向山型社会科授業の全体像の解明
  1 写真資料の読み取りと
        あと一歩の詰め(1)
    
           TOSS関西中央事務局 松本 俊樹
                     
 
■以下のような内容を具体的な授業場面に即して示す予定である。

1 写真(絵)資料を読みとりさせるときの発問・指示は何か。
2 写真(絵)資料からできるだけたくさんの情報を読みとらせるにはどの
  ような指導が必要なのか。
3 たくさん出された子供たちの意見(30個、50個、100個・・・)
  を授業でどのように取り上げればよいのか。
4 写真資料の読み取りの「あと一歩の詰め」とは具体的に何をすることな
  のか。
 
 
■授業の導入で1枚の資料(写真)を示す。次のように問う。 

 この写真を見て分かること、気がついたこと、思ったことをノート
に箇条書きにしなさい。」(向山洋一氏の発問)

 
 なぜこの発問なのか。
 

@ 子供の内部情報の蓄積を図る。
 
 授業導入場面では児童の経験や情報の差が大きい。
この問いによって児童の経験や情報をできるだけたくさん引き出すことができる。
 さらに次のようなことが見えてくる。

A どれだけ書けるか(質・量)がそのまま 写真(絵)資料読みと
 り技能として評価できる。

 
 
■先の向山氏の問いは3つの内容を要求している。
 まずは「分かること」。これはかなり高度な内容といえる。
農業についての知識や経験がそのまま求められる。
「米づくりのさかんな地域である」「耕地整理がなされている」などの意見である。
抽象化、メタ認知が求められる。
事象と事象の関係や関連に関わる内容となる。
「分かること」について反応できるのは上位の児童だけである。
 次に「気がついたこと」。
これは「分かること」より意見が出やすくなる。「発見」「疑問」「はてな」の類である。「山がある」「川がある」と言った意見も「気づき」に入る。
「気がついたこと」と問うことで大方の児童は答えることができる。
 さらに「思ったこと」。「思ったこと」であるから要するに何でもいい。
知識、情報が不足していても「思ったこと」は出すことができる。
「写真が見えにくい」などの「思ったこと」でも認めることができる。
これで全員参加が保障できる。
 しかし、この「思ったこと」を手がかりに重要な追求課題を設定することができる。
例えば「この仕事は簡単そうだ(難しそうだ)」と言う意見に対して
賛成か反対かの立場に立たせその理由・根拠を調査活動させることができる。
調査活動の中で「どのような仕事があるのか」「仕事に対してどんな工夫があるのか」
「問題点は何か」などの情報を得ることもできる。
 
■「ノートに書きなさい」と作業指示がある。
「発表しなさい」といきなり指示してしまえば上位の児童、
自信のある児童だけが挙手することになる。
このように意見を持った児童に発表させるだけでは一部の児童だけの学習活動に陥る。
全員の授業参加を促すために「ノートに書きなさい」と指示するのである。
ノートに書かせるからあとでも評価・評定できる。
もちろん児童自身に自己評価させることも可能である。
 
■書かせ方は「箇条書き」である。
箇条書きに書かせるから教師も何を書いているか一目瞭然で評定できる。
 
■たくさん書かせること(量)は内容も充実させる(質)ことにつながる。
 まずは「いくつ書けたか」と問う。
数を問うのである。
まずは自分の学年分(5年生なら5個)程度は書かせたい。
やがて1枚の写真から5分間程度で(学年×5)個は書けるようにしたい。
このような数のめあては児童にも示す。
 もちろんなかなか書けない児童もある。
 このような児童にはいくつか例示を示せばよい。
例示は教師が示してもよいし児童が示してもよい。
児童が示す場合も高度な例でなくてもよい。
 「山が緑だ」当たり前のことであるが「すばらしい」とほめる。
「緑だから他のことも分かる」と言うように「なぜよいのか」も示してほめる。
 
■次にどのような読みとりをすればよいのか出てきた意見をもとに教える授業を行う。
例えば次のような問いをする。

ア「季節はいつですか」
イ「この写真はどの方角から撮った写真ですか」

 
 「季節」を問うことで箇条書きにした情報の取捨選択をさせることができる。
 「山に雪が残っているから春である」
「水田が緑いっぱいだから夏である」など。
庄内平野の米作りの学習では米作りのこよみも検討させることができる。
このようにどの資料をどう解釈したかが評価のポイントとなる。
 「方角」を問うことも箇条書きにした情報の取捨選択をさせることができる。
「山がある」「川がある」と発見した児童は「何という山か」「何という川か」を確定させなければならなくなる。その時に「地図」資料を活用せざるを得なくなる。
どのように地図を活用したか評価のポイントとなる。
 
■さらに出された意見を個別に評定する指導も必要である。
 その時には教師自身がどんな意見がよいのか明確な「ものさし」を持っておかなければならない。
 例えば「他の資料や情報と比べた意見」「分布の様子を示した意見」
「自分の解釈が入った意見」「見えない部分や空間に言及した意見(時間・季節)」である。
(参照:雪小プラン1991年)
 
■また、たくさん書けるようになると言うことはひとつの資料を「解釈」する力が身に付いたと言える。
それを評価するためには次のように問う。
 「『庄内平野は米作りがさかんだ』という意見が出ました。
米作りがさかんだと分かる資料や証拠を探しなさい。」
 写真資料、文章の資料、グラフ資料様々な資料が検討される。
 
■話をすこし戻そう。

2 写真(絵)資料からできるだけたくさんの情報を読みとらせるにはどの
 ような指導が必要なのか。
 
 さまざまな具体的な指導事例が示されてきた。
 次号では微細技術を含めて10以上の指導を授業の流れに沿って示す。