。我慢できない。
 ある研究授業、「ごんは持っていったんだね。と言うことは?」
 何を答えればいいのか不明である。何人かの気の利いた子は「優しい気持ちです」「償いの気持ちからです」などと答えている。私なら「ごんは止めずに持っていきました。その部分を読みます。(一斉読み)この時のごんの気持ちを短くひとことで表してご覧なさい。ノートに書きなさい。」
 
10 (9)子どもの活動が促されているか。
 
 作業指示が重要なのである。問われて挙手をするのか、ノートに書くのか、一斉に声に出すのか不明だから集中力がとぎれてしまう。
 子どもの活動を促すには次のような大事な点がある。

1 作業指示を明確にする。
 「ノートに書きなさい」「一文を抜き出しなさい」「線を引きなさい」「指さしな
 さい」など。
2 できているかできてないか確認をする。
 「3つ書けた人から持ってきなさい」「書けた人は手を挙げておろす」「隣と確認
 しなさい」など。
3 できている児童を強くほめる。
  「ノートに○をつける」「3つも書けた、天才」など。
4 できない児童を励まし手だてをうつ。
  「赤鉛筆をなぞらせる」「板書を写させる」など。
5 個別評定をする。
6 物・時間・場を与える。
 
 
11 10)授業全体のあたたかさがあるか
 
 次の事例がぴったりとくる。

 <問題> (「教育トークライン」97年3月号、高橋正和氏出題)
 自分の名前しか書いてない作文に赤ペンで何を書きますか?
1)名前の1つ1つに丸をつける。
2)書き出しの例文を書いてやる。
3)余白に「がんばって書こう」と激励文を書く。
 

[正解] 1)名前の1つ1つに丸をつける。
  赤ペンというのは添削を通して子どもたちにやる気を起こさせ力をつけていくことです。
  基本というのは良いところをほめてやる。そしてその内容が説
得力がある。相手に納得できるものである。そういうことが大事
なわけです。例えば自分の名前しか書いていないのがあります。
これでもほめなくってちゃならないと仮にするわけです。そのとき
例えば名前が良く書けてて名前に丸をつける場合もありますけど、
もっとほめようとするならば、1つ1つの字に丸をつけるわけです。
全部、一字一字、丸が4つもつくじゃないですか。この上で花丸を
つけてやればいいわけですよ。
 ほめるというもはここまで徹底しなくちゃだめ。
 (出典「教育トークライン」誌96年5月号)
 
 松本は次のようなメールを書いた。

 >  1)名前の1つ1つに丸をつける。

 向山実践の思想が表れています。
 この事例だけにとどまっていては向山実践には近づけません。
 「典型」にしなければなりません。しかも自然と。
 何の意識もないうちに同じような場面で
 同じようにできなければなりません。
 松本はその点でまだまだ至らぬ教師です。

1 テスト用紙を配る。
  「名前」しか書けない子。
  その時、この添削の事例と同じように
  文字ひとつひとつにいとおしさをこめて○をつけることができるか。

2 その前にいろいろなことが頭を駆けめぐる。
  「自分の至らなさ」
  「書けない子への若干(かなり)の絶望感」
  ・・・・・
  それでもTOSS教師だからと
  「赤鉛筆でうすく書く」

3 そのなぞった字にいとおしさをこめて
  ○をつけることができるか。
  これだけやっているから・・・と
  不遜にも答え・結果を求め過ぎてはいないだろうか。

 
 
12 授業以前(?!)
 

1 声が通る
2 視線
3 服装
4 持ち物
5 前黒板
6 履き物
7 時間
8 立つ位置
9 名前
10 教材研究・修業