北海道の山はスケールが大きく、また、植生が本土と異なり、北アルプスの2000b以上に咲く花々が、北海道では1000bぐらいの山に咲いている。北アルプスと同様、1年に一度は訪れたいと思っている。
今回、「日本三百名山」の中でもっとも登頂が困難な山の一つと言われている日高地方の神威岳に登り、更に渡島半島最高峰の狩場山、松前半島中心部の大千軒岳の三座に登る計画を立てた。
近年、北海道では天候が不順で、昨年は台風が三つも上陸し、富良野などは浸水で作物が水に浸かるなどの被害を受けた。出発日が近づくにつれ、天気予報を見ては胸をなで下ろしたり、心配をした。
[行程]
2019年7月24日(水)
自宅6:30→羽田空港9:10→10:45新千歳空港→静内温泉→16:45 浦河町 ペンション「馬の宿」泊
25日(木)
ペンション「馬の宿」4:00→5:20神威山莊5:48→8:35尾根取り付き9:00→11:55山頂12:24→14:14尾根取り付き14:36→17:50神威山莊18:05→19:30三石温泉「蔵三」泊
26日(金)
三石温泉「蔵三」8:15→新千歳空港11:00→千歳IC→道央道→黒松内IC→16::00 島牧村 「千走川温泉旅館」泊
27日(土)
「千走川温泉旅館」8:30→狩場山登山口8:50→長万部→道央道→八雲IC→16:10 知内町 「知内温泉旅館」泊
28日(日)
「知内温泉旅館」5:50→6:15奥二股登山口6:30→金山番所跡8:30→11:00山頂11:20→金山番所跡13:30→15:40奥二股登山口15:45→17:45函館空港19:45→21:10羽田空港→11:00自宅
[山行日誌]
羽田空港で笈ヶ岳やカムエクに同行してもらった友人と待ち合わせ、北海道の新千歳空港に11時前に下りた。曇り空で肌寒いくらいの温度である。レン
タカーで浦河方に向かい、途中静内で温泉に立ち寄り、その後海岸ベリをドライブして、17時前に荻伏のペンション、「馬の宿」に到着した。4年前にペテガ
リ岳に登った際に利用したペンションで、女将が懐かしさ一杯で出迎えてくれた。その夜は近くの漁港で上がったサンマ、カレイのマツカワなどのごちそうだ
った。周りは牧場が多数有り、日本の競走馬の7割を生産しているとのことだ。夜中に時々馬のいななきが聞こえた。
翌朝、3時半に起床、4時に出発、県道から元浦川林道を走り、1時間半で懐かしい神威山莊に,5時20分に到着した。2人連れがちょうど出発するところで
これでクマの心配が無くなる、とほっとした。沢靴に履き替え、6時前に山莊を出発。天気は曇りだが雨の心配は無いようだ。ニシュオマナイ川を渡って、し
ばらく川の横を歩いて行く。最初の30分ぐらいはルートファインディングに苦労しなかったが、徐々にピンクリボンの数が減って立ち止まることが多くなる。
数年前の低気圧による出水で沢が荒れていて、倒木や巨岩が行く手を阻む。下二股(430b地点)を通過、やがて左股に入り,狭くなった沢を登り詰めると
上二股(710b地点)。ここから直ぐに左の尾根への取り付き地点に到着。山莊から約3時間弱、ここで一休みして沢靴をデポ、登山靴に履き替える。この
ルートは1967年に作られたもので、山頂に向けて800bを一気に突き上げる。約30度ぐらいの土の壁を、両側から覆い被さる背丈以上のササを払いながら,
一歩一歩進んでいく。止まるともう動けなくなるような恐怖感を抱きながら、懸命に足を動かす。平坦地が出てきたら休もうと思ったが、常に急登で前に進むし
かない。雨上がりで滑りやすいところもあり、帰りはどうしたものか、と不安一杯。それでも何とか2時間あまりで古ぼけた国境稜線の看板に到着。眺望が利
くはずだが、ガスがかかり遠望は利かない。ペテガリが見えたらと思っていたが,近くの山も見えないようだ。ハイマツと岩混じりの急登が現れ、越えるとユ
ニークな形の山名盤が現れ、山頂に到着。この頃薄日が差してきたが、まだ遠望は利かない。帰りが気になり気持ちが落ち着かない。たった30分ほどの
滞在で下山開始。
急登ではストックを仕舞い、ササ、ダケカンバ、山ブドウのつるを掴みながら下りることにした。
これは正解で、ササを掴みながらスピードを制限して、効率よく下りることが出来た。2時間弱で尾根取り付き地点まで下山。ここで沢靴に履き替え、沢を慎
