第9回 ALL向山洋一エクセレント講座02年11月30日(金)
TOSS模擬授業段丘審査試運転 模擬授業資料
向山型国語全文要約指導への挑戦
TOSS関西中央事務局 松本 俊樹
1 説明文「花を食べる」(大阪書籍5年上)の全文要約模擬授業プラン
1 十分に読ませる。
(時間の都合で各自音読)
2 「全文を30字以内に要約しなさい」と指示。
(黒板に書かせて評定・・・・時間の都合あり)
3 全文要約の方法を示す。
(1)まとめの段落を探しなさい。(向山氏による「法則一」以下同じ)
最初の段落・最後の段落のどれですか。
「第1段落と第15段落」
■第1段落
湯飲み茶わんに、淡いピンクの八重桜の花がういている。桜湯である。め でたいことがあるときに、お茶の代わりに飲むとされているが、きみたちは 飲んだことがあるだろうか。また、魚のさしみをもったさらに、小さなきの の花が置いてあることがある。これを食べたことがあるだろうか。あんなも の食べられるのかと思った人もいるだろう。あんなものどころか、そこには、 日本人のちえがかくされているのである。そのちえとはどんなものかさぐっ てみよう。
■第15段落
このように、花を食べる日本の伝統的なちえは、今日にも受けつがれ、さ らに発展させられてもいる。むろん、世界のどの国も、それぞれにすぐれた 食文化をもっている。多くの花をいろいろな形で味わい、楽しむことは、日 本人の育ててきたすぐれた食文化の一つである。それは、これからも活かし ていくことが望まれるものである。
→「『このように』とあるから最終段落がまとめの段落」
(3)考えの書いてある文を見つけなさい。(法則二)
「たとえば」を入れると見分けることができます。
「第1文と第3文が重要」
■第1文
このように、花を食べる日本の伝統的なちえは、今日にも受けつがれ、さ らに発展させられてもいる。
■第3文
多くの花をいろいろな形で味わい、楽しむことは、日本人の育ててきたす ぐれた食文化の一つである。
→第1文は第1段落のキーセンテンスに重なる。
「あんなものどころか、そこには、日本人のちえがかくされているのであ る。」
したがって、第1文が重要。
(4)1文しかないときは接続助詞に目を付けて2文に分ける。(法則三)
大切なフレーズに注目させる。
(この教材では該当なし)
(5)もっとも大事な一語を選びなさい。(法則四)
第1段落、「花を食べる」か「日本人のちえ」(第1段落)
第15段落には「日本の伝統的なちえ」とある。
→「ちえ」
4 全文要約させる。
■第1段落キーセンテンス
あんなものどころか、そこには、日本人のちえがかくされているのである。
■第15段落キーセンテンス
このように、花を食べる日本の伝統的なちえは、今日にも受けつがれ、さら に発展させられてもいる。
→ 受けつがれ発展させられてもいる花を食べる日本の伝統的なちえ。(30字)
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2 私はかつて説明文指導の方法を知らなかった
松本が小学生6年生のころのことだ。段落の要約指導を受けた。松本の要約がことごとく×だった。しかし、なぜ「正解」が正しいのかは不明だった。だから、何回要約の練習をしても○はもらえなかった。
教師になって1年目。向山洋一氏は、「国語教育」誌(明示図書)の連載(84年11月号)で説明文の指導法を公開した。
(連載8回目「ついに説明文の授業を公開する」→「国語の授業が楽しくなる」明治図書に所収p80〜)
しかし、松本の力量の未熟さもあって追試できなかった。次のような内容である。
説明文の指導のポイント
1 十分に読ませること
2 トピック・センテンスを探させること
3 要約させること
そもそも十分に読ませる方法を知らなかった。知っていても十分に使えなかった。
自分で「トピック・センテンス」を探せなかったのだ。
補足1:この時点では「問い・答え」の指導は示されてなかった。
「花を見つける手がかり」(言語教育技術学会での向山氏の模擬授業による)
補足2:連載のつづきに「教科書の文章の批評をする授業」も示されている。
「十分に読めるようになった後は、いきなり結論である。」という。やはり十分に読めるようになることが重要だ。変化のある繰り返しのある音読指導が必要である。
今なら、追い読み、交代読み、場所変え読み、指名なし朗読、たけのこ読みなどを指示する。題名の横に○を10個書きなさいと言う指示(向山実践)も重要である。
ではその結論とは何か。
「この文章の要点となる文章を一文だけ探し出せ。」
向山氏が指摘するように「トピックセンテンス」(「理科系の作文技術」木下是雄)指導である。向山氏は言う。
「私は『文章を読んだら何を言っているのか要点を正確につかまえられること』が第一 だと考えてきた。これが文章指導の基本であって、後の細かいことは枝葉である。」
この指導は「この話は何がどうした話ですか」という発問に凝縮されている。
「その次は、全体を要約させる。」のだ。
「全体の文章を三十字以内で要約しなさい。」
「一年もすると、私が要約した文章とそっくりなまでになる。」という。
「ここまで指導して、私は説明文の指導の初歩を教えたと安心する。」という。
この「初歩」の指導すらできなかった。松本自身が「要点となる一文」を探し出せなかった。たとえ探し出せても本当に要点なのか自信がなかった。自信がなかったから授業にもできなかった。
3 全文要約指導が公開される
「教室ツーウェイ」誌(明治図書92年11月号)で「段落要約指導から全文要約指導へ」が向山洋一氏から示された。松本が指導できなかった「全文要約指導」が公開されたのだ。
向山氏は言う。
「全文要約指導法は、三つの点で段落要約指導法と違っている。」
ずばりどこが違うのか。向山氏は論文の最後に述べた。
全文の要約指導は、次のところが違うという。
一 全文要約を三十字以内とする。
二 重要な段落を探させ、重要な一文を選び出す。
三 重要な一文を補完する文があるときは、その文も含める。
向山氏が紹介した実践を発問指示を中心に抽出して示す。
(「教室ツーウェイ」92,11 *は松本の学び・気づき)
********************************************
1 十分に読ませる。 *1
2 「動物の体」(東書)全部の文章を三十字以内でまとめなさい。 *2
ア・教科書を見ながらやりなさい。
イ・句読点を数に入れなさい。 *3
3 「書けた人は持っていらっしゃい。」
・十点満点で評価
「間違えていれば、0点です。」(向山学級ではいなかった。) *4
いい線をいっていれば二点、三点
「点があるということは、まんざら見当はずれではないということですね」注釈。
4 10分過ぎた頃「できた人は、黒板に書いてごらんなさい。」
5 要約するとき、大切なことがありましたね。
まず第一は、もっとも大事なことばは何かと言うことです。 *5
6 次に大事なことは、そのことばを文章のどこに置くかということですね。
・文章の最後 *6
7 文章全体を要約するときに、何に注目しますか。
・文 *7*8
8 このような大切な文は、どこに出てきますか。
・話のはじめ ・話の終わり *9
9 そうですね。ふつう、話のはじめか終わりにあります。
この文章の場合、どれが大切ですか。
見つけて、一つの文に線を引きなさい。
・ここで、最初の段落にある文と最後の段落にある文が対応していることを教えた。
10 三十字にまとめることを指示。
できた子から黒板に出て書かせた。
全員同じ文である。○をつける。点を付ける。
11 みんなが選んだ文は、その通りでした。では、次に大事な文はどれでしょう。
12 この文も付け加えて、全文をまとめるとどうなりますか。黒板に書かせて採点。
採点すること二度。子どもたちの答えが同じになった。 *10
< 松本の学び・気づき .>
*1 やはり十分に読ませることが肝要。
*2 やはりいきなりこの指示である。
*3 向山学級で出た質問についての対応である。
このような点を明確に示すことも重要である。
*4 0点がいないという。これだけでも向山がっきゅのレベルの高さが分かる。
しかも、3分くらいで半分の児童が書くという。驚きである。
*5 「キーワードを確定する」作業である。
この作業は段落の要約指導でも重要である。
*6 体言止めの指導である。
段落ごとの要約指導でも重要である。
*7 キーセンテンスの指導である。
授業記録では子どもたちからいろいろな答えが出ている。
「大切な場所」「大切なこと」「大切なことば」「大切な段落」「大切な文」など が出たという。
「そうですね。みんな、よく分かっています。」と向山氏はすべて認めている。
その上で確定している。
「しかし、正確に言いましょう。」
*8 この部分が不明である。
「私は『文』に注目することを教え、文とは何かについてふれた。」
どのような内容なのかぜひ解明したい。
*9 子どもたちからすぐに答えが出ている。
既習事項なのだろう。
*10 「採点」(個別評定)場面があと2回実施している。
4 第三の方法「大切な一文を選択する」
翌年「教育トークライン」誌(東京教育技術研究所発行 申込先FAX 03-5702-238493年9月号)にて「大切な一文を選択する」部分が第三の方法と向山氏は示した。
この第三の方法には法則が四つある。
法則一 まずまとめの段落をさがす。文章全体のまとめは、最初の段落か最後の段
落にある。
法則二 まとめの段落から「考え」の文をさがし出す。まとめの段落は「考え・主
張」の文とそれを説明するエピソード・例示から成り立っている。例示の
文は、文頭に「たとえば」をつけてみればよい。
法則三 一段落が一文の時は、一つの文の中の大切なフレーズをさがす。一つの文
に「考え」と「例示」が含まれていることが多い。接続助詞に注目するこ
とで「考え」を特定できる。
法則四 もっとも大切な「一語」を選び、この言葉が文末にくるように「考えの
文」をまとめる。
さらにどのように実践されるのか向山氏は授業記録を示した。
(東書六年上「海と生物」雪谷小六年一組 九三・四・二六 (二十分間)
*は松本の学び・気づき)
********************************************
1 「『海と生物』の文章を30字以内でまとめます。」
・段落番号を打つ。 *1
2 文章をまとめるときの法則を話す。
・一番最初(頭括型)か一番最後(尾括型) *2
3 最初・最後の段落を確認する。(○をつける) *34 どれがまとめか。
・最初 1名 ・最後 0名 ・両方 ほぼ全員
・少数派の1名に理由を聞く。(答え無し)→両方まとめ *45 法則二(板書) *5
6 一段落の文をとりあげます。(一段落読む)
ここにはいくつの文がありますか。(二つ)
7 考えを述べている文(板書)とエピソードや例を示している文に分かれます。
考えを書いている文はどちらですか。線を引きなさい。
8 文のはじめに「たとえば」を入れてみれば分かります。
9 この場合どちらが大事なのか。
・考えの文
10 最後の段落。(一文)
一つの文を二つに分けている言葉があります。何という字ですか。○で囲みなさい。
・が(接続助詞)
11 ○ア〜〜〜が、○イ〜〜〜。(板書)どちらが大事ですか。
・イ 「線を引いてごらんなさい」
12 まとめの文章の確認(2つを読む) *6
13 この二つの文章から一番大事なことばを選ぶと何になるか○で囲みなさい。
・植物 *7
14 「植物」(大事な言葉)はどこに入れるか。(最後)
15 30字にします。 評定(10点満点)
< 松本の学び・気づき >
*1 この時点で「段落番号を打つ」である。それまでは何をしていたのか。
それまで「十分に読む」授業だったのだろう。
授業日時は4月。おそらく6年生で初めての説明文全文要約指導であろう。
*2 法則を示して実際の文章に当てはめさせている。
*3 細かい作業だが重要である。
*4 少数派の意見からたずねる。指名順の原則である。
*5 どのような板書か。不明である。
論文に示された「法則二」のままなのか。違うのか。
*6 このような確認も重要である。松本はすぐに忘れる。
*7 「段落→文→ことば」という指導順である。
5 QA事典に学ぶ
2002年6月、「向山型国語入門QA小事典」(明治図書)が出版された。p34に「全体文の要約文は問いと答えを対応させて」が出ている。(執筆者 松藤司氏)
次の手順で行うという。
1 大切な段落を探す。→接続詞に注目する。
2 大切な文を探す→考えの文に注目する。
3 最初の段落の考えの文をまとめさせる。
4 最後の考えの文をまとめさせる。
5 3と4を合わせて30字以内にまとめさせる。
以上の文献から「向山型全文要約指導のステップ」を以下のように提案する。
段落ごとの要約指導を経験した上で次のような指導を試みる。
1 十分に読ませる。
2 「全文を30字以内に要約しなさい」と指示。
黒板に書かせて評定。
3 全文要約の方法を示す。
(1)まとめの段落を探しなさい。(法則一)
最初の段落・最後の段落のどれですか。
(3)考えの書いてある文を見つけなさい。(法則二)
「たとえば」を入れると見分けることができます。
(4)1文しかないときは接続助詞に目を付けて2文に分ける。(法則三)
大切なフレーズに注目させる。
(5)もっとも大事な一語を選びなさい。(法則四)
4 全文要約させる。
6 松本の実践抄(五年上「花を食べる」(大阪書籍)の展開)
■第1時:5/31(金)
1 漢字・音読練習(段落ごとに正確読み)
2 第一段落を20字以内に要約しなさい。(板書)
意見1 花を食べるのは日本人のちえがある。
2 花には日本人のちえがかくされている。
3 湯飲み茶わんに八重桜の花が浮いている。
4 小さなきくの花を食べたことがあるだろうか。
5 昔の日本人の知恵をさぐる。
6 めでたい時お茶の代わりに飲むとされている。 (など)
3 第1キーワードは何ですか。
意見1 花を食べる
2○ 日本人のちえ
4 第2キーワードは何ですか。 ・花を食べる
5 第3キーワードは何ですか。 ・かくされている
6 3つにキーワードの有無を個別評定。
7 第1キーワードで終わる文にして
もう一度第1段落を20字以内に要約しなさい。
「花を食べることにかくされている日本人のちえ」
■第2時:6/3(月)
1 漢字・音読練習
2 第2段落を20字以内に要約しなさい。
意見1 日本人は昔から実に上手に花を食べてきた。
2 年間を通して絶えない花を食べてきた日本人。
3 年間を通して花が絶えることはない。
4 花が絶えないので花の多くを上手に食べた日本人。
5 花の多くを実に上手に食べてきた日本人。
6 花を日本人は昔から実に上手に食べてきた。 (など)
3 個別評定(キーワード「日本人・花の多く・上手に食べてきた」
4 再度挑戦 「花の多くを昔から上手に食べてきた日本人。」
5 第3段落を20字以内に要約しなさい。
「たんぽぽ料理を食べた経験のある君たち。」(教師の解・時間切れ・示さず)
■第3時:6/7(金) 自習課題
1 漢字・音読練習
2 第4段落の要約 「花を食べやすく工夫している私達のちえ。」
3 第6段落の要約
4 第7段落の要約
5 第14段落の要約
6 第15段落の要約
■第4時:6/10(月)
1 漢字・音読練習
2 第3段落の第1キーワード ・たんぽぽ料理
3 第2キーワード ・君たち
4 第3キーワード ・食べた
5 キーワードを使って20字以内に要約しなさい。
「君たちも食べた経験のあるたんぽぽ料理」
■第5時:6/11(火)
1 漢字・音読練習(段落ごとに向き変え読み)
2 第4段落の第1キーワード ・ちえ→私達のちえ
3 第2キーワード ・花
4 第3キーワード ・食べ方
5 20字以内に要約しなさい。
「花を食べやすいように工夫する私達のちえ」
6 花を食べやすいようにした工夫の例は何ですか。 「たんぽぽの天ぷら」
■第6、7時:6/13(木)
1 漢字・音読練習
2 第1段落の検討
「p36 8行目『これ』とは何ですか。書き出しなさい。」「小さなきくの花」
3「桜湯=これ」か?
・ちがう「飲むものであって食べる物ではない。」
「これは話し手に近い物を指し示すことば。」
4 「p37 1行目 『あんな物』とは何ですか。」「小さなきくの花」
5 このお話の問いの段落はどれですか。
・第5段落 「では、花を食べることにはどんな意味があるのだろうか。」
6 問いの文はどれですか。ノートに写しなさい。
・1段落一文
7 問いの一文字はどれですか。
・か
8 答えの言葉3つを見つけなさい。
6段落 栄養分
7段落 区別
8段落 使い道
9 「使い道」はいくつ示されていますか。
・4つ
10 使い道が示されている段落番号を書きなさい。
・9〜12
11 それぞれの段落での使い道をずばり短い言葉で書きなさい。
9段落 薬
10段落 味
11段落 におい
12段落 見た目
12 この説明文のまとめの段落は何段落ですか。
15段落
13 そのめじるしになる言葉を書きなさい。
「このように」
14 15段落にはいくつの文がありますか。
4つの文
15 4つのうちキーセンテンス・一番大事な文はどれですか。
・3文目(1文目も妥当)
16 ふつう最後(15段落)と最初(1段落)に筆者の主張が書いてあります。
このお話を30字以内に全文要約しなさい。
意見1 花を食べる日本人のちえは今日も受けつがれる日本人の食文化。
2 花を食べる伝統的なちえは日本人の育ててきたすぐれた食文化の一つ。
3 日本人の育てたすぐれた食文化の一つが花を食べる日本人の伝統的なちえ。 4 すぐれた食文化である花を食べることは日本の伝統的なちえ。
5 花を食べることは日本のすぐれた食文化の一つである。
6 花を食べる日本人のちえは今日も受けつがれている日本人の食文化。
7 花を食べる日本の伝統的なちえは色と形で味わい楽しむすぐれた食文化。
8 いろいろな形で味わい楽しむことは花を食べる日本の伝統的なちえ。
■松本の解
1)1段落のキーセンテンス
「あんなものどころか、そこには、日本人のちえがかくされているのである。」
2)15段落のキーセンテンス
「多くの花をいろいろな形で味わい、楽しむことは、日本人の育ててきたすぐれた 食文化の一つである。」 ・・・後に意見が変わる。やはり第1文である。
3)キーワード
「日本人のちえ」→もっと絞って「ちえ」
花を食べるにかくされている日本人のちえ
↓
日本人の育ててきたすぐれた食文化の一つが花を食べるにかくされている日本人の ちえ(38字)
すぐれた食文化の一つが花を食べるにかくされている日本人のちえ(38字)
↓
松本の解の例
日本の伝統的な食文化のちえの一つが隠されている花を食べる事。(6月の解)
伝統的な食文化の一つが花を食べるにかくされている日本人のちえ。(30字)11/26
花を食べるにかくされている食文化は伝統的な日本人のちえ。(28字) 〃
花を食べるにかくされている食文化は伝統的な日本人のちえ。(28字) 〃
日本人の育ててきたすぐれた食文化の一つが花を食べる。 〃
日本人のちえがかくされている食文化の一つが花を食べる。(27字) 〃