重に渡っていく。疲れていて足が思うように動かないが、その分ゆっくりと時間を掛けて進み、多少迷いながら何とか18時前に神威山莊に到着した。登り
6時間半、下り5時間半の激闘だった。
下山後、林道を走り、本日の宿泊所である三石温泉「蔵三」に到着が遅れる旨の連絡をし、19時半にやっと着いた。友人と無事帰還お祝いの乾杯をし、温
泉で手足を揉んで疲れを取り、爆睡をした。
神威岳はこれまで、体力的に、そして技術的に最も厳しいと思っていた笈ヶ岳やカムエクに匹敵する厳しい山で、確かに「神」の名にふさわしい風格を感じた
翌日はゆっくり起床、妻を新千歳空港で迎えるために8時過ぎに出発した。ほぼ予定通り空港で妻を出迎え、昼食を取り、次の目的地、渡島半島
最高峰の狩場山の登山基千走川(ちはせがわ)温泉に向かった。成していて、段々畑のようであった。泉質は鉄分を多く含み身体にしみ入る気がした。
翌朝、起きたところ、雨がザーザー降りで、8時過ぎになっても止まず、狩場山は諦め、唯、次回のために登山口を確認しに行った。その後、日本海の海岸
ベリをドライブ、お土産屋で海産物を買い求めて自宅へ送った。長万部の駅で友人と別れ、妻と二人、道央道を走り、八雲ICで下りて、ネットで調べた寿司
店に立ち寄り、新鮮な魚貝の握りに舌鼓を打った。本日の宿泊地、函館近くの知内温泉に16時頃到着。宿で尋ねて大千軒岳の登山口である奥二股の場
所を下見に行き、17時前に戻って来て、温泉に入った。この千走川温泉も昨日とほぼ同じ泉質のようで、規模は幌加温泉ほどではないが、風呂場は歩くと
き痛いくらいに硫黄と石灰岩の層が段々畑になって波を打っていた。
翌朝、5時半に起床、準備をして出発、6時半に奥二股の登山口に到着。車が2台駐まっており、本日もヒグマの心配はいらないようだ。天気は高曇り、絶好
の登山日和で、また、毎年7月の最終日曜日に開催される「追悼ミサ」に立ち会えるかも知れない、との見通しも少し有った。江戸時代、この地に金山が有り
被害を逃れたキリスト教徒がここでキリスト教を信じながら働いていたが、取り締まりが厳しくなり、106名のキリスト教徒が磔の刑に処せられた。この殉教者
達を悼み、函館に住む教徒がミサを開いている。最初はブナ林の中を進み、奥二股川を渡って知内川の本流に出て、ここから大小の高巻きやへつりが続き
「広い河原」を徒渉。ここから川岸を1時間歩いて金山番所跡地に到着。小高い岩の上に巨大な真っ白い十字架が置かれている。我々も手を合わせ、信仰ゆ
えに殺戮された殉教者達に思いを馳せる。ここまでコースタイム通り2時間かかった。千軒銀座を越え、更に沢を渡って、大尾根に取り付き、いよいよ急登が
始まった。神威岳に比べれば問題なく歩きやすいが、それでも汗が噴き出てきて息が弾む。お休み台を通過、約1時間半で千軒平に到着。
ガスがかかってはっきりしないが、辺り一面お花畑で、ニッコウキスゲの黄色い花が風に揺れて、不思議な光景を生み出している。
ミヤマキンバイ、エゾノハクサンイチゲ、ハクサンチドリ、ヨツバシオガマなどの高山植物も一面に咲き誇っている。千軒平から30分ほどで山頂に到着。山頂
には北海道最初の一等三角点とその説明盤がある。視界はほとんど無く、山座同定の楽しみは次回にお預け。20分ほどで昼食を食べ、靴のひもを締め直し
ストックを延ばして下山開始。15時までに登山口に戻れば、知内温泉で入浴と考えていたが、帰りもなかなか厳しい。金山番所まではほぼ予定通りで,ちょ
うど行われていた殉教者追悼ミサを見学しながら下りたが、広い河原の先の高巻きが疲れた足に堪えて、どんどん遅れ始め、最終的に登山口に着いたのが
15時40分、知内温泉を諦め、直接函館空港に向かい、妻と交互に運転を代わって、車中で着替えをし、レンタカーの返却所にフライトの2時間前に到着。
空港内で食事をしたりお土産を購入したりして過ごし、自宅には11時に着いた。
今回の北海道遠征は、残念ながら狩場山には登れなかったが、難関の神威岳、お花畑に取り巻かれた大千軒岳に登頂できた。どちらも滑落の危険が有り、
無事に戻れたことに感謝をするとともに、静内、三石、千走川知内の4つの温泉を楽しみ、また、北海道沿岸のウニ、アワビ、カレイのマツカワなど、海の幸
をたっぷり味わえたことで、今回の遠征にとても満足している。
